メルケル首相と衆議院選挙の結果
日本で総選挙が行われた翌日の12月17日(月)中部ヨーロッパ時間の午後4時(日本時間、18日零時)から約1時間、ベルリンの首相官邸でメルケル首相と外国人記者協会との会見が行われた。年末の記者会見は前から予定されていたものだが、なぜか今回はいつもと違って制約があり、首相のステートメントのあと、世界の4地域から1問ずつ質問を許された。日本人記者団も代表質問で一つだけ質問することを許されたため、私たちはメルケル首相に日本の総選挙結果やそれに伴う日本が直面する問題についての感想を聞いたのだった。
ただ1回しか質問のチャンスがないため、私たちの質問は、原発や尖閣諸島など日本の当面する問題をあれこれ盛り込んだ、かなり長いものになった。だが、緊張して答えを待った私には、メルケル首相の答えは質問の長さよりも短いと感じられるほど簡単なものだった。メルケル首相は、安倍氏の名前を挙げずに「選挙の勝利者にまずお祝いを述べたい」と型通りの挨拶をしたあと、「当面は新しい政権の行方を見守りたい」という姿勢を明らかにした。そのあとに続いた言葉は「日中間の領土問題は複雑だ」「問題解決のため日本の政治の安定化を期待している」「安倍氏のことは知っている。日本とドイツの協力関係を信じている」。これがメルケル首相の答えのすべてだった。結局原発のことには全く触れずじまいで、あっという間に終わり、次の質問に移ってしまった。
2007年6月に旧東ドイツ・バルト海沿岸の保養地、ハイリゲンダムで開かれたサミット、先進主要8カ国の首脳会議に当時の安倍首相も参加した。メルケル首相がそのハイリゲンダム・サミットのことに今回触れるかと思ったのだが、それもなかった。メルケル首相はもともと記者たちの質問に当たり障りのない答えをすることが多いのだが、今回の日本人記者団の質問に対しては声のトーンもぐっと低くなり、あまり答えたくないのではないかという印象を受けた。これはあくまでも私の個人的な印象にすぎないのだが。「メルケル独首相、自民・安倍総裁に祝辞」と伝えた日本のメディアもあったようだが、私の印象は少し違ったのだった。
「安倍氏のことは知っている」というメルケル首相の言葉を聞いて思い出したのは、2007年1月のメルケル・安倍会談後の合同記者会見の様子だった。日独首脳会談のあと、当時の安倍首相がこの記者会見で自分の言葉で述べたのは「私はメルケル首相と同い年です」ということぐらいで、あとはメルケル首相と自分との会談内容を同席した官僚のメモに頼っていた。そんな様子を見てメモも何もなく自分の言葉で堂々と話すメルケル首相と比べて「同じ年なのにずいぶん違うなー」と情けなく思ったのを思い出したのだ。
今回のメルケル首相の外国人記者協会との会見の翌日、12月18日、ここベルリンで発行されている日刊新聞「ターゲスシュピーゲル」は、「日本の次期首相がアメリカの大統領の名前を間違えた」と伝えた。衆議院選挙の2日後、日本の経済界の代表の前で話をした安倍氏が「アメリカのブッシュ大統領に電話した」と語ったという。会場のしのび笑いやざわめきに気づいた氏は「電話したのはオバマ大統領だった」と訂正したのだそうである。メルケル首相ではないが、私もドイツから「新政権の行方をしっかり見守りたい」と思ったのだった。