ロシアのウクライナ侵攻  ー ドイツの若者にショック

ツェルディック 野尻紘子 / 2022年5月22日

ウクライナに連帯を示す若者のデモ(ベルリン、2月27日)。

ドイツの若者はここ数年来、気候変動問題、コロナ・パンデミック、そしてこの春からは欧州地域での戦争に直面し、心理的に緊張した状態に置かれている。特に、飛行機に乗れば僅か2時間で行けてしまうウクライナへのロシアの侵攻は、若者にショックを与えているようだ。2022年夏版の『ドイツの若者・トレンド調査』からお伝えする。

このトレンド調査はドイツの著名な青少年研究学者であるジモン・シュネッツァー氏とクラウス・フレルマン氏が2010年以来毎年行なっているのもで、2022年夏版(調査時期は2022年3月)の調査対象者は14〜29歳の若者1021人だった。

この調査で「現在何が1番心配か」という質問に対し、若者の68%は欧州で戦争が始まったことをあげており、今までトップだった気候変動問題は55%で2番目になっている。「若者たちは、裕福な暮らしや明るい将来の見通しを不確定にする戦争が身近で起こるかもしれないとは、今まで考えてみてもいなかった。だから彼らは、どうすれば良いのかわからず、明らかに戸惑っている。不安を感じているのだ」とシュネッツァー氏は語る。「彼らはインタヴューで、なんのために今、2022年に戦争が起こるのか理解に困ると発言し、自身の無力さを感じている」とも付け加える。

若者の42%は「戦争はいつでも起こり得るという心配を抱える生活が、これから長く続きそうだ」と考えている。28%は「ウクライナ戦争がドイツまで広がる可能性もある」としている。そして23%は「ドイツの若者が兵士として戦争に直接参加することもあり得る」と答えている。「もしロシアが核兵器を使用した場合、ドイツへの影響 は非常に大きくなる」とする若者は23%、「自分は現在住んでいる場所から避難しなければならなくなるかもしれない」と答えた若者は13%もいる。「現状がドラマチックであることを若い人たちは認識している。 彼らは、戦争はあってはならないものだと考えている。そしてパンデミックが下火になり、待ちわびていた正常な生活がそろそろ戻って来るだろうと思っていた矢先に、それが再び遠のくことにうろたえている」とシュネッツァー氏は分析する

2011年にドイツで廃止された兵役制度を再度導入することに賛成する若者は僅か18%しかおらず、50%は反対している。しかし、軍隊強化と防衛費の増加には43%が賛成しており、それに明確に反対する人たちは22%にとどまる。また、ウクライナを欧州連合(EU)に受け入れることと、ウクライナに武器を提供することに関してはそれぞれ約40%が賛成しているが、武器提供に関しては25%が反対していることも事実だ。

「若者たちには、自ら武器を持って戦おうとする気持ちは明らかに存在しない」と発言するのはフレルマン氏だ。欧州の平和が危ぶまれているにも関わらず、彼らはむしろ現在、積極的に行動に出るべきだなどと表明することを異様なほど避けていると語る。そのことは、若い世代が「戦争はいつでも起こり得る」ということに関して全く教わってこなかったからだろうと、同氏は推測する。

ドイツでは第二次世界大戦以来、二度と戦争を起こさないために、反戦教育や平和教育が重視されてきた。事実、ドイツでは77年間平和が保たれてきた。冷戦の克服も平和理に行われた。そのため、多くのドイツ人にとって戦争は想定外だったと言っても言い過ぎではなかった。そのことが今、若者たちを揺さぶっているのではないかと思う。

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