連邦憲法裁判所、気候保護で画期的な判断

ツェルディック 野尻紘子 / 2021年5月9日

ドイツの最高裁判所である連邦憲法裁判所は4月29日、ドイツの現行の「気候保護法」で定められている温室効果ガスの削減目標値は、「次世代に過度に負担をかけることになるので、より長期的な目標値を設定するべきである」という判断を示した。 違憲抗告したのは、有効な気候温暖化対策を求める若者たちのグループ「Fridays for Future (FFF、未来のための金曜日)」の9人などで、現行の法律では、次世代の「自由の権利」が侵されると訴えていた。連邦憲法裁判所が気候保護に関する判断を下したのは、今回が初めてのことだ。秋に連邦議会選挙を控えたドイツで、気候問題が最も重要なテーマの一つになってきた。

ドイツは2015年の「パリ協定」に従って、2050年までにカーボン・ニュートラル、つまり排出される二酸化炭素などの温室効果ガスの量と樹木などが吸収する温室効果ガスの量が同量になることを決めている。しかし現行の気候保護法は、ドイツの2030年までの発電、工業、交通、建物、農業の分野における温室効果ガスの削減目標値しか設定しておらず、それ以降のことは決めていない。連邦憲法裁判所は、2031年以降の対策を(今から)考慮しないなら、その結果、後になり温室効果ガスの大量の削減が必要になり、ひいては次世代の行動の自由などが奪われることに繋がると論じている。そして2022年末までに、自由を大切にし、負担を均等化する、野心的な削減の方法を確保するように要求した。この判断に従い、2019年秋に施行された「気候保護法」の改正が必要になった。これに対して、違憲訴訟を起こした人たちの「政府は、気候変動による災害を避けるために十分に野心的な目標を掲げていない」という 非難は却下された。

専門家によると確かに、2019年の気候保護法のままでは、2031年以降に 個人の自由を徹底的に制限しない限り、ドイツの掲げる2050年までのカーボン・ニュートラルは達成できないそうだ。連邦憲法裁判所の判断が今回要求したことは、2031年から2050年までの二酸化炭素削減のプロセスを明確化することだ。

連邦憲法裁判所がこの判断で根拠にしたのは連邦基本法の20a条の「自然的な生活基盤」で、この条項は東西ドイツ統一後の1994年、コール政権の時に国家の目標として基本法に取り入れられた。環境保護規定が設けられたのはこれが初めてで、当時画期的なこととみなされた。その後2002年に動物保護の条項が付け加えられたため、現在の20a条項は「国は将来の世代に対する責任からも、憲法的秩序の枠内で、立法権、執行権、司法権により、自然的な生活基盤並びに動物を保護する」と規定している。

違憲訴訟を起こした FFFのメンバーたちは、連邦憲法裁判所の判断を期待以上の成果だと歓迎した。メディアは「歴史に残る判断」、「環境保護は一気に憲法で扱われるテーマになった」などとコメントした。また、ほとんど全ての政党の政治家も、この判断を賞賛した。キリスト教民主同盟のアルトマイヤー連邦経済・エネルギー相は、「意味ある判断で、気候保護にとりエポックメーキングだ。政党間の差を超えてコンセンサスをもたらした」とツイートした。しかし、FFF 代表のノイバウアー氏(25歳)は、 この同氏の発言を偽善的だと言いのけている。

政府に対して、もっと真剣に気候保護対策に取り組むよう求める生徒たち(2019年3月に行われたFFFのデモ)

アルトマイヤー経済・エネルギー相は近日中にも閣僚と気候保護法の改正について話し合い、2050年のカーボン・ニュートラルという目的を達成するために、2031年以降、毎年排出が許される二酸化炭素の量について協議すると語った。また、連立相手の社会民主党の首相候補であるショルツ連邦財務相は「早速シュルツェ連邦環境相と協議して、気候保護法の改定案を閣議に提出する」と述べた。緑の党のベアボック共同党首兼首相候補は、「我々は、この国がパリ協定を達成できるように、気候保護法を改革する」と表明した。

一方、経済界の反応は批判的な傾向が多い。ドイツ産業連盟( BDI) は、長期的な二酸化炭素削減は法廷や省庁が決めるものではなく、議会で決定されるべきだと要求し、「規定や規則、各分野の削減目標値などが細かく決められれば決められるほど、二酸化炭素削減は割高になり、効率が悪くなる」と批判した。ドイツ機械工業連盟(VDMA) は、「2030年以後のことを既に現時点に詳細にわたって決めることは、技術革新で新しい可能性が生まれても考慮されない」などと指摘している。またドイツ自動車工業会(VAD) は、「禁止の代わりに自由な競争を、計画経済の代わりに技術の自由を」などと述べている。しかし、ドイツ全国エネルギー・水利経済連盟(BDEW) は、「判断は、パリ協定を念頭に置いた長期的なエネルギー政策を可能にする。計画を立て投資を行う立場にあるエネルギー業界にとり、長期的な見通しは、必要だ」などと一定の評価を示した。

社会民主党のシュルツェ環境相は既に5月5日、ドイツが今までに決めていた「2030年までに二酸化炭素の排出量を1990年に比べて 55%削減する」という目標値を、65%に引き上げると発表した。また、カーボン・ニュートラルは2050年から5年前倒しして2045年に達成するという。さらに今回初めて、2040年までに二酸化炭素の削減目標値を88%と決めることも明らかにした。報道によると、同氏は気候保護法の改正案をこの5月12日に閣議に提出するという。大変急進的な試みであるが、秋に選挙が迫っていることが背景にあり、今期中に気候保護法の改正を完了することが狙いのようだ。

地球温暖化の危険は、世界のあちこちで日に日に目に見えるようになってきており、深刻だ。また、 現行のドイツの気候保護法は将来の世代に負担を残すことになるために、世代間に不平等をもたらす。それを正しくないとする今回の連邦憲法裁判所の判断は、大変画期的なものだ。この判断は、今から秋にかけて行われる選挙戦をさらに激化させているように見受けられる 。選挙を控えて、各政党が気候変動に関する新しい提案を争ってするようだが、それに選挙民はどこまで付き合っていくのだろうか。そして、提案される事柄には、どこまで実現の可能性があるのだろうか。 我々は現在のところ、その動きを見守ることしかできないが、選挙で、一番優れた環境政策を掲げる党が勝利することを期待する。

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