脱原発、必ず成功

ツェルディック 野尻紘子 / 2012年11月18日

「ドイツで脱原発の決定が覆るなどとは考えられない。そんなことは誰も思ってもいない」と力強く話すのはドイツ・エネルギー・エージェンシー(dena)のシュテファン・コーラー氏だ。ドイツ政府とドイツ有力銀行の共同出資で2000年に設立され、政界と経済界の接点で活躍するエネルギー問題コンサルタント会社の社長を務める。「2002年に政権に就いていた社会民主党(SPD)と緑の党が脱原発を決定した際には、各原子力発電所の残りの発電量が決まっただけで、全ての原発がいつ停止するかははっきりしなかった。発電大手もたいして本気にしていなかった。しかし今回は異なる。政党の壁を超えて、ほとんど全ての連邦議会議員が脱原発を支持しており、それに真剣に取り組んでいる」。国民の総意も脱原発だ。だから脱原発は成功しないわけがない、と言いたいのだろう。外国人記者協会の話し合いで、同氏に脱原発の行方について聞いた。


脱原発を達成するためには、もちろんいろいろしなくてはならないことがあると、コーラー氏は数え上げる。まずエネルギー効率の向上がある。電力の場合、2020年までに2008年比で10%節約することが政府の目標である。2020年までには、特に原子力発電所の多い南ドイツで、新たに10GW程度の火力発電能力が必要になることも事実だ。また、風力発電の盛んな北ドイツから電力需要の大きい南ドイツに電力を運ぶ高圧送電網 も新しく構築されなくてはならない。

過去に送電網の構築が速やかに進まなかった理由は、送電網運営企業と反対する住民や土地所有者が、お互いに何度も専門家の鑑定書などを交換してきたからだ。しかし年末までに連邦議会で連邦送電網需要計画が決定されれば、もう論争の余地はなくなり、建設のテンポは速まるはずだ。

再生可能電力に関するドイツ政府の目標値は2020年までに需要の35%をカバーすることだが、現在、既に40%も可能だと関係者の間で考えられている。「再生可能電力は価格が高いと批判されているが、それは装置の構築に費用がかかるからで、それが償却された後には安くなる。例えば陸上の風車で発電される電力は、これから10–20年の間に1kWh当たり1.5–2.0ユーロセント(1.5–2円)に下がる」とコーラー氏は述べる。

また、再生可能電力促進のために電気料金に上乗せされる賦課金も、今年のように高いことはもうないだろうとコーラー氏は話す。再生可能電力を20年間続けて固定価格で買い取るという制度(FIT)が2000年に始まった 当時には、確かに高い買い取り価格が支払われた。しかしその後、買い取り価格はどんどん下がってきており、2020年からは、最初の高い買い取り価格の期限が終わり始め、高い価格の電力が年々減っていくからだという。

再生可能エネルギーで発電された電力を蓄える技術も重要なポイントだ。現在 、揚水発電、電気自動車、power to gas などの構想があるが、コーラー氏は、揚水発電の場合、2020年から2025年ごろまではドイツ及びスイス、オーストリアに存在する容量約3000MWで足りると見ている。ドイツ政府は、排気ガスを出さず、しかも余剰電力を一時蓄えることの出来る電気自動車の普及台数を2020年までに100万台にさせたいとして、電気自動車の税金免除などを図っている。しかし電気自動車がそこまで普及する可能性は少なそうだ。また、余剰電力を利用して水を電気分解して水素を得るpower to gasの技術も効率、経済性の点でまだ改善が望まれる。

ドイツでは2000年には100の発電所で電力の約90%が発電されていたのだが、2020年には電力の約50%が約300万カ所で発電されることになるだろう。このことと、再生可能電力の供給が天候に左右されて常に一定しないことは、配電網と送電網に大きな負担のかかることを意味する。また、余剰電力が隣接国に流れるケースも増える。

今年2月には、電力が不足してドイツでブラックアウトに陥る可能性があったとされるが、コーラー氏は、2015年まではその心配はあまり大きくないと考えている。それまではドイツに未だ残っている原発8基が稼働しているからだ。しかし2015年以降は、グラーフェンラインフェルド(2015)、グンドレミンゲンB(2017)、フィリップスブルグ2(2019)と次々に原発が停止して行く。

太陽が出ず風が吹かない日、つまり再生可能電力が充分に提供されない日にも電力の需要を満たすことは必須だ。そういう日のためには、これからも一定容量の火力発電能力を常時確保しておく必要がある。しかしその発電所は常時フル稼働しないため、採算性が低くなる。そこでコーラー氏は、「電力の将来はドイツ単独ではなく、欧州単位で考えるべきだ」と語る。大きな欧州全土で、一斉に風が吹かなかったり日が出なかったりする確率は低いから、近隣国と共同で利用すれば予備のための発電装置の採算性もずっと高くなるというのだ。

そもそも欧州の送電網は以前から繋がって一体となっており、近隣国との話し合いは欠かせない。欧州の電力統一市場も2014年までに完成することになっている。 「エネルギー転換は欧州市場があってこそ成功するのだ」と、コーラー氏。

「我々は、電力の供給システムを根こそぎ変えていくのだから、エネルギー転換が容易くないことは当然だ。我々にはこれからもまだ長い間、火力発電が必要だ。国内の景観も、風車が立ち並び、送電網が張り巡らされ、バイオエネルギーのためのトウモロコシ畑も増えるだろう。今は、住民の反対運動などについても報道されているが、それは多くの場合、住民との話し合いで解決できる。良い例が、住民が持ち主になって参加した ”住民風車パーク” などが成功して、反対運動が姿を消したことだ」。

 

 

2 Responses to 脱原発、必ず成功

  1. みづき says:

    ドイツで脱原発が進みつつあるのに、日本で「ドイツの脱原発は
    うまくいっていない」という記事が出回っているのは不思議ですね。

    >大きな欧州全土で、一斉に風が吹かなかったり日が出なかったりする
    >確率は低いから、近隣国と共同で利用すれば予備のための発電装置の
    >採算性もずっと高くなるというのだ。

    この部分は、なるほどなーと思いました。
    ドイツのお隣のフランスは原子力大国ですが、独仏はお互い
    この件についてはあまり干渉しない方向なんでしょうかね?
    フランスで原発事故が起こったら、ドイツはひとごとではないですよね。

    • こちゃん says:

      コメント有難う御座いました。物事は、難しければ難しいほど、始めが特に大変なのではないでしょうか。脱原発は大仕事ですから、決定後僅か1年半足らずで、目に見える成果を期待するのは、せっかち過ぎると思います。ドイツで最後の原子炉が停止するまでには、まだ丸10年あります。批判が出るのは改善の余地があるからこそで、批判は不成功とは違います。そこが日本で、批判が多く出ていると、誤解されているのでは?

      例えば、ドイツの国境から僅か1kmしか離れていないフランスのフェッセンヘイムという場所にある、1970年から稼働してるフランスで最も古い原発は、近隣に住むドイツ人にとっても大きな危険です。過去にドイツ側でも、この原発に対して何回もデモがありました。オランド仏大統領はこの原発を2016年末までに停止させると、この9月に発表したばかりです。政府間の交渉ではなく、国境を超えて住民が団結した結果だと思います。