ドイツで新連邦政権誕生、エネルギー転換は連邦経済省の手に
9月22日の連邦議会選挙(総選挙)から約3ヶ月後の12月17日、アンゲラ・メルケル首相率いるキリスト教民主同盟・キリスト教社会同盟 (CDU・CSU))と社会民主党(SPD)の大連立連邦政権、第3次メルケル政権が誕生した。ドイツで大きな関心を集め、みどりの1kWhにとっても関心のあるエネルギー問題は、連邦経済省の管轄下になり、連邦経済相には社会民主党のジグマー・ガブリエル 党首が就任した。
2022年までの脱原発を決定し、長期的なエネルギー転換を標榜するドイツにとり、エネルギー問題の解決は重要課題。今までの連邦政府では管轄が経済省と環境省にまたがっており、また連邦各16州もそれぞれの政策の追求を希望しているため、様々な利害関係が絡み、政策が思うように進まなかった。そのため、強力な連邦エネルギー省を求める声もあった。新政府では、連邦環境省の管轄下にあった再生可能エネルギーの促進が、拡大された連邦経済省に繰り込まれ、同省の正式名も連邦経済・エネルギー省と変更した。
この変化で、エネルギー政策が環境の視点からではなく経済的利害の観点から進められ、産業界や大手電力企業に有利になり、再生可能エネルギーの促進にブレーキが掛かるのではないかと危惧する声がある。事実、連立政権樹立の交渉でSPDの代表としてエネルギー問題を担当したノルトライン・ヴェストファーレン州のハネローレ・クラフト州首相は、同州の褐炭工業を支援するために、発電量が気候により左右される再生可能電力のバックアップとしての火力発電の重要性を強調したとされる。野党である緑の党のユルゲン・トゥリティン元連邦環境相は、環境・気候保護と再生可能エネルギーの所管が別々になったことを既に批判している。
しかし、この新政権で面白いのは、実際に省内の権限を握る事務次官に緑の党からの出身者がいることだ。ガブリエル連邦経済相はライナー・バーケ氏を同省の事務次官に任命した。同氏は緑の党の党員でトゥリティン元連邦環境相の下でも政務次官をしていた。過去2年間はエネルギー転換のためのシンクタンク「アゴラ」の長を務め、その間、ありとあらゆるエネルギー転換の側面について考察したり所見を集めたりしていた。その前の6年間はNGOの「ドイツ環境援助(DUH、 Deutsche Umwelthilfe)」の所長をしていた。
同氏はアゴラの長として、海洋風力発電の急速な拡大を当面抑えるように進める調査書を発表したことで、北海やバルト海に面するシュレースヴィッヒ・ホルシュタイン州とニーダーザクセン州の政治家の間に敵を作ってしまっている。しかし石炭や褐炭の利用は奨励しない立場を取っている。
一方、連邦環境相にはSPDのバーバラ・ヘンドリックス氏が就任した。同省は再生可能エネルギーの管轄を失ったが、連邦運輸・建設省から都市計画・住宅建設の管轄を譲り受けた。ドイツで最も多量のエネルギーを消費し、従って最も効果的な省エネ源と見なされるのは建物の断熱や暖房設備などの改善だ。 同省の新しい名称は連邦環境・自然保護・建設・原子炉安全省。事務次官にはヨッヘン・フラスバルト氏が就任する。同氏は長年ドイツ自然保護連盟(Nabu、Naturschutzbund Deutschland)の長を務め、SPDの党員ではあるがトゥリティン元連邦環境相の下では自然保護局長だった。その後連邦環境庁(Umweltbundesamt)の長官を務め、例えば風力発電装置が建設されたりバイオガス装置が設置されたりする際に 、再生可能エネルギーと環境保護との間で生じる問題を取り扱って来た。
更に付け加えると、緑の党所属で、以前はドイツ自然保護連盟の事務局長、最近はドイツ全国消費者センター連盟(Verbraucherschutzverbände)の所長を務めていたゲルト・ビレン氏が、法務省の消費者保護担当の 事務次官になった。
上記3省の大臣はSPD所属だが、事務次官が緑の党に属するか、あるいは緑の党に近い人選なので、CDUから「CDUとSPDの連立の中のSPDと緑の党の連立」と揶揄されている。一方SPDは、この人選に大変満足しているようだ。選挙戦では緑の党との連立を目指してCDUと戦っていたSPDに対し、緑の党からの批判が、バーケ氏らの起用で難しくなっただろうと見ているからだ。
なお、メルケル首相が閣僚メンバー発表の記者会見で、「この内閣では3人の元・前環境相(自分自身、ガブリエル経済相、アルトマイヤー首相府長官)が重要な大臣職に就いている」と発言したことは、緊急視されるエネルギー問題の解決を、管轄の拡大された経済省のガブリル経済相にのみ任せるのではないという牽制の意味があると同時に、エネルギー転換を今政権中に前進させたいというメルケル首相の意図が見られると一般に解釈されている。