電気料金安定への提案は選挙政策?

ツェルディック 野尻紘子 / 2013年2月10日

アルトマイヤー独環境相が再生可能エネルギー優先法(EEG)の一部修正を提案し、ドイツで大きな話題になっている。この法律はドイツの再生可能電力の固定価格買取り(FIT)の基礎で、一般的に、最近の電気料金高騰の主因とされるため、批判が収まらないからだ。しかしこの提案は、単なる選挙対策だという声もある。

 環境相は8月施行を目指すと語るが、これから作成される法案が連邦議会と連邦参議院を事なく通過するかは疑問だ。ドイツは今年9月中旬に総選挙を控えている。この1月20日のニーダーザクセン州議会選挙の結果、野党が多数を占める参議院で法案が否決された場合 、「電気料金の上昇が阻止できない責任を野党におしつけられる、与党のうまい布石」と見るメディアもある。電気料金が総選挙の争点になることはほぼ確実のようだ。

電気料金の値上がりの一部は確かに、再生可能エネルギー促進のために消費者が支払う賦課金が膨らんでいることによる。この賦課金は、EEGに従って 送電網運営会社が再生可能電力を買取る固定価格とライプツィヒの電力取引所での電力取引価格との差額から算出される。EEG導入当初の2000年に1kWh当たりわずか0.2ユーロセント(約0.25円)だった賦課金は、今年初頭、昨年の3.59ユーロセン(4.5円)から一気に50%近くも上がり5.28ユーロセント(約6.6円)になった。

環境相の提案は、この批判される賦課金を凍結し2014年も1kWh当たり5.28ユーロセントに抑え、来年以降は上昇率を最高でも年2.5%しか許さないというものだ。そのためには、

①賦課金の大部分が免除されている鉄鋼やアルミ、化学業界の電力大口消費企業の負担を増やす。現在これら企業は消費電力1000MWhまでしか1kWh当たり5.28ユーロセントの賦課金を払っておらず、それ以上の消費量に対する賦課金はわずか0.05ユーロセントと大きく優遇されている。しかも大口消費者はライプツィヒの電力取引所で電力を直接購入することができ、このところ取引所で低下している電力価格の恩恵をもろに受けている。環境相はこの優遇賦課金を0.7ユーロセントに引き上げることを提案しているが、これは取引所での電力の取引価格の低下にほぼ匹敵するという

②再生可能エネルギー装置を新規に設置した者に対し、固定価格を生産者に支払う役割を担っている送電網運営会社に、固定価格支払いのための不足額が生じている場合には、 固定価格を装置の送電網への接続直後からは支払わず、数ヶ月の待機期間を持たせる

③現在、既に発電している電力を固定価格で買い取ってもらっている既存装置の持ち主からも、一回に限り“エネルギー連帯金”として、固定の買取り価格の1.0—1.5%のカットを要求する

④個人や企業が独自の消費のために独自で発電する電力には現在一切の税金や交付金がかからないが、 これら電力にもわずかなEEG賦課金を課せる(理由は余剰電力を送電網に送り込むことは許されるから)

などが考えられるという。

この提案に対し自然エネルギー業界と環境団体は大反対を表明している。他方、電力の大口消費企業は特権を守ることの必要性からこの提案に反対している。消費者連盟代表は、「この措置だけでは電力の値上げは止められない。消費者には既に現在の負担でも多過ぎだ」と語る。ドイツ経済学研究所(DIW)エネルギー部門のケンペルト研究部長は「まるで賦課金だけが電気料金高騰の理由のような提案だ」と批判する。

アルトマイヤー環境相は「EEGによる再生可能電力の固定価格買取り制度に、消費者に対する経費負担の上限がないのは初めからの間違いで、今回の提案は改正への第一歩だ」と語る。再生可能エネルギーの促進に関して、キリスト教民主同盟(CDU)所属の同環境相と度々言い争いを交わしている、同じく与党ではあるが 自由民主党(FDP)所属のレースラー経済相は、この提案を「正しい方向に向かっている」と評価しながらも、大改革への「小幅の一歩」でしかないと批判し、抜本的な改革は避けられないと主張する。野党の社会民主党(SPD)と緑の党は、この提案は「再生可能エネルギーの進展の息の根を止め、投資家に不安定要素を提供する」と一斉に反対の声を挙げている。

なお、現在ドイツの1kWh当たりの平均電気料金の構成については、「曲がり角に来た再生可能エネルギー優先法」を参照のこと。

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