ベルギーの原発もテロの目標か?
3月22日に起きたブリュッセル国際空港と地下鉄のテロ事件に関して、副次的に伝えられた「ベルギー国内の二つの原発で、作業員を退避させ、必要最小限の人員だけで運転を行っている」というニュースに、はっとしました。
ベルギーの原発といえば、老朽化していて最近も立て続けの事故を起こしながら、ベルギー政府が稼働を延長してきました。特に南部にあるティアンジュ原発はドイツ西部の国境の町アーヘンから60kmほどしか離れていないため、ドイツでも停止を求める声が高まっていました。
今回ベルギー治安当局が、このティアンジュ原発と北部に位置するドール原発で働く作業員を退避させた理由は、この二つの施設がテロの標的となる可能性があったから、あるいは作業員になりすましたテロリストが、原発の内部にいる可能性があったからのようです。昨年11月に起きたパリのテロ事件に関する一連の捜査の中で、ベルギーとフランスの当局が、事件の準備に関わったと見られるモハメド・バッカーリ容疑者の妻の自宅を捜査しました。ドイツのシュピーゲル誌が伝えるところによると、その際に発見されたビデオには、核エネルギー研究所(SCK-CEN)の所長が自宅に出入りする様子が映っていました。
この研究所では世界需要の20〜25%に当たる放射性核種を作っているそうです。主にガン治療に使われていますが、悪用すればダーティー・ボンブ(放射性物質をまき散らす爆弾)にもなり得ます。ベルギーの原子力監視委員会の広報担当官は「家族を誘拐して脅迫し、この物質を入手しようとしていたかもしれない」という発言をしています。
これまでにもベルギーの原発に関しては、こわい話がありました。
2014年10月、ドール原発の厳戒エリア内で、2012年までの3年間、ジハディスト(イスラム過激派)が働いていたことが発覚しました。
2014年夏にはドール原発で、蒸気タービン用の石油6万5000リットルが流出してそれが過熱し、自動的に停止しました。タンクは手動でしか開けられないため、ベルギーの原子力監視委員会と原発を運営するエレクトラーベル社はサボタージュ(妨害工作)ではないかと疑い、地元検察が捜査を始めましたが、解明には至りませんでした。同年12月には、同施設の上をドローンが飛んでいたことも分かっています。
ベルギーだけでなく、フェッセンハイムなどフランスの原発の上空でもドローンが飛んでいたことがあり、2015年11月にグリーンピース・インターナショナルが、「事件が解明されるまで原発を停止するよう」要求。原発がテロの標的となる怖れを訴えかけていました。
欧州の原発でも、作業員たちの多くは下請け会社に雇われており、身元の確認がずさんになっていた可能性も指摘されます。だから今回の「退避」になったのだと思います。そのことを考えるとぞ〜っとします。
原発へのテロ問題に関連して、日本の「日刊ゲンダイ DIGITAL バックナンバー2016年3月29日」に、次のような記事がありました。参考になればと、コピーさせていただきました。
危機をデッチ上げた安保法制より原発テロ対策が急務だ
ベルギーの連続テロで注目された原発テロへの対策だ。
ベルギーのテロリストたちは当初、原発を狙っていた。自爆死したイブラヒム・バクラウィ(29)、ハリド・バクラウィ(27)の両容疑者が同国北部モルの原子力施設に勤める技術者の動向をひそかに撮影していたのである。
「この事実は昨年末の家宅捜索で判明していて、治安当局は原発などの警備を強化、2月から140人の兵士を配置しました。原発テロが察知されたので、狙いを空港テロに切り替えたのではないか。そんな見方が有力ですが、このニュースは日本にとっても衝撃です。日本ほど原発テロに無防備な国はないからです。テロリストに狙われたら、一発でやられてしまう」(ジャーナリストの横田一氏)
安倍政権が本当に日本国民の生命、財産を守りたいのであれば、最優先で取り組むべきは原発テロ対策であって、そのコストと困難さを考えれば、原発は止めたままにしておくべきだ。戦争法案よりもこっちの方がよっぽど重要なのである。
実際、日本の原発のテロ対応を見ていると、背筋が寒くなってくる。
横田氏の近著、「亡国の首相 安倍晋三」にはお寒い対応が「これでもか」とばかりに出てくる。中でもショッキングなのは米国原発メーカーGEの元技術者で原子力情報コンサルタント会社代表の佐藤暁氏のこんなコメントだ。
「米国では、全原発施設を150人の部隊が最新鋭の武器を持って守っています。原発テロを想定した模擬訓練も定期的に実施。テロリスト役の仮想部隊(敵チーム)が国内の約60カ所の原発を“転戦”、各施設の部隊と模擬的に戦うことで実戦能力をチェックしていく。その時のシナリオも『自爆覚悟のテロリストが水陸同時に攻めてくる』『内部に内通者がいる』『核燃料交換で格納容器が開けられる最も脆弱なタイミングで襲ってくる』といった厳しい場合を想定しています。その内容は『設計脅威』と呼ばれ、公開されてもいます」(同書から)
それに対して、日本はどうか。
「米国と日本は原発テロに対する考え方も対策レベルも全く違う。日本では、武器を持てない原発施設の警備員はもちろん、装甲車を配備している程度の警察も、武装テロリストを食い止められるとは考えにくい。日本でも05年に原発テロを想定した避難訓練を実施したことはありますが、テロリストがすぐに逮捕されて『他のメンバーが山間部と海上に逃亡』と自白するなど非常に甘いシナリオでした」(同)
■9・11の時も原発施設が狙われていた
要するに対テロ対策は全く手つかずということだ。本当かと思って東京電力に聞くと、「(テロ対策については)一切、広報していない」と言った。それなりの対応を取っているのであれば、それを公表すれば、抑止力になるが、そうしない。本当に“丸腰”同然なのだろう。
実は9・11の際、ニューヨーク州の原発もテロリストの攻撃対象候補のひとつだったことが分かっている。そこで科学者同盟が被害額を独自に試算したところ、とんでもない数字が出てきた。
最悪の場合、急性被曝死者は4万3700人、晩発性がん死は51万8000人、永久移住者は1110万人、経済的損失は2兆2100億ドル(約265兆円)に上るというのだ。
だから、米国では新規原発には格納容器の二重化を義務付け、既存の原発にも二重化と同等か近いレベルの対応を義務づけている。何もしていない日本はお話にならないのだ。
改めて、佐藤暁氏に聞いてみた。
「日本の原発は世界一脆弱だと思います。津波や地震よりもテロに弱い。原発テロなんて、絵空事と考えていたらとんでもない話です。ベルギーでもニューヨークでも攻撃対象として検討されたし、フランスでは環境団体グリーンピースが原発施設への侵入に2度成功。危機をアピールしています。2011年12月には格納容器のてっぺんへの登頂に成功、2012年5月にはエンジン付きパラグライダーで格納容器の真上を飛行し、発煙弾を投下、敷地内に着陸しています。原発は空からの攻撃に弱いのです。また原発に電気を供給する送電線や使用済み核燃料を保管する燃料プールも狙われやすい。米国では核燃料プールのリスクを重要視し、水冷方式をやめて、核燃料の乾式貯蔵に切り替えているほどですが、日本は何もしていません」
丸腰の原発を海辺に並べておいて、「テロには屈しない」と叫ぶだけの単細胞首相は怖くなる。いや、テロリストではなく、北朝鮮が海から携帯型対戦車ロケット弾を発射する可能性だってある。
そんな状況で原発再稼働なんて、ホント、狂気の沙汰なのだが、他にも丸腰原発の危なさについて、警鐘を乱打している人は大勢いる。
■戦前の「人でなし政権」と同じ穴のムジナ
元陸上幕僚長の冨澤暉氏もそのひとりだ。
「日本の原発テロゲリラ対策は他国よりかなり遅れている。早急に対策を講じないと福島第1原発事故以上の惨事を招くことになりかねません。なにしろ、テロ対策は一義的には警察の役割で、自衛隊はやりたくてもそういう治安活動の訓練はしていないのです。テロゲリラにとっては、日本の原発は非常に狙いやすい脆弱な状態です」
もうひとり、小泉純一郎元首相。
「世界の人はみんな言っていますよ。『日本の原発はいちばんテロに弱い』と。テロであのアメリカの貿易センターみたいなことをやられたら、もう原発はおしまい。この福島どころでは済まない。(安倍首相が言うように、日本の安全基準が世界で)いちばん厳しいのだったら、国民に『どこがアメリカやフランスや他の国の原発に比べて、いちばん厳しくて安全なのか』の説明があってしかるべきでしょう。何にもないのです。それで、また再稼働させようとしている。呆れてしまいます」(2015年3月の福島県喜多方市での講演)
痛烈な安倍批判をぶちかました小泉は、この時、こう続けたのが印象的だった。
「『満州を失ったら日本は駄目になる。日本の生命線だ』と言われた。(しかし敗戦で)満州、台湾、朝鮮を失って、それでも戦後日本は発展をしてきている。石油ショックがあったおかげで日本は環境先進国になった。政治が原発ゼロに舵を切れば、必ず自然エネルギーで経済成長ができるような国になるんです」
原発を再稼働させなければ、「日本経済が持たない」ような言い方をする安倍政権は、国民を騙して戦争に突き進んだ戦前の人でなし政権と同じ穴のムジナだということだ。そんな政権が今再び、戦争法案を手にして、近隣諸国を挑発し、テロリストたちを刺激する言動を繰り返している。
「これでは1億総活躍どころか1億総玉砕になりかねません」(横田一氏=前出)
改めて、この政権の暴走は止めなければならない。