電気自動車は本当に環境に優しいのか

ツェルディック 野尻紘子 / 2019年4月7日

トヨタを抜いて、現在世界最大規模の自動車メーカーになっているドイツのフォルクスワーゲン(VW)が、同社の生産する電気自動車の割合を、2030年までに40%に上げるという内部ペーパーが表に出て以来、大きな波紋を巻き起こしている。欧州委員会(EU)がこのほど最終決定した、「2030年の時点に許容される新車の二酸化炭素排出量を、2021年比でマイナス37.5%とする」という高い目標値を達成するためには、他の道がないからだという。しかし、電気自動車は果たして環境に優しいのだろうか、本当に環境保護に貢献するのだろうか。

電気自動車にはまず電池が必要なのだが、電池の生産には非常に大量の電力が必要になる。スウェーデンの科学者ミア・ロマーレとリスベット・ダールロフが2017年に発表した研究結果によると、例えば、容量30 kWhという決して大きくないイオンリチウム電池を生産するために、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料で発電した電力を使用すると、約5トンも二酸化炭素が排出されるという。100 km 走るのに5リットルのガソリンを必要とする小型ガソリン車なら、車の排出する二酸化炭素がこの5トンに達するまでには、3万6500 km も走れる。

では、走行距離が3万6500 km 以上になると、電気自動車の方がガソリン車より環境に優しくなるだろうか。まだそうとは言えない。電気自動車が、どんな電力を充電するかが問題だからだ。ドイツ連邦環境庁が数日前に発表した統計では、太陽の燦々と照る夏の日が異例に多かった2018年でさえ、太陽光や風力で発電された電力がドイツの全電力消費に占める割合は37.8%でしかなかった。ということは、電気自動車が充電する普通の電力の約50%は、相変わらず化石燃料で発電されており、発電の際に二酸化炭素を多量に排出しているのだ。

小型の電気自動車が100 km 走行するために必要とする電力は約18 kWh だという。この車が現在、普通の電力を充電した場合の走行距離1 km当たりの二酸化炭素排出量は約90 g だという。つまり電気自動車は、将来的に自然電力の割合が増えれば二酸化炭素の排出量が減るのだろうが、現時点では、1 km走るごとにまだ90 g の二酸化単を排出している計算になる。

一方、5リットルのガソリンで100 km 走行できる小型自動車は、ガソリンの生産の際に排出される二酸化炭素も含めると、走行距離1 km当たり137 g の二酸化炭素を排出しているという。走行中の電気自動車からは、確かに二酸化炭素は排出されない。

しかし電気自動車の二酸化炭素の総合排出量が、ガソリン車のそれを下回るのは、この例では、走行距離が3万6500 km を超えた時点ではなく、(電気自動車は最初の3万6500 kmを走っている間にも二酸化炭素を排出している計算になるので)10万km を超えてからだという。つまり電気自動車の方が環境に優しくなるのは、走行距離が10万km以上になってからだ。そして電気自動車の寿命を15万km とした場合に、廃車になるまでに節約できる二酸化炭素の量は2.35トンだという。ただ、燃費がガソリン車よりずっと良いディーゼル車との比較では、走行距離が20万km 前後になって初めて、電気自動車の方が環境に優しくなるという。20万kmというのは、車の寿命としてはとても長い方だ。

電気自動車には現在、1回の充電で走れる距離が短いことや充電に時間のかかるという問題がある。例えば現時点では、電気自動車で長距離が走りたい人は、約250 kmごとに、充電のために約1時間の休憩を取らなくてはならなくなる。それを避けるために車に大きな電池を装備すると、今度はその電池の生産のために二酸化炭素の排出量が増え、重い電池を車に搭載するので車の燃費も上がるという問題を抱えてしまう。また、ドイツにはまだ電気自動車の充電スタンドが十分にないので、その整備が急がれるが、そうすると、スタンドの建設でも二酸化炭素が排出されることになる。さらに電気自動車の台数が急に増えると、それに伴い電力の需要も急増するわけだが、それに自然電力の発電量がついて行けず、環境に優しい電力が全供給電力に占める割合が低下する危険もある。電気自動車を2030年までに全生産台数の40%にもするというVWの計画は本当に環境に優しいだろうか。私は疑問に思う。

VWは、自社の電気自動車の割合を増やすことにより、自社の製品から排出される二酸化炭素の量を減らそうとしている。しかし、実際には電気自動車に必要な電池や電力の生産、充電スタンドの建設で排出される二酸化炭素の量を、計算に入れていない。これはEUの規制にも言えることだが、走行中の車の二酸化炭素排出量だけを問題にするのは、不十分で、本当の問題解決には繋がらないのではないかと思う。

2 Responses to 電気自動車は本当に環境に優しいのか

  1. Nagomi Norimatsu says:

    植樹をしましょう! 家畜を減らしましょう! 節電しましょう!二酸化炭素対策は わたしたちの生き方を変えることでしか解決できないのではないでしょうか?
    便利さ 快適さだけを求めることをやめ、人間の意識を向上させるためにも こちらにある記事はとても貴重です。とても勉強になります。有難うございます。

    • ツェルディック 野尻紘子 says:

      コメントありがとうございます。地球の温暖化を抑えるためには、みんなが、本当に意識して生きていかなくてはなりませんね。お互いに頑張りましょう。