原発稼働延長? ノーサンキュー!

ツェルディック 野尻紘子 / 2019年7月7日

ドイツ人が今、最も憂慮するテーマは気候変動問題だと言う。背景には、猛暑と干ばつの酷かった昨年のドイツの夏があるようだ。この冬もこの春も、気温は例年になく高く、雨も雪もほとんど降らずに、地面が極度に乾燥している地方は多い。そして市民は、これを気候変動の影響だと受け止めている。そこに、ドイツでも昨年末から始まった生徒たちによる気候変動対策の強化を求めるデモ、「Fridays for Future(未来のための金曜日)」が拍車をかけている。ここにきて、気候変動防止のために、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素をほとんど排出しない原子力発電の稼働延長を支援する声も聞こえてくる。原発を操業している電力会社はどう考えているのだろうか。

©️flightlog

最初に原子力発電を話題に持ち出したのは、よりによってFridays for Futureを始めたスウェーデンのグレタ・トゥンベリさんだ。自分は反対だとしながらも、自身のフェースブックに、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が地球温暖化防止の選択肢の一つとして原発をあげている」と書いたのだ。電気自動車やヒートポンプを使った冷暖房など、これから電力の消費は世界中で増える一方だ。専門家たちは将来の電力の需要を、少なくとも現在の1.5倍から2倍になるとしている。そして需要をカバーするために原発が貢献するのではないかと論じている。原発の特徴としては、二酸化炭素の排出量が風力発電と同じぐらい少ないこと、発電に必要な面積が少なくてすむこと、さらに発電が常時可能なことをあげている。

IPCCの報告書作成に参加した、在ベルリンのメルカトル国際公共財気候変動研究所(Mercator Research Institute on Global Commons and Climate Change)のザビーネ・フースさんは、「私たちは推薦状を書いたのではありません。決断を下すのは各国政府です。また、早期に脱原発することで、気候変動防止のための目標が達成できないわけではありません。しかし、費用は高くなるでしょう」と語る。

生徒たちのFridays for Future を支援する「Scientists4Future (未来のための学者たち)」の中心人物、ベルリン技術経済大学のフォルカー・クヴァシュニング教授は、「原発は選択肢に入らない」と言い切る。原発で避けられる二酸化炭素の量はしれており、原発の危険とは比較にならないというのだ。アーヘン工科大学のディルク=ウーヴェ・ザウアー教授は、「再生可能電力と原発を同時に促進するのは意味がない。今必要とされるのは、風が吹かず太陽の出ない時にすぐ発電が開始できるガス火力発電だ」と語る。ただ、「新しい原発の建設には経費がかかり経済的にも不利だが、既存の原発の稼働継続は採算が取れる」とも言う。

「だから将来的には原発を減らそうとしているフランスは、よりフレキシブルな原発を最後まで残そうとしている」と主張するのは物理学の権威エーバーハルト・ウムバッハ教授で、「そのために発生する放射性廃棄物の量は限られている」と発言する。「しかし、どちらにしても最終処理場かあるいは放射能の危険を取り除く方式を見つけなくてはならない」とも付け加える。

こうした原発を巡る議論に参入し、このほどドイツ人をびっくりさせたのは、フォルクスワーゲン(VW)のヘルベルト・ディース社長だ。この春、同社の生産する電気自動車の割合を2030年までに40%に上げると発表した同氏が、ドイツ政府の環境保護政策を間違っていると批判し、「地球温暖化が防ぎたいなら、我々は二酸化炭素の排出を減らすべきだ。環境保護が大切なら、我々は原発の稼働期間を延ばすべきだ」と発言したのだ。同氏は現在世界中で500の石炭火力発電所が建設されており、さらに500の石炭火力発電所の建設が計画されていると指摘し、「世界的規模で石炭の採掘を制限すれば、気候保護目標は達成できる」と主張する。与党キリスト教民主同盟(CDU)の保守派の小さな派閥である「価値観同盟」からも原発稼働延長の声が上がっている。

しかし、まだ原発を稼働している肝心のドイツの電力会社EnBW、RWE 、Eonは、ベルリンの日刊紙「ターゲスシュピーゲル」の原発稼働延長に関するインタビューの申し出を真に受けもしなかったという。問い合わせに対して返ってきた答えは、「稼働延長は社内でテーマになっていません」、「我が社は廃炉処理の最中です」、「その話は終了しています」といったそっけないものだったそうだ。まだ稼働しているドイツの原発は収益性が高く経済的には十分儲かっているのだが、電力会社は、ドイツの脱原発決定の背後にある政治的、社会的な確固たるコンセンサスに逆らおうとはゆめゆめ考えていないのだ。原発稼働が終わり、廃炉処理が済めば、放射性廃棄物の責任が国に移ることも決まっている。これらの電力会社が、前向きに再生可能電力の推進に力を入れているという事実は、ドイツのメディアで度々報道されている。

過去にドイツで行われた長い反原発の闘いや、連邦議会での感動的な脱原発決定を見てきた私にとり、ドイツで原発の稼働期間が延長されることがあるとは、非常に考えにくい。

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