ドイツ企業が開発中の新型コロナウイルスのワクチン、効果90%以上!

ツェルディック 野尻紘子 / 2020年11月15日

ドイツのメディアは 11月9日一斉に、ドイツのバイオテクノロジー企業が開発している新型コロナウイルスのワクチンが、「最終の臨床試験(治験)で90%以上の有効性を示した」と大きく報道した。

マインツにあるこの会社は、2008年に設立されたバイオンテック社。現在米国の製薬大手ファイザーと組んで世界各地で臨床試験を実施している。両社は今月中にも安全検査を終了する見込みで、その後米食品医薬品局(FDA)に緊急時の使用許可を申請する予定だという。また欧州医薬品庁(EMA)には承認許可を早めるために Rolling Review と呼ばれる手順で、治験のデータを逐次提出して評価を得ているので、承認許可が出るのは時間の問題だという。ドイツでは既に、来年第1四半期からこのワクチンの接種が可能になると考えられ、ワクチンを誰から優先的に接種するかという問題が議論されている。

開発中のワクチンの名称は BNT162b2 。このワクチンは、従来のワクチンのように弱められたウイルスあるいはウイルスの一部を使って作られるものではなく、 ゲノム分子であるリボ核酸(RNA)を通して予防効果が達成されるという画期的なものだ。正確には、メッセンジャー RNA(mRNA)の接種を受けた人が自身の細胞内でワクチンを生産し、本物のウイルスが侵入した際には、すぐ排除する仕組みだという。RNA 分子は、従来のワクチンとは生産の過程が異なり、ウイルスを培養する手間と時間が必要ないので、迅速かつ大量にワクチンを製造できる利点がある。

日本も1億2000万回分購入することで合意しているバイオンテック社のワクチン©️BionTech SE2020

安全性を確認する第3相の臨床試験には約4万4000人が参加し、そのうちの約3万9000人には3週間の間隔で試薬か偽薬(プラセボ)がそれぞれ2度投与された。そして第2回目に試薬を投与された人の場合には、既に1週間後に今回のコロナウイルス(Sars-CoV-2)に感染する人が確実に少なくなったことが証明された。バイオンテックとファイザーは、このワクチンの効果や安全性に関して最終評価を下すために必要となる十分なデータが集まるように、治験は現在までに94人に達した感染者数が164人に達するまで続けるそうだ。治験中には、予防接種の効果が弱まる人も出てきて、今まで90%だったこのワクチンの有効性が下がる可能性もあるという。「しかし、現在世界で試験されているワクチンの有効性が、最低で50%はあるべきだとされていることを考えると、90%という数値はファンタスティックだ」と発言するのはミュンヘンにある著名なシュワービング病院のクレメンス・ヴェンドナー感染病医だ。同氏は、「Sars-CoV-2 に対する初のワクチンであるBNT162b2 が RAN ベースであることは、生産のテンポが従来のワクチンに比べてずっと早いばかりではなく、ウイルスの突然変異に対しても比較的短期間に対応できるという特徴があると」と語っている。バイオンテックとファイザーは、今年中に5000万回分、来年は13億回分を生産する予定だという。

欧州連合(EU)は、EU 全体で2億回分のワクチンをバイオンテックとファイザーから購入することに決めており、このほどその購入契約の交渉を完了させた。この契約には、さらに1億回分の購入オプションが含まれている。これらのワクチンは、EU 加盟27カ国の間で、それぞれその人口に応じて分配される。ドイツの人口は EU 全体の19%を占めるので、ドイツに配られるワクチンは5700万回分となる。しかし、ドイツ連邦保健相は、「ドイツは1億回分購入することになる」としばしば語る。それは、ドイツ政府がバイオンテック社にワクチン開発のための援助として3億7500ユーロの補助金を出しているからだ。保健相はその見返りとして、割り当て分以外にも、さらに4〜5000万回分が入手できると考えているのだ。

国内の大半の住民にワクチンを接種することは大変大掛かりな作業になる。新しいワクチン BNT162b2 は、投与されるまでマイナス80度で保管されなくてはならないなどと、取り扱いも難しいので、政府は今の所、全国各地60カ所に公のワクチン接種センターを設け、決められた順序に従って住民に予防接種を行うことを考えている。ただ、例えば1日に10万人にワクチンが投与されるとしても、5ヶ月後でも予防接種を受けた人は住民の4分の1にも達しない。しかも住民は注射を2度受ける必要がある。そして住民の少なくとも55〜65%が予防接種を受けていなければ集団免疫は発生しないという。

完成したワクチンを誰に優先的に投与するかということも大きな課題だ。それに関して、ドイツの倫理委員会、そしてロベルト・コッホ研究所内の常設予防接種委員会とドイツ科学アカデミー「レオポルディーナ」が共同の見解を発表している。それによると、予防接種は高齢者や持病を持っている人たち、医師や看護師などの医療関係者、老人ホームや介護施設の入居者とそこで働いている人たち、警官や消防士、電車やバスの運転手、教師らのエッセンシャルワークに就いている人たちの順での投与が推薦されている。これら3機関の代表は、ワクチン投与の順番は、医療上の側面からだけではなく、倫理的、法的側面からも慎重に考える必要があるとし、国民の同意を得るためにも連邦議会で審議、採決されるべきだとする。また、予防接種の義務はないと見解を結んでいる。

なお、11月12日に発表されたドイツ公共第一テレビの世論調査によると、コロナウイルスに対する予防接種を必ず受けると回答した人は調査対象者の37%、多分受けると答えた人は34%、多分受けないは14%、決して受けないは15%だった。

金坑沿いという縁起の良い住所を持つ同社の本社   ©️BionTech SE 2020

バイオンテック社は今まで主に癌治療剤の研究・開発をしてきた。しかし創設者のウゥア・シャヒン氏(55歳)は今年1月末に、「ある研究報告書が、今回中国で見つかったコロナウイルスの伝染性は、今までに仮定されていたよりずっと 強いと指摘している」というメールを受け取って即座に、このウイルスに対するワクチンの開発に取り組むと決定したという。同氏は4歳の時にドイツに来たトルコ系の移民の息子で、医師でもある。同氏が、やはり医師である夫人と一緒に設立したバイオンテック社は、ラインラント・ファルツ州の州都マインツにあり、企業の住所は An der Goldgrube(金坑沿いの意味)12番地で、社員数は1323人だ。 BNT162b2 が同社だけではなく、人類にとっても幸運をもたらすことを祈っている。

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