直流高圧地下ケーブルとは、どんな送電網?

ツェルディック 野尻紘子 / 2018年8月27日

ドイツが2022年の脱原発後に、ドイツ北部や北海・バルト海で多量に発電される再生可能電力を、電力需要の多い南ドイツ地域に送る基幹送電網は、直流高圧送電網になる予定だ。直流高圧送電網とはどんな送電網なのだろうか。当初は架空ケーブルとして計画されていたが、2015年秋に住民の反対を反映して、大部分が優先的に地下に埋設されるように計画が変更した。しかしここにきて、地下ケーブルではなく、やはり架空ケーブルにして欲しいとする声もあがっている。

北ドイツから南ドイツへ電力を送る基幹送電網のための軌道は三つあり、そこに4本の基幹送電網が通ることになる。「ズュードリンク」には北ドイツのブルンスブュッテルから南ドイツのグロースガルタッハへの送電網1本と、ハンブルグの北に位置するヴィルスターから南ドイツのグラーフェンラインフェルドへの送電網1本の合計2本の送電網が通る。「ズュードオストリンク」はザクセン・アンハルト州のヴォルミルシュテッテとバイエルン州のランズフートを結ぶ軌道で、ここには送電網が1本通る。4本目の基幹送電網は西部ドイツを北から南に結ぶ軌道を通る。

この4本目の基幹送電網は、主に既存の送電網に沿って架空で、一部ハイブリッドの直流高圧送電網として建設されるので、問題は比較的少ない。問題が多いのは地下に埋設される他の3本の基幹直流高圧送電網で、考慮しなくてはならないことが沢山ある。例えば現在、「ズュードリンク」や「ズュードオストリンク」の幅はまだ1000メートルもある。しかし来年春までには送電網の通るルートを決める必要がある。送電網の電圧を320キロボルトにするか、あるいは520キロボルトにするかもまだ決まっていない。320キロボルトの送電網の埋設はドイツで一部経験済みだが、520キロボルトは、世界的にもほとんどまだ使用されていないそうだ。また、現在まで使われてきたのは交流の高圧架空ケーブルだったから、直流の高圧地下ケーブルというのは初めてに当たる。

「ズュードリンク」の長さは約700 km、「ズュードオストリンク」は約580 kmある。何本のも直流高圧送電網が隣り合わせに埋設されるので、送電網の需要は数千km になるという。地下に埋設する送電網は非常に太いケーブルになるため、運搬のために1本のロールに巻けるケーブルの長さは多分数百メートル分にしかならないと想定される。そうすると埋設されたケーブルは数百メートルごとに溶接する必要が生じ、その結果、完成した送電網には数百メートルごとに点検のためのマンホールのようなものが必要になる。

これら種々の理由から、ドイツ連邦ネットワーク庁の依頼で地下ケーブルの建設を行うドイツの送電網運営会社である、テネット社、50ヘルツ社とトランスネットB W社は、現在、世界中のメーカーの直流高圧送電網を実際の条件でチェックしているところだという。かかる費用は「ズュードリンク」が約100億ユーロ(約1兆2800億円)、「ズュードオスとリンク」はその半分の約50億ユーロと見積もられ、地上ケーブル敷設の際の4〜5倍、あるいは8倍にも当たるという。

ところで、東部地域の送電網構築を担当する50ヘルツ社によると、このほどザクセン・アンハルト州とテューリンゲン州の複数の自治体から、地下ケーブル反対の声があがっているという。ザクセン・アンハルト州の100 kmとテューリンゲン州の15 km では、地下ケーブルではなく架空ケーブルを敷設して欲しいという要請が当局に提出されたというのだ。該当する地域一帯は「黒い沃地」と呼ばれる肥沃な土壌で、水分を適度に含む農業には理想的な土地だと考えられている。その土地を地下ケーブルが通過することで、その土地の特質が失われるのではないか、また、ケーブルが発散する熱で、土が乾いてしまうのではないかと農業を営む人たちは心配しているという。

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