Author Archives: 永井 潤子

福島の原発事故とシューベルトの「魔王」

みなさんはシューベルトの代表的な歌曲「魔王」をお聞きになったことがおありだろうか。私は今年5月19日に亡くなったドイツのバリトンの名手、フィッシャー=ディスカウ)の CDで、この「魔王」を久しぶりに聞いてみた。子供の死という恐ろしい出来事を予感させるような前奏で始まるこの曲は、ドイツの文豪ゲーテの詩をもとにつくられている。子供をさらう魔王、子供と父親の会話、語り手の語りからなるシューベルトの曲は非常にインパクトが強く、私は改めて強い印象を受けた。ゲーテの詩に基づくこの「魔王」を原発事故と結びつけて講義した大学教授がいる。 続きを読む»

脱原発決定から1年

気がついたらもう1年が経つ。ドイツ政府が 脱原発の方針を閣議決定したのは、去年6月6日だった。国内に17基ある原発のうち福島の原発事故後早々と運転を停止した8基の再稼働はせず、そのまま閉鎖、残りの9基は2015年、17年、19年に1基ずつ操業停止、2021年に3基、2022年に最後の3基も止めて全廃するという脱原発に向けての具体 的な行程表が決定された。同時に核エネルギーに代わって風力など再生可能な自然エネルギーへの転換をはかって行く方針も決められた。この政府案をドイツ連邦議会が激しい論議の後賛成多数(賛成513票)で承認したのが、6月30日で、歴史的な決定とみなされた。反対票(79票)の多くが「11年後に脱原発 を実現するという政府案は時間がかかりすぎる」という理由での反対票だった。ドイツの憲法である連邦基本法に脱原発を明記するべきだと主張した左翼党の議員たちもその要求が入れられなかったため反対票を投じたが、脱原発そのものに反対した議員はごく少数だった。この日、原子力法や再生エネルギー法改正案など8つの関連法案が連邦議会を通過し、7月8日、連邦参議院もメルケル内閣の脱原発の方針を承認、法的手続きがすべて完了した。福島第一原発の事故から 3ヵ月あまりのスピードぶりだった。 続きを読む»

現メルケル内閣の多彩な顔ぶれ

先日の夜、公共テレビのニュースを見ていて、何人かのドイツの閣僚の発言などを聞いているうちに、現メルケル内閣の顔ぶれの多彩さを改めて認識した。そして日本ではちょっと考えられない人間的顔ぶれではないかとも思った。何を持って多彩というかは、この原稿をお読みになってのお楽しみであるが。

続きを読む»

東部ドイツで太陽が沈む?

危険な核エネルギーに代わるクリーンなエネルギーとして一段と重要性が高まっている太陽光発電、特にこの10年あまりのドイツでのソーラー産業の発展はめざましいものがあった。しかし、国の手厚い自然エネルギー促進政策に守られて一時期世界のトップ企業にのし上がったソーラー関連の各企業が、最近では中国製の安いソーラーパネルとの競争に敗れて次々に失速、業績不振や倒産に追い込まれている。さらに政府の太陽光発電促進政策の見直し、補助金の大幅カットが追い打ちをかけ、倒産企業は増える一方だが、その結果、ただでさえ産業構造の基盤の弱い旧東ドイツ地域が大きな打撃をこうむることが憂慮されている。東部ドイツ各州が特にソーラー産業の育成に力を入れてきたからである。 続きを読む»

脱原発にも関わらず、温室効果ガス減少

脱原発反対派やドイツの大手エネルギー・コンツェルンRWEやE.on社などは、脱原発のプロセスが進んだら、温室効果ガスが増加し、気候温暖化に著しい悪影響をもたらすと主張してきた。しかし、去年、福島原発事故の3カ月後に脱原発の方針を決定し、17基のうち8基の原発の操業を停止したドイツで、温室効果ガスが減少したことが明らかになった。 続きを読む»

ドイツの太陽光発電促進政策の見直し

南の国々にくらべて太陽に恵まれない(特に冬は日照時間が短い)ドイツは、もともと太陽光発電に適した国とは言えないが、そのドイツでソーラー・パネルが増え続け、世界のトップの位置を占めるようになったのは、国の自然エネルギー促進政策のおかげである。ドイツは自然エネルギーによる発電を促進するため、2000年(社会民主党と緑の党が連立を組んだシュレーダー政権のもとで)再生可能エネルギー法( Gesetz für den Vorrang erneuerbarer Energien. 略称EEG)を施行(その後何度か改正)、太陽光など自然エネルギーによる電力を固定価格で買い取る制度を導入してきた。これまでは発電開始時の固定価格で20年間、全量の買い取りが保証されてきた。また、ソーラー・パネルの設置にあたっては、補助金や有利な融資も行なってきた。こうした魅力的な条件と国民の自然エネルギーへの意識の高まりのため、ソーラー・パネルを取り付ける個人や太陽光大型プロジェクトの数は年々増え続け、最近はソーラー・パネルの値下がりの影響もあって、特に過去2年間に新規パネルの設置が驚異的に増加した。国の手厚い政策は太陽光発電の普及とソーラー産業での雇用の増大には貢献したが、その反面、マイナス面もいろいろ指摘されるようになった。

続きを読む»