ドイツ式 みんなが得する エコ活動
“エネルギー貧困”はイギリスから来た言葉で、電気・暖房料金が手取り収入の10%以上を占める状態を表します。最近の政府の発表によると“エネルギー貧困”と呼ばれる家庭がすでにドイツ全国の14%を占めているそうです。電力及びエネルギー値上げの原因は様々です。使用量を減らせば料金が値上げしても月々の負担は変わりません。そこを狙ったのがドイツ式 省エネ活動です。
脱原発を決めたドイツ。電気料金はその後どのように変わったのでしょうか。2012年6月に発表された世界16カ国を対象とする比較統計1)を見みると、ドイツの電気料金はイタリアに次ぎ2番目に高いようです。原発支持者は「電力は贅沢品になりつつある」と脱原発を批判しています。貧富の差なく、誰にでも手が届く電気及びエネルギー供給とは? 今回、2つの例を取り上げました。
新しい冷蔵庫で電気料金値上げに対応
電気製品のなかで一番消費量が多いのは、だれもが使用する冷蔵庫です。節電のため冷蔵庫を買い換えればいいのですが、新製品を購入するのは低所得者にとっては、大きな出費です。そこでノルトライン・ヴェストファーレン州にある人口約34万人のヴッパータールでは、市営電力会社WSW(Wuppertaler Stadtwerke)が「冷蔵庫買い替えキャンペーン」2)を実施しました。
「父がこのキャンペーンを教えてくれました。電力会社の受付で借りたメーターで冷蔵庫の電気消費量を測ってみると、なんと一日で2.9kWhでした。冷蔵庫はなにしろ毎日動いているので、年間の消費量は1000kWh以上になります。冷蔵庫がこんなに電気を食うとは思いませんでした」と話すのは、国から学費・生活費の支援を受けている女子学生でした。この「冷蔵庫買い替えキャンペーン」に参加できるのは、彼女のように国から支援を受けている学生、年金が不十分な人、失業者や生活保護受給者など、古い冷蔵庫を使っている人たちです。
地元の電気店が新しい冷蔵庫を備え付けてくれます。どれも同じ標準タイプの冷蔵庫で年間消費量はわずか140kWhです。WSWが全額を立て替えるので、消費者は毎月10ユーロ(約1300円)を27回支払えば終わりです。残りの50ユーロはWSWが設けた「気候保護基金」が負担します。この基金はエコ電力を選んだ消費者から出資されています。
新しい冷蔵庫で貯金ができたのはこの女子学生だけではありません。地元の電気屋も利益が上がり、電力会社にとっては「電気料金が高くて支払えないような客」が一人減りました。得することばかりなので、このような「冷蔵庫買い替えキャンペーン」を始めている都市が増えています。
大家と入居者が共同で行う省エネ化
ドイツでは家庭で使うほとんどのエネルギーが暖房に費やされます。特に断熱がなされていない古い建物の暖房費は新築の3倍以上と言われています。ドイツの住宅の3分の2以上は1979年よりも前に建てられたものです。その90%はまだ省エネ化されていないそうです。
「2050年までに全ての既存建築(約1800万戸)を最新の省エネハウス基準に改修する」とドイツ政府は非常に高い目標を掲げています。補助金や減税などで国は既存住宅の改修工事を助成していますが、新築とは違って入居者が住みながらの省エネ化改修工事は問題点が少なくありません。さらにその多くの住宅は賃貸です。全国平均値を見ると全物件の54.2%は賃貸です。首都ベルリンではわずか15.6%の住宅に所有者自身が住み、賃貸の割合がハンブルグに続き非常に高いそうです。
家主側は高コスト、工事期間中の家賃減額などの理由で二の足を踏んでいるようです。入居者側は工事中の汚れ、騒音、家賃の値上げなどを恐れています。ドイツでは賃貸法により賃貸権がしっかりと規定されています。しかし入居者保護という言葉があるくらい、賃貸権よりも入居者の権利が重視されています。家賃は暖房費・共益費抜きで計算され、地域の家賃相場により決められ、通常は一方的に値上げはできません。他のヨーロッパ諸国と比べてみると家賃は控えめです。燃料値上げで暖房費が上がり入居者の支払う家賃は上がっても、家主の利益は同じです。
「入居者のためだけに、省エネ化改修工事を行う大家はいないだろう。大半は利益が上がることを目指している」と語るのは土地・不動産所有者連盟(Eigentümervereinigung Haus & Grund)の代表者です。
そこで、省エネ化改修工事のコストの一部を家賃に回すことが可能になりました。例えば、床延べ面積500m²の賃貸住宅の外壁が断熱材で省エネ化されたとします。工事の費用が2万ユーロ(約260万円)で、その内、国からの助成が5000ユーロ出たとします。残りの1.5万ユーロの11%を家主は家賃に回すことができます。
工事費 15,000 ユーロ × 11% = 1,650 ユーロ
月に 1,650 ユーロ ÷ 12ヶ月 = 137.5 ユーロ
家賃値上げ 137.5 ユーロ ÷ 500m² = 0.28 ユーロ/ m²
ドイツの平均住宅面積は90 m²で、この計算によると家賃は毎月25.2ユーロ(約3200円)上がることになります。「省エネ改修工事後、入居者には支払えないほど家賃が上がり、生活保護受給者が増える」とドイツ入居者連盟(deutsche Mieterbund e.V.)は批判をしています。
諸費用込みの家賃が変わらない省エネ化が次の目標となります。「断熱化などの省エネ改修工事によっても賃貸住宅の家賃は上がらない」という調査結果をドイツ・エネルギー・エージェンシー(dena)は発表しました。この調査の対象になったのは250戸の既存建築です。工事前と比べて1㎡当りの家賃は平均0.82ユーロ(約107円)値上げしましたが、暖房費は0.92ユーロ(約120円)節約でき、入居者の一ヶ月当りの平均負担は下がったそうです。
経済が安定していると言われるドイツですが、人口の7.5%は生活保護を受けています。ちなみに首都ベルリンでは受給者の割合が16.4%で、受給率が一番高い州です。受給者のほとんどが家賃が安く、省エネ化されていない住宅を借りています。彼らは生活費とは別に家賃と暖房費の支援を国から受けます。仮に暖房費を節約しても、生活費にはプラスされません。役所が負担する家賃(暖房費などの諸費用抜き)の最高額は決まっています。
「ビーレフェルトは存在しない」3)というジョークで有名になった人口33万人の都市ビーレフェルト。ここでは賃貸住宅の省エネ化を行うと「気候ボーナス」が出ます。生活保護受給者に対して市が負担する諸費用抜き家賃の上限を上げました。省エネ化改修工事で暖房費などのエネルギー使用量を減らすことが条件です。その証明として建物エネルギーパスを提出することになっています。省エネ化を済ませ暖房使用量が低くなると、市は大家に「気候ボーナス」を支払います。
大家にとっては省エネ化改修工事を行い、暖房費が減ればそれだけ利益があがります。
入居者は改修工事済みの最新省エネハウスに住むことができます。市としては、もともと家賃と暖房費を合わせた補助金を支払うので、その割合が変わっても出費は同じです。融資により改修工事が行われ、資金が地域に流れ、雇用も生まれ、税金として町に戻ってくるでしょう。環境問題を引き起こす要因となる資源を節約でき、化石燃料の輸入量や価格に左右されずに済みます。だれもが得する省エネです。ですからこの「気候ボーナス」を出している市は、今ではビーレフェルトだけではないようです。
1)出典:http://de.statista.com/statistik/printstat/13020/
2) 冷蔵庫買い替えキャンペーン
http://www.wsw-online.de/energie/Contracting.htm
写真出典:
ろうそく、http://www.flickr.com/photos/stuant63/
冷蔵庫、http://www.flickr.com/photos/eloise290396/
既存建築、http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Neuperlach_0629.jpg
デモ、http://www.flickr.com/photos/kietzmann/
省エネ化された賃貸住宅、Leinefelde-Worbis、設計、Stefan Forster、フランクフルト
あかはた日用版で貴HPを知りました。ドイツの生活意識については以前より関心があり、本を読んでいます。ドイツに根をおろしながら、日本のことも視野に入れて地球の環境を考える皆さんとつながることができると幸いです。北海道の泊原子力発電所の再稼働を諦めてもらうように、今、アピール活動をしているところです。皆さんの発想からエネルギーをもらいながら、エコな暮らしを目指します。佐々木あずさより(北海道十勝在住)