シンボル以外の何物でもないディーゼル車の走行禁止

ツェルディック 野尻紘子 / 2018年6月10日

5月31日からハンブルグで、ドイツの都市として初めて、道路のごく一部で古いディーゼル車の走行が禁止になった。古いディーゼル車の排出する酸化窒素が道路近辺の空気を悪くしていることが理由だ。予想されていたこととはいえ、ドイツ人の大好きな自動車の走行禁止とあって、メディアはこの問題を大きく取り扱った。しかし中には、この禁止を「シンボル的な政策」と書くところもあった。

ハンブルグで走行が禁止になったのは、人体に害のある空気中の酸化窒素が特に多いとされるアルトナ地区のマックス・バウアー通り600 mとシュトレーゼマン通り1.6 km 、合計2.2 kmだ。マックス・バウアー通りではユーロ規格5以下の古いディーゼル乗用車と規格V以下のトラックが、シュトレーゼマン通りでは規格V以下のトラックだけの走行が禁止となる。ユーロ規格6およびVIのディーゼル車の走行は禁止ではない。また、この道路に「関連のある者」の走行も禁止されない。ハンブルグ市はこの「関連のある者」を、「道路沿いの住民、その訪問者、バス、タクシー、救急車、清掃車、配達車、また商店や事務所などの店員、従業員と顧客」と定義している。

今のところ、両道路の交通量が減ったというニュースはまだ入ってこない。理由の一つは、厳しいチックがまだ始まっていないからだと思われる。また、外見からではユーロ規格5と6やVとVIの区別がつかないこともありそうだ。さらに、検査があったとしても「商店を尋ねるところだ」と言い逃れできることがあるかもしれない。しかし厳しいチェックが始まれば、乗用車の規則違反には25ユーロ(約3250円)の、トラックには75ユーロ(約9750円)の罰金が課されることになる。

この禁止で、今までこの道を通っていた車の一部は迂回を余儀なくされる。シュトレーゼマン通りの場合、回り道は約3倍の距離になり、その分、余計な酸化窒素を排出することになる。しかしハンブルグ市(州と同格)の緑の党の環境相は、「人体に害が生じるのは許容値以上の空気内酸化窒素の濃度で、酸化窒素の合計排出量ではない」と発言している。そして「市政府にとり、住民の健康は重要問題だ」と付け加えた。

今回の措置に対して批判はあちこちから挙がっている。ドイツ環境自然保護同盟(BUND)が走行禁止を「良いシグナルだが、範囲が狭すぎて目的達成には程遠い」とするのに対し、野党のキリスト教民主同盟や自由民主党からは、「イデオロギー的な反自動車交通政策」という声が聞こえる。納税者連盟は、新たに設置された49個の禁止標識と55個の迂回標識を「間抜けの戯言」として税金の無駄遣いを皮肉り、ドイツ自動車工業連盟(VDA)は、「走行禁止より良い解決案がある」と主張している。それはつまり、数年すれば中古車と新車が入れ替わって、空気の質が改善されるということのようだ。

約4000 kmもあるハンブルグ市内の道路の、わずか2.2 kmでディーゼル車の走行が禁止になったことは、シンボル以外の何だろうか。市街地での空気の質が将来良くなることの兆しだろうか。それとも、あちこちで広まる環境汚染とそれを反映して高まる環境意識の気休めのためだろうか。なんだかあまり腑に落ちない政策だ。世界中に溢れるプラステイックゴミの対策として、欧州連合(EU)が提案する、プラスティック製のストローや耳掻き、パーティ用使い捨て食器やナイフ、フォークの禁止のようにシンボル的で、どこか釣り合いが取れていないように思われる。

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