独マインツ市、膨大な “ワクチン収入” で財政が黒字に転換
日本では主に「米ファイザー社の新型コロナウイルスのワクチン」として知られているBNT162b2。ドイツ西部、ラインラント・ファルツ州の州都マインツ市に本社を置く若いバイオンテック社が開発し、ファイザー社と組んで1年前の11月に完成させたものだ。 世界中で引っ張り凧のこのワクチン、日本人を含む世界の何億人もがすでに接種を受けている。同社からの税収入で、所在地マインツ市の財政が一挙に万年赤字から黒字に転換することが明らかになった。
前代未聞の税収入に喜びの悲鳴をあげているのはマインツ市のミヒャエル・エブリング市長とギュンター・ベック財政担当官だ。今年は3600万ユーロ(約46億8000万円)の財政赤字を出すところだったが、なんと10億9000万ユーロ(約1417億円)の黒字が見込まれるという。少なくとも来年も5億ユーロ程度の黒字が予測されるので、同市は2022年末までには累積6億3400万ユーロの借金も返却し、完全に負債ゼロになれるという。ちなみに、10億ユーロというのは非常な大金で、例えば、フランスのマクロン大統領が先ごろ発表したことで話題になっている、小型モジュール原子炉の開発に費やすと明言した金額と同じだ。
州都とはいうものの、マインツ市は人口21万強の中堅都市でしかない。バイオンテック社の創設者夫妻のウゥア・シャヒン氏とオズレム・テュレジ氏も卒業したマインツ大学やドイツ公共第二テレビ(ZDF)の所在地ではあるが、際だつ大企業はない。従って、バイオンテック社が今年収める営業税は、マインツ市の他の全ての企業の収める税金の倍にも相当するという。ベック財政担当官はこのことを「歴史的チャンスだ」と言い、喜びが隠せない。
早速、市庁舎を新築し、市内各地に散らばっている市の建物を一箇所にまとめる構想が浮上している。現在は家賃を払って借りている建物も多いので、将来は家賃も節約できる。マインツ市に隣接するインゲルハイム 市には、同市の名前を社名にも取り込んでいる有名な製薬会社ベーリンガー・インゲルハイム社がある。同市の営業税率は、同企業の貢献で、以前から低く、マインツ市にとり、目の上のタンコブになっていた。しかし、これからはマインツ市でも税率をインゲルハイム市と同率に下げることができる。そうすればマインツ市の企業は年間3億5000万ユーロもの税金が節約できる。また、同市へのバイオテクノロジー関連企業の誘致にも好都合だ。
エブリング市長とベック財政担当官は、マインツ市を「世界の薬局から世界のバイオテクノロジー企業のハブに育てよう」という大きな夢を抱いている。すでに工業用地のための30ヘクタールの目処は立っており、マインツ大学や大学病院、既存の研究所などとの協力も可能だ。バイオンテック社は、ワクチンのおかげで世界的に有名になっている。市が今後10年間に10億ユーロ投資すれば、世界各地から有能な研究者が集まり、100社前後の企業が誕生し、約5000人分の職場創出が可能になるかもしれない。市長たちは、「マインツ市出身のヨハネス・グーテンベルクの発明した活版印刷機が世界に新しい可能性をもたらしたように、バイオンテック社の mRNA ワクチンも世界の医療を変えていくだろう」と 確信している。
なお、バイオンテック社は2008年に創設された若い企業で、従業員数は約1500人。現在さらに500人の従業員を募集中だという。今年第3四半期の売上高は61億ユーロで前年同期の約100倍だった。利益は昨年同期がマイナス2億1000万ユーロだったのに対し今年はプラス32億ユーロになった。マインツ市内の本社の住所は An der Goldgrube 12番地で、直訳すると「金坑沿い12番地」ということになるが、ドイツ語の Goldgrube(ゴルトグルーベ)という言葉には、掘ると小判がザクザク出てくる坑という意味もある。