ロシアからのガス輸入が滞っても、この冬のEUは大丈夫
ガス輸出大国のロシアとウクライナ間の紛争がいくらか鎮静してきたとはいえ、この冬のドイツ及び西ヨーロッパのガス供給に危険はないのだろうか。ロシアからの大量のガスがウクライナ経由のパイプラインを通って同地に来ているからだ。
ケルン大学のエネルギー経済研究所(Energiewirtschaftliches Institut)の研究者によると、ドイツの場合、ロシアからのガス輸入が途絶えても3ヶ月は問題がない。まず、年間需要である約840億 ㎥ のガスの4分の1強が現在、各地にあるガスの地下貯蔵施設と全国を張り巡らすガスパイプに蓄えられているからだ。また、ロシアのガスは同国の需要の3分の1強をカバーしているだけで、他の3分の1強はオランダやノルウエーなどの北海に面する国から来ており、ドイツの自給率も約10%となっている。ドイツで貯蔵されているガスは更に、水素で5%まで 水増しても質が落ちないという。
それでも、ロシアからの輸入が6ヶ月途絶えると、ドイツでもガスの供給がいくらか苦しくなるだろうという。ただドイツのロシアからのガス輸入は、どちらかというと南回りに当たるウクライナ経由で全てが来ているのではなく、バルト海を通る北回りのパイプライン、ノルドストリーム経由でも来ている。
欧州連合(EU)は、ロシアがこの6月に対ウクライナへのガス輸出を停止したことを受けて、 圏内でのガス供給の安全評価(ストレステスト)を遂行した。2009年には、ウクライナへのガス納入中止が圏内にも悪影響を及ぼしたからだ。このほど発表されたその結果によると、ロシアがEU向けの全ての輸出を停止するという最悪の状況が起きた場合には、暖房が行き届かず、冬場に何百万人もが 寒い思いをすることになり、ガスの価格が上昇し、産業界が生産を落とさなければならなくなるだろうという。しかし、EUにはガス輸入元の選択肢もあり、またロシアの納入停止の影響がどうなるかは、圏内の国々がどう協力するかにも多く掛かっている。
9月から2月までロシアからの輸出ストップがあった場合、EUで不足するガスは需要の22%に当たる。その内の3分の1は液化天然ガス(LNG)で、20%はガス貯蔵装置から、13%はノルウエーからの輸入の増加で、そして4%は自給で補えるという。現在、EUのガス貯蔵装置は90%まで満たされている。ただ、ウクライナの貯蔵装置には50%しかガスが入っておらず、これは冬場を安全に乗り切るためには少な過ぎだという。
2009年にロシアがウクライナへのガス納入を断ったのは僅か2週間だったが、その時にはEU内の協力がうまく行かなかった。当時最も厳しい状況に置かれたのはブルガリアとスロベキアだった。今回のストレステストでは、ロシアからのガス輸入が冬期6ヶ月途絶えることを想定した。その際に最も大きな被害を被るのはエストニアだろうという。他国からの援助がない場合、エストニアでは5日後に病院や個人の住居がガス不足で困難に陥る。ブルガリアとフィンランドの状況も良くない。両国がほぼ完全にロシアからのガス輸入に頼っているからだ。しかしフィンランドだけはかなり簡単にエネルギー源をバイオマス(木材)に切り替えることが出来るという。また、スロバキアの状況は2009年より改善しているのが事実のようだ。
ロシアのガス輸出停止がウクライナ経由だけに限られる場合には、フィンランドやバルト3国には影響が出ない。ドイツもノルドストリームがあるので、ウクライナ経由でガスが来なくなっても殆ど困ることはない。ただ、欧州連合単位での協力が必要となると、オーストリアやイタリア同様、ガスの供給量が約10%減るだろうという。しかし「協力が成立すれば、圏内の家庭や重要な施設でガス不足のために暖房の出来ない国はなくなる」とストレステストの結果を発表した エッティンガーEUエネルギー担当委員は話す。ただ、産業界への影響は避けられないだろうとも語る。しかしEU全体としては、ロシアとウクライナ間の話し合いが進み、解決策が見つかるだろうと、楽観視しているのだそうだ。
なお、EUのストレステストはガス料金に関しての調査をしていないが、国際エネルギー機関(IEA)は、ロシアのガス輸出が停止した場合に、世界市場でのLNGの価格は現在の約2倍になるだろうと推定している。
また新聞報道によると、リトアニアにはこのほどLNG貯蔵用のターミナル船が到着した。このターミナルの容量は30〜40億 ㎥ で、それだけの量のLNGを各国の輸送船から買い求めた場合、バルト3国のガス需要はロシアからの輸入に左右されなくなる。ちなみに、同ターミナルは「インディペンデンス」と命名されているそうだ。