映画『第4の革命』の提唱者シェーア氏の最後の講演?!
みなさま初めまして。新しい魔女見習いのえみぃです。数か月ほど前から、魔女ライターの大先輩方のお仲間に加えていただきました。本物の魔女が空の飛び方を学ぶように、私も環境・エネルギー分野で羽ばたけるよう、精進していきたいと思っています。
さて、私は現在ベルリンのとある大学院で “環境マネージメント” を専攻しています。マネージメントというと少し仰々しく聞こえるかもしれませんが、ドイツと日本の環境・エネルギー政策を比較する比較政治学を中心に学んでいます。この分野で重要な人物である、エネルギー革命の提唱者、故ヘルマン・シェーア(Hermann Scheer)氏にたまたまお会いする機会がありましたので、今回はそのことについてお伝えします。
ヘルマン・シェーア氏とは?
現在、再生可能エネルギー政策への関心が日本でも徐々に高まりつつあるなかで、このみどりの1kwhでも何度か話題にあがっているドイツのドキュメンタリー映画『第4の革命』が日本全国各地で上映されていると聞いています1 。
この映画の中で、主要な人物として取り上げられている故ヘルマン・シェーア氏ですが、彼はドイツの再生可能エネルギー優先法(EEG)の法案化に大きく貢献した人物として有名です。シェーア氏はそのようなエネルギー分野での功績を認められ、ドイツ社会民主党(SPD)の政治家として、第2のノーベル賞とも呼ばれるライト・ライブリフッド賞(より良き社会の建設に貢献した人に与えられる賞)を受賞したこともあります。しかし残念ながら、彼は2010年に志半ばにして亡くなられました。『第4の革命』の監督カール・A・フェヒナー(Carl-A. Fechner)氏自身のブログの投稿内容から察するに、フェヒナー監督はシェーア氏と深い友人関係にあったようです2 。ブログでは何度も、シェーア氏の名前を取り上げ、彼がいなくなったことを心から惜しみながらも、彼にむけてこう語り掛けています。「この作品(映画)は何と言ったって君のものなんだ」と。
偶然聞くことのできた講演
実は、シェーア氏が亡くなるおよそ1か月半ほど前、私は偶然幸運にも彼の講演を直接聞く機会に恵まれました。当時、私は大学院留学準備のためにドイツに来たばかりで、自分のドイツ語能力にも自信がなかったので、慣れるためにも、ドイツ連邦環境庁(Umweltbundesamt)が後援している「環境学国際サマーコース3 」なるものに参加していました。そこで、スピーカーの一人として招かれていたのがシェーア氏でした。恥ずかしながら、私はそれまで彼の名前を聞いたことすらありませんでした。しかし、他のいろんな国の参加者たちが「おー、あのヘルマン・シェーアが来るんだって! え? 君知らないの? 信じられないな」といった反応で、色々彼について説明してくれたので、すごい方なんだなというのは前もって知ることができました。当時、シェーア氏の身内に不幸があったとのことから、本来の講演日が延期になったため、講演を待っている期間に「どんな人が来るんだろう」という期待がどんどん高まっていきました。
そしてやってきた彼の講演の当日、サマーコースのコーディネーター役の先生方が、講演内容を記録すべく録音機を持ち出したり、みんながやたら丁重な姿勢で対応するので、「これはやっぱり他のスピーカーの人とは違う特別な人なんだ」ということが理解出来ました。サマーコースは全員で20人くらいの小さなグループだったため、私たちはそれほど大きくない会議室で円になって、彼の講演を聞きました。ちなみに私は偶然、シェーア氏のほぼ隣の席のグッドポジションを確保できました。
そして、……ついに講演開始。始まってみるとどうでしょう。彼は、何のスライドも資料もなしにひたすら話をつづけました。穏やかに、そして静かに。初めは、静かだった口調も時間が経過するにつれ、次第に熱を帯びてきました。彼は、とても熱い、情熱に満ち溢れた人物でした。そしてこんなことを論じていました(以下講演内容より筆者要約・訳出)。
「中央集権的でない、地域分散型のエネルギーシステムの構築が重要だ! 再生可能エネルギーには確かに初期投資が必要だが、長期的に見ればどんどんコストが安くなるエネルギーなんだ。コンピューターや携帯電話の技術革新が進み、大量生産されたことによって、近年、一気に価格が下がった例を皆さんみてきたでしょう。それと同じように、技術革新が進めば、再生可能エネルギーのコストはどんどん下がっていくんだ。一方、従来の化石燃料はこれからどんどんコストが上がっていくだけだ。長期的な視点に立てば、経済的・社会的な観点を考慮しても、できる限り早急にエネルギー転換(Energiewende)を実行する必要があるんだ。これは間違いない」
この講演は福島の原発事故以前に行われたものでしたが、講演の比較的早い段階で日本に関しても少し、以下のようにコメントされていました。
「日本は95%もエネルギー輸入に依存しているんだ。95%もだぞ」
そして、エネルギー輸入依存度が高いことの危険性を繰り返し訴えていました。
講演の内容はとても刺激的で、彼の考えていることは、私の目指したい、望んでいる社会の在り方ととても似ていると感じ、「是非将来一緒に働きたいな」と思ったほどでした。それゆえ、講演から2か月もたたないうちに彼の訃報を聞いたときは本当にショックで涙が溢れ出しました。あんなに元気だったのに。信じられませんでした。唯一、手元に残っている講演の音源が何か大きなヒントを与えてくれるものだろうと信じて、何度か聞き直しました。実際にお会いできたことに感謝して、最後にご冥福をお祈りしたいと思います。
- 『第4の革命』の日本の配給会社ユナイテッド・ピープルのサイトhttp://www.4revo.org/ [↩]
- フェヒナー氏のブログ(ドイツ語)http://www.fechnermedia.com/blog/ [↩]
- 正式名称はInternational Summer University of Environmental Sciences(ISU) – Renewable Energies and Climate Protectionで、 現在も毎年夏にデッサウで開催されています。日本人の参加者は今のところほとんどいないようですが、参加料を支払えば誰でも参加できます。ドイツ語と英語の2か国語で授業が行われ、外部から多数スピーカーが招かれます。比較的、理系よりの技術的な科目が多いです。座学以外にも、再生可能エネルギーに関する施設見学をするエクスカーションも実施されます。DAAD(ドイツ学術交流会)も後援しているようです。http://www.dessau-summer-university.de/ [↩]