「世界を救うのは困難」 - 非常事態宣言下のパリで開催されるCOP21

あきこ / 2015年11月29日

11月30日から12月11日まで、195ヶ国が参加して、2020年以降の温暖化対策の「新しい枠組み」を決めるためのCOP21(国連気候変動枠組み条約締約国会議)がパリで開かれる。この重要な会議を前にして、いくつかの気になるニュースをまとめた。

最初に、以下に取り上げたニュースは、全く私の個人的関心や注意を引いたものであることをお断りしておく。

1.「世界を救うのは困難だ」

これは、ドイツの非営利政治財団であるフリードリヒ・エーベルト財団が発行している11月3日付のオンライン・ジャーナルで発表された寄稿文のタイトルである。CAN(Climate Action Network)ヨーロッパのディレクター、ヴェンデル・トリオ氏による執筆で、この文中に気になる一節があった。2020年以降の温暖化対策の国別目標案(INDC、Intended Nationally Determined Contribution)について述べられた一節である。同氏は「いくつかの国(例えばブータン、コスタリカ、エチオピア、モロッコ)は非常に野心的であるのに対して、全く野心を示さない国々がある(オーストラリア、カナダ、日本、ロシア)」と書いている。これはどういうことなのかと思い、いろいろ調べてみた。日本政府が提出した目標案は「2013年比で2030年までに26%削減」となっている。CAN-Japanはこの数値について「2013年は近年で最も温室効果ガス排出量が高く、この年を基準にすることで低い目標を不誠実にかさ上げしたもの。世界第5位の大排出国であり、一人あたり温室効果ガス排出が世界平均より高い日本にとって、この目標案は公平なものとはいえない」と厳しく評価している。2013年比26%というのは、1990年比(EUやアメリカが基準にしている)では18%の削減にしかならない。トリオ氏が日本の目標数値を「全く野心的でない」というのも頷ける。

2.11月13日以後のパリ

11月13日の連続襲撃・爆破事件があった後、すぐにオランド大統領は非常事態宣言を出したが、COP21は予定通り開催というニュースがあった。非常事態宣言では、公共の場所での集会を禁じているため、COP21の開催前の11月29日と開催後の12月12日に、それぞれパリで予定されている環境運動グループによる大規模なデモが禁じられるのではないかという不安の声が上がった。ドイツのリュヒョー=ダンネンベルグの市民運動グループもすぐにこの不安に反応し、11月17日付のニュースで「現在、我々はパリの仲間たちと緊密に連絡を取り合っている。もし集会禁止が出された場合、禁止に反対のデモをするつもりはない。しかしCOP21を自由と民主主義の象徴としてコメントなしに終わらせ、その一方でCOP21への反対の声を封じ込めることに組みすることはできない。自由で開かれた社会には、音楽、文化、スポーツだけではなく、特に政治的な集会やデモも含まれている。フランスの現在の特殊な事情を踏まえながらも、我々はCOP21に対して持っている人々のメッセージを伝える術を探りたい。我々の仲間と話し合いながら、パリ以外のデモの場所がないかどうか検討している」というステートメントを発表した。

11月23日付のベルリンの反核市民運動団体「アンチアトム・ベルリン」のニュースレターは、パリでのデモが最終的に禁止されたことを告知した。アンチアトム・ベルリンは、パリでのデモが禁止された以上は、世界中のできるだけ多くの場所で、COP21に厳しい視線を向けるデモが開かれるべきだと主張する。ベルリンをはじめドイツ各都市でも11月29日に「グローバル・クライメイト・マーチ」が行われ、パリで声を上げることが禁止されたフランス人たちを代弁することになっている。

3.ユニセフがCOP21を前に緊急アピール

11月24日、「すべての子どもの権利と健やかな成長を促進するために活動している国連機関のユニセフが、COP21で地球温暖化に対する対策で合意するように訴えた」とドイチュラントフンクがニュースで伝えた。ニューヨークで発表された報告によると、世界中で約7億の子どもたちが気候変動の脅威にさらされているという。洪水や干ばつの危機にさらされた地区に住む子どもたちの多くが、現時点ですでに貧困の中で生活している。ユニセフのレーク事務局長は、「子どもたちは気候変動には責任はないのに、その結果は彼らに重くのしかかっている」と指摘したというニュースである。このニュースについては、以下のサイトで日本語でも読める。

http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000601.000005176.html

 

この記事を書くに当たって様々なニュースを読んだ。COP21には直接関係しないが、驚くことがいくつかあった。その一つは、パリ連続襲撃事件の中でも最大の犠牲者が出たバタクラン劇場でのコンサートに出演していたバンド「イーグル・オブ・デス・メタル」が、ロナルド・レーガンやジョージ・ブッシュJr.の支持者であり、バンドの創立メンバーの一人が全米ライフル協会のメンバーだということだ。このバンドはパリの事件後、ドイツをツアーする予定だったが、このツアーはキャンセルされた。ドイツのコンサート主催者は、「彼らのコンサートだから標的にされた可能性は排除できない。パリに来る直前、彼らは反イスラエル団体によるコンサート中止の要請にもかかわらず、イスラエルツアーをおこなったからだ」と述べている。(ベルリンの日刊紙「ターゲスシュピーゲル」11月14日および同19日付より)。

もう一つは「Don’t nuke the climate」というキャンペーンが国際的に広がっているということだ。「気候に核攻撃をするな」という意味なのだろうが、原子力産業が温室効果ガスを出さない、気候変動を起こさないエネルギーとして、原子力発電所の再生を狙っていることに反対するキャンペーンである。とくに原子力産業が注目しているのがアフリカである。「30年前に建設された唯一の原発を持つ南アフリカが、新たな原発を建設するようなことがあれば、アフリカ諸国で原発建設の連鎖反応が起きることは止められない。ロシア、中国、フランス、アメリカ、日本、韓国、カナダが競い合っている」とアンチアトム・ベルリンは書いている。

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