テンペルホーフ国際空港跡地にヒバリを訪ねて
ベルリンは、首都で大都市でありながら、数多くの野生動物が生息することで知られています。キリスト昇天日の祭日だった5月14日、近年なかなか見ることができなくなったヒバリを探して、テンペルホーフ国際空港跡地に行ってきました。
テンペルホーフ国際空港跡地は、ベルリンの街のど真ん中、住宅地に囲まれた場所にあります。2008年秋に閉鎖、2010年からは公園として市民に開放され、憩いの場となっています。14日は休日だったため、元滑走路をローラースケートでスイスイ走る人、芝生でバーベキューを楽しむ家族、庭仕事をする女の子たち、凧揚げをする人たち、犬の散歩をする人たち……と、たくさんの人たちが思い思いに楽しんでいました。
敷地の端の方には、1923年に建設され、1941年にヒトラーの世界首都ゲルマニア計画の一環として改修された巨大な空港ターミナルが、今もそびえています。それを背景に、かつて使われた滑走路が何本かそのまま残っています。この空港は、冷戦初期にソ連が西ベルリンを封鎖した時に、市民を支援するため、食料や生活物資を積んだ英米軍の空輸機が発着陸したところです。滑走路にはさまれる形で、敷地内の真ん中に広がる原っぱに、立ち入り禁止のロープがはりめぐらされています。ところどころに立てられたピンク色の看板には鳥の絵が描かれ、「4月~7月、ヒバリがここで繁殖します」とあります。本当にここにいるんだ!と胸がときめきますが……
ピーチュクピーチュク鳴いているのはよ~く聞こえるのですが、見えるのはカラスばかり。でも、望遠鏡を通して辛抱強く、草に近いところを見ていると……いました、いました。時々、ふわっと草むらから出てきてハタハタと飛んでは、また草むらに隠れてしまいます。または、空のかなり高いところまでぱっと飛んでいって、ピーチュクパーチュク鳴き、急降下で草むらに帰って行きます。草むらにいるヒバリは、体が草の色とほぼ一緒なので、一度草に中に入ると、肉眼ではなかなか見えません。
日本野鳥の会によると、ヒバリは日本でも一昔前までは、草地があるところならどこでも見られたそうですが、高度成長期以降、畑や麦畑が減ったために激減。東京では、レッドリストで全滅危惧Ⅱ類に指定されているそうです。ドイツでも高度成長期以降、ヒバリの数は相当減っていて、レッドリストには入らないものの、その手前の”警告”が出されているそうです。草地が減ったのも理由の一つですが、農耕地には大量の化学肥料や農薬がまかれているせいでもあるとか。それで注目されているのが、都市であるベルリンが、ヒバリだけでなく多くの野鳥や野生動物の”避難地”になっているという現象です。
ベルリン市内には、至る所に森や湖、公園があり、緑豊かな墓地や工場跡地などにも事欠きません。人が住んでいるため、もちろん狩猟をする人はいなく、農薬はまかれないし、餌になる残飯も豊富です。だから、道を歩いていると普通にリスやうさぎを見かけたりし、一部の地区ではイノシシの家族が庭を横切っていくこともあったりするそうで、首相官邸の周辺に時々姿を現す狐は、メディアでちょっとしたスターになりました。
ドイツ自然保護連盟(NABU、Naturschutzbund Deutschland) によると、ベルリンに住む野生動物は、哺乳類が50種、鳥類が180種いるとか。イノシシ、狐、ラクーン、長元坊(鷹の一種)、メンフクロウなどが人間の”隣人”として存在しているようです。ドイツで一番美しいと言われる5月。今年は急に暑くなったと思ったら、寒さがぶり返したりと安定しませんが、そんな”隣人”を意識して、ベルリンの街を歩いてみるのもいいかもしれません。
ちなみに、日本野鳥の会では、「野鳥も人も放射能に脅かされない社会を」と、脱原発を訴えています。http://www.wbsj.org/activity/conservation/research-study/radioactivity/