メルケル首相の新年の挨拶

永井 潤子 / 2019年1月6日

ドイツでは、大晦日に連邦首相が国民に対して新年の挨拶を送るがことが恒例になっている。メルケル首相の、首相就任以来14回目の今年の新年の挨拶は、珍しく、いくらかの自己反省を込めたものだった

「過ぎ去った年は政治的に困難な年でした。国民のみなさんの多くが連邦政府に不満を抱いていたことを私は知っています」。メルケル首相は冒頭からこう、静かな口調で話し始めた。

2018年は、そもそも連邦政府を成立させるのに長いことかかり、その後も陣営内の争いなど、自分たち自身の問題にかまけていました。国民の大多数の合意による政治を行うという我々の民主主義では、国家に奉仕する者は、國内の平和と団結のために自分自身がその権限の範囲内で貢献しているかどうかを、絶えず検討しなければならないと考えます。国民の不満もありましたが、13年間連邦首相の地位にある私は、反省する十分な理由があると思い、それをいたしました。その結果、私は10月末、新しいスタートへの道を開き、この任期以降は政治から引退すると発表しました。民主主義は交代を通して生き生きしたものになります。我々は皆限られた時間を生きています。我々は前の世代が残したものの上に、そして未来の世代のために、現在を作っています。その際、時代の挑戦に応えるためには、国内のみならず国境を超えた協力が重要であると確信しています。

メルケル首相はドイツの宇宙飛行士、アレクサンダー・ゲルスト氏が宇宙滞在中に送ってきた映像に言及しながら、自然災害の増大に直面している現実に触れ、気候温暖化の防止が緊急の課題になっていると強調した。

気候温暖化対策は運命的な課題ですし、他にも難民問題のコントロールや国際的なテロリズムとの戦いという緊急課題があります。(略)こうした問題では、立場の違う人の利益を考慮することによって、最も良い解決法を見いだすことができます。これは前世紀の2度にわたる世界大戦から我々が得た教訓です。しかしながら今日では、こうした確信をすべての人が抱いているわけではなくなりました。国際的な協調路線は、以前ほど確実なものではなくなりました。こうした情勢の中で、私たちは私たちの考えを今まで以上に強く主張し、論拠を示し、その主張が通るよう戦っていかなければなりません。

メルケル首相は今年1月1日から2年間、ドイツが国連安全保障理事会の非常任理事国に就任することを指摘して、紛争のグローバルな解決に尽力していくとも述べた。

私たちは人道的な援助や発展途上国援助だけではなく、国際的責任を果たすため防衛費も増額しなければなりません。特に今年は欧州をもっと堅固なものにし、決断力を強めるように働きかけていくつもりです。英国が欧州連合(EU)から脱退しても、この国に対しては緊密なパートナー関係を保つて行きたいと望んでいます。5月にはヨーロッパ議会選挙があります。国民の皆さんも欧州議会選挙で投票することによって、平和と繁栄、安全な未来を目指す欧州のプロジェクトに個人的に参加することができます。この平和と繁栄、安全という目標は、まず足元の国内で実現していかなければなりません。

メルケル首相はドイツ国内で何百万人という人が社会の平和と安全のためにボランティア活動をしていることを評価し、大晦日にも警備のために職務についている警察官、連邦軍の兵士たち、消防関係者、病院の医師や看護師たち、他人の介護に従事している人たちに特別の感謝の意を表明した。

職場を確保し、我々の生活圏の安全を守り、繁栄を維持するために、連邦政府は今年も引き続き努力し、次のステップとして新しい技術による社会の構造改革、デジタル化戦略を推し進める方針です。大都市であれ、地方であれ、ドイツに暮らす一人一人が、教育を受けることができ、住む家を与えられ、同じ生活水準で暮らせるよう尽力します。その際最善の解決策を見つけることは大事ですが、それとともにオープンで、寛容、お互いに尊敬し合うという態度、これらの精神的な価値を守らなければなりません、たとえそれが不愉快で、辛いものであっても、我々は努力しなければなりません。我々の価値観を信じ、その理想を実現することによって、新しいもの、良いものが生まれます。また、多くの課題を一歩一歩解決するために必要な我々の力も、さらに強くなると信じています。それによってまた、我々と我々の子供達に平和で安全な未来を約束するための土壌を確保することができます。我々全員がこうした勇気を持つよう願っています。

「国民の皆さまとその家族にとって2019年が健康で、神に祝福された喜ばしい年になりますよう、お祈りいたします」という言葉で、メルケル首相は14回目の新年の挨拶を締めくくった。

 

 

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