消費者に朗報 ー 電力の卸売価格上昇で、電気料金低下

ツェルディック 野尻紘子 / 2016年12月18日

ドイツの消費者が支払う電気料金が、これから2、3年後には下がる見込みだという。ドイツの中堅銀行であるメッツラー社のエネルギー企業専門アナリストの評価による。主な理由は、現在ドイツ市場に溢れている余剰電力のために下落しきっている電力の卸売価格が、2、3年後には電力の総供給量の減少に伴い、 回復することだ。消費者による電力消費量の増加が、卸売価格の上昇に更に拍車をかけることも考えられるという。

卸売価格が上昇すると消費者の支払う電気料金が低下するのは、太陽光や風力で発電された電力の普及促進のために存在する再生可能エネルギー優先法(略称:再生可能エネルギー法、EEG)のためだ。この法律は2000年に施行され、当時、従来の電力に比べて生産費はずっと高かったが普及が望まれていた自然電力を20年間優先的に固定価格で買い取ることを決めていた。(その後何度か改正されたが、この法律は今も有効だ。しかし2017年1月からは固定価格での買取り制度を廃止し競争入札制度を導入することが今年7月の改正で決まった。)この固定価格と電力取引所で扱われる電力の卸売価格との差額が、賦課金として消費者の電気料金に上乗せされるのだが、今のところ、自然電力が増えれば増えるほど、電力の卸売価格が低下し、卸売価格が下がれば下がるほど賦課金は上昇している。

ドイツでの自然電力の普及は目覚ましく、総発電量に占める割合は2、3年前から3割を超えている。風が強く吹き陽がさんさんと照る日には、約5割に達することもある。しかしドイツには火力発電所もまだ多くあり、原子力発電所もまだ8基稼働している。そのため、市場には電力が溢れ、卸売価格は今年に入り1MWh当たり30ユーロ(約3652円)、1kWh当たりでは3ユーロセント(約3.65円)を切ったこともある。卸売価格の低下は、直接賦課金の上昇に繋がる。

今年1年間に消費者が支払った賦課金は1kWh当たり6.35 ユーロセント( 7.73円)だったが、配電網運営会社はこの10月、来年の賦課金は 1kWh当たり6.88 ユーロセント( 8.38円)に上がると発表したばかりだ。(参照「どうなる2017年の電気料金」

メッツラー社のアナリストは、電力の卸売価格は来年にも底をつくだろうと予想する。EEGの改正で自然電力の成長が緩やかになることと、予定されている原発の停止で電力の供給量が約1割程度減ると見込まれるからだ。同氏は「2017年には初めて、電力の供給量が消費量より速く減るだろう」と言う。

この予想は、独ネットワーク庁の予測とも合致する。同庁によると、2017年と2018年には原発や古い火力発電の停止が予定されており、ソーラー発電や風力発電の発電容量の増加を差し引いても、 ドイツの総発電容量は合計で約2900MW減少することになる。これは原発約3基分に相当する。

メッツラー社のアナリストは、天然ガスや石油に代わる暖房源としてのヒートポンプの普及や電気自動車の導入で、電力の消費量は長期的に 増えると見ており、それに伴い電力の卸売価格が上昇するとも考えている。

なお一例として、11月7日にフランスのクリュアス原子力発電所3の再稼動が遅れて、同国で電力の卸売価格が8日には1MWh当たり250ユーロ(約3万476円)に跳ね上がったことをお伝えする。フランスでの過去最高値だったという。価格は11月11日にもまだ230ユーロ(約2万8000円)と高値を続け、その影響でドイツの卸売価格も一時、3年ぶりに60.55ユーロ(7372円)にまで上がった。

 

 

 

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