バーチャル発電所で電気料金を節約し、送電網の負担も軽減

ツェルディック 野尻紘子 / 2018年8月12日

屋上のソーラーパネルで発電した再生可能電力を、送電網には送り込まず、各家庭に設置した蓄電池に溜め、その各家庭の蓄電池をさらに相互に接続して、バーチャル発電所を形成するケースがドイツで増えている。消費電力を再生可能電力だけで賄う可能性が高まり、電気料金も節約できる上、送電網への負担も軽減できる。一般家庭からだけではなく、エネルギー大手からも事業として注目を集めている。

このほどドイツで話題になったのは、世界的な大企業である英国のシェル石油、正確にはシェルの再生可能エネルギー分野が、2010年にバイエルン州のアルゴイ地方に設立されたスタートアップ企業のゾンネン社に投資を決定したことだ。投資額は数千万ユーロ(約数十億円)と見られる。ゾンネン社は寿命が長く、しかも太陽光で発電された電力を最も効率よく蓄電・放電する電池の開発につとめている。太陽光で発電される電力は直流だが、家庭で使用される電力は交流だ。ゾンネン社の蓄電池には、直流を交流に変換する機能や、コンピューターを駆使して蓄電池間の電力のやり取りを制御する機能もある。接続されて一つの集団となった蓄電池の群れは、一般的にはバーチャル発電所と呼ばれるが、同社はゾンネン・コミュニティーと呼んでいる。このコミュニティーはドイツ各地、米国西海岸、オーストラリアなどにも少しずつ広がりつつあるという。ゾンネン社の設立者で社長でもあるオスターマン氏は、「シェルは世界140カ国で活躍している大企業だ。ゾンネン社は一気に世界中に広まるチャンスを得た」と大喜びだ。

バーチャル発電所に接続された蓄電池の持ち主は、日中は家のソーラーパネルで発電した電力を直接使用する。消費しきれない電力は蓄電池に溜め、日没後などに使用するようにするので、電力の自給率を高めることができる。ゾンネン社によると70〜75%程度の自給率が可能だという。不足分は、まずコミュニティーに接続された他の蓄電池から送電される電力で補う。消費する電力は全て再生可能電力である。コミュニティーに余裕がない場合のみ、従来の電力会社の電力を買うことになる。従って、全体として再生可能電力の割合が100%に近づき、また自給率が高いので、高い電気料金を払う必要はなくなる。

一方、太陽が燦々と照る日でも、ソーラーパネルの持ち主はまず、自分の蓄電池に電力を溜めるので、日中一斉に電力を送電網に送り込むことはなくなる。そのため、一次的な送電網への過度の負担は避けられるようになる。

ドイツでは再生可能エネルギー優先法(略称:再生可能エネルギー法、EEG)で、再生可能電力が従来の原子力や火力発電より優先的に送電網に取り込まれることが決まっている。このため、再生可能電力の発電量が多い際には、送電網に過度の負担が生じることもあり、送電網の調整には多額の経費がかかっている。また再生可能電力の生産者にはこの法律で、発電された電力に、装置の稼働開始から20年間、国の決める一定価格(FIT)が支払われることが決まっている。この価格は現在1kWh当たり12.2ユーロセント(約15円)まで下がってきており、あまり魅力的ではなくなっている。また、この法律が施行された2000年の直後に設置された初代ソーラーパネルの持ち主は、もうすぐFITの恩恵が被れなくなる。バーチャル発電所は、彼らにとっても魅力的なはずで、これからますます増えることが予想される。

なお、ゾンネン社の蓄電池は薄めの電気冷蔵庫ぐらいの大きさで、1万回程度の充電・放電に耐えられるという。ちなみに、携帯電話の電池は500回程度、電気自動車の電池は2000回程度の充電と放電に耐えられるようにできているという

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