フランス、化石燃料にもさよなら?
フランス のニコラス・ユロ環境相はこの度、2040年以降、国内での石油と天然ガスの探索及び採掘を禁止するという閣議決定を発表した。同氏はこの7月に2040年以降のガソリン車とディーゼル車の販売禁止を発表したばかりで、ドイツで波紋を呼び起していたが、今回の発表も話題になっている。
発表にあたりユロ環境相は「フランスは化石燃料の採掘を自発的に終える世界初の国になる」と胸を張った。ただ、フランスが自国で採掘している石油と天然ガスは需要の1%でしかない。小規模な産出地がパリ近郊、西南部のアキテーヌ盆地、アルザス地方及び南米の仏領ギアナの沿岸にあるだけで、2016年の年間産出量は石油が81万5000トン、天然ガスは4億立方メートルにすぎなかった。近隣諸国同様、需要の大半は輸入に頼っており、輸入先は石油がサウジアラビア、カザフスタン、ナイジェリア、天然ガスはノルウェー、ロシア、オランダとなっている。
それでも、「今回の決断はフランスにとり決して単なるシンボルではない」とユロ環境相は主張する。理由は、米国の石油大手、エクソンモービル社がつい先ごろ、仏領ギアナの西にあるガイアナ共和国の沿岸で巨大な油田を発見したと発表しているからだ。その結果、仏領ギアナの沿岸にももっと大きな油田があるかもしれないと想像されるのだ。しかし同氏は、「2015年のCOP21(国連気候変動枠組み条約締約国会議)で決められた地球温暖化防止のための『パリ協定』の目標を達成するためには、今までに知られている世界の化石燃料埋設量の8割を採掘してはならない」と言い切る。「将来の世界は持続可能なエネルギー資源の上に成り立つ。フランスは気候保護の先駆者でありたいのだ」とも語る。
新しい法律が成立すると、仏政府はその直後から化石燃料の探索に許可を与えなくなるという。現在2040年以降の採掘が許可されている数少ない産出地での採掘は許可期間が終わるまで認めるが、他の地域での採掘は2040年までに終了させる。問題があるとされるフラッキングなどの新しい技術によるシェールガスの生産をフランスは2011年以来禁止している。また、2030年までに化石燃料の消費を2012年比で30%削減するという目標も2013年に決定している。
報道によると、フランスの環境保護団体はユロ環境相の発言を大いに歓迎しているが、石油業界は同氏の発表に予想通り批判的で、「国内での採掘禁止は輸入を増加させ、外国への依存が高まるだけだ」と大反対している。フランスの原発への依存度を現在の75%から2025年までに50%に引き下げるという前オランド政権の政策に関して、同氏は7月に2025年までに17基の原発の稼働を停止すると具体的な数字をあげたが、そのため、原発関係者の間に「敵」を作ったといわれる。また同じく7月にガソリン車とディーゼル車の販売を2040年以降禁止するとも発表して自動車業界も「敵」に回したといわれる。しかしマクロン大統領はユロ環境相を全面的に支援していると伝えられる。
なお、マクロン政権の環境相になる前のユロ氏は、テレビ番組を通して世界各地の環境問題について報道してきたフランスのスター的なジャーナリストだった。そのため、入閣を大いにためらったともいわれる。そして現在環境相として発言する2040年というのは、これからまだ23年も先のことだ。そのため現在62歳の同氏がそれまで環境相を務めるとは誰も考えていないので、その発言を「無責任だ」、「これも一種の派手なショーの一部なのだろう」と批判する声もある。ドイツの環境保護団体も、ユロ氏の発言を興味深いとしながら、これからのフランスの政策を見守っている。
ユロ環境相の発言、大胆ですね。当然あちこちから批判はあるでしょうが、このような思い切った政策を言葉にして発信できるのは、すごいことだと思いました。みんなで協力していけば、それも可能になるかもしれない、という希望的観測をちょっとでも持たせられるだけでも、成功ではないのかと思いました。