第64回ベルリン映画祭 - 福島原発被害者の映画「家路」が初上映
世界3大映画祭の一つ、ベルリン映画祭が今年もきょう、2月6日から16日まで開かれる。日本からも福島原発の事故で放射能に汚染され、村全体が避難しなければならなくなった人たちの想いをテーマにした劇映画、久保田直監督の「家路」(パノラマ部門)などが参加する。
今年のベルリン映画祭に参加を希望した映画は、新記録の5000本以上にのぼったという。その中から公式に採用された映画は72カ国からの409本で、さらに同時に開かれる「ヨーロッパフィルムマーケット」で上映される映画は778本に達した。合わせて約1200本の映画がベルリン映画祭の開催期間中に上映される。11日間毎日100本以上が上映されることになるわけで、映画祭を訪れる専門家、ジャーナリスト、映画ファンたちは、どの映画を選んで見たらいいか、毎日苦しい選択を迫られることになる。ベルリン映画祭には毎年50万人近い人が訪れる。チケットは上映日の3日前から売り出されるが、2月3日から発売されるチケットを買うため前日の日曜日夜から並んだ映画ファンも多かったと伝えられる。
最も話題を呼ぶコンペティション部門に参加するのを許された映画は23本で、そのうち20本が金熊賞、銀熊賞を争う。国別に見ると今年最も多いのはドイツの4本で、中国の3本がそれに続き注目される。日本からは1本、山田洋次監督の「小さいおうち」が参加している。中島京子の同名の直木賞受賞作品を映画化したもので、日本ではすでに一般公開されている。ベルリン映画祭では、ここ数年、コンペティション部門に日本の作家が全然招かれないか、招かれるとしたら山田洋次の作品だけという状態が続いている。
今年64回目を迎えたベルリン映画祭の開幕を飾るのは、ウェス・アンダーソン監督の「グランド・ブダペスト・ホテル」、イギリスとドイツの合作映画である。第1次世界大戦と第2次世界大戦の間のヨーロッパ一豪華なホテルを舞台に繰り広げられる出来事が、ホテルのコンシェルジュの目を通して語られる。この映画の場面のほとんどが、旧東ドイツのポーランドとの国境に近い美しい町、ゲルリッツ(Görlitz)とベルリン郊外のスタジオ・バーベルスベルクで撮影されたことが話題になっている。
オープニングを飾る映画の候補になったもう一つの映画は、ジョージ・クルーニー監督・主演の映画「モニュメンツ・メン - 尋常でない英雄(邦題:ミケランジェロ・プロジェクト)」で、ハリウッドの人気俳優マット・デイモンやケイト・ブランシェットも出演する豪華キャストを誇る。こちらは第2次世界大戦でナチが没収した芸術作品の行方がテーマだが、クルーニー監督らがドイツのハルツやバーベルスベルクスタジオでの撮影を終わったか終わらない時に、ナチ時代に没収され、行方不明になったと考えられていた芸術作品1000点以上がミュンヘンで発見されるというドラマが実際にあった。クルーニー監督・主演のこの映画はコンペティション部門に参加はするが、金熊賞の対象にはならない。
毎年映画祭を前に1月末に開かれるベルリン映画祭の最高責任者、ディーター・コスリック氏ら映画祭各部門の責任者と各国から集まる記者たちとの国際記者会見は、いつも楽しい雰囲気のなかで行われるが、今年の記者たちの最初の質問は「クルーニーはベルリン映画祭に来るのか?」というものだった。コスリック氏の答えは「彼は来る」。「彼だけではなく、ほとんどみんな来る」。つまりクルーニーの共演者、マット・デイモンなどのハリウッドの俳優たちの他、フランスのカトリーヌ・ドヌーブやドイツのブルーノ・ガンツ、モーリッツ・ブライプトロイなどヨーロッパの有名俳優や女優も大勢集まってくる。コスリック氏はオーストリアのアカデミー賞受賞俳優、クリストフ・ヴァルツ氏を今年、審査員として迎えることができたことを特に喜ばしく思っているという。しかし、コスリック氏は有名な監督や人気俳優が出演する映画の参加は映画祭の雰囲気を盛り上げるために必要だと考えるが、その一方でこれから期待できる若い監督の優れた作品の発掘にも力を注ぐ。コスリック氏は今年のコンペティションの参加作品の中に監督のデビュー作品が3本入っていることを指摘、今年はベテラン監督と若い監督の作品のバランスがよくとれているとの見方を明らかにした。
「全体としての今年の特徴は?」と聞かれた同氏は「去年は地域的に東ヨーロッパ諸国の作品が多かったが、今年はラテンアメリカと中国の数が多いことが目立つ」と答えていた。映画祭を横断するテーマとしては金融危機が姿を消し、子どもや青少年の問題、特に難民などでの子どもの置かれた状況を扱ったもの、セクシュアリティー、戦争の回顧が多いということだが、この場合の戦争は今年勃発100年を迎える第1次世界大戦ではなく第2次世界大戦のテーマの方が多いという。
国際記者会見の終わりにコスリック氏が不意に「日本の東日本大震災の被害を受けた子供たちのことを忘れていないことを示すために、今年も7月に2回目の仙台ベルリン映画祭を開く」と発表したことに私は胸を突かれた。ジェネレーション部門の責任者のマリアンネ・レードパス氏は「去年の第1回の仙台ベルリン映画祭は大成功だった。今年どんな映画を持って行くかについては、ベルリン映画祭が終わってから仙台側の関係者と相談することになっている。今年もできたら仙台に出かけて、震災の被害にあった子供たちを勇気づけたい」と述べていた。ジェネレーションKプラス長編映画部門には日本の杉田真一監督の「人の望みの喜びよ」が参加している。この映画は震災のあと幼い弟と親戚に世話になっている少女が主人公で、お姉さんは小さい弟に両親が亡くなったことをどうやって話そうかと小さな胸を痛めている。杉田監督のこの作品は、デビュー作品に与えられる新人賞にノミネートされているという。
回顧展が充実しているのも今年の特徴だ。特に「影の美学、照明のスタイル1915年—1950年」展は、アメリカ・オレゴン州立大学准教授の宮尾大輔氏とニューヨークの現代美術館の専門家との共同研究に基づいている。この回顧展で日本の古い名画が13本も修復され上映されるのは、非常に嬉しい。衣笠貞之助監督の「十字路、吉原の影」(1928)、小津安二郎監督の「その夜の妻」(1930)、マキノ雅広監督の「おしどり歌合戦」(1939)、山中貞雄監督の「人情紙風船」(1937)などなど、伝説的な日本映画の上映リストを見ると興奮してしまう。その一方ではドイツのヨーゼフ・フォン・シュタインベルク監督が1932年にハリウッドで撮ったマレーネ・ディートリッヒ主演の「上海エクスプレス」なども見てみたいから、身体がいくつあっても足りない感じだ。コスリック氏によると、今年のコンペティション参加作品には2時間以上の長い映画が多く、3時間近いものもあるということなので、今年の映画祭はジャーナリストにとって特別重労働の映画祭になりそうである。
日本から出品している作品が感動を与えてくれると大変嬉しいのですが!!
Michihide Wataabeさま、
山田洋次監督の「小さいおうち」はこれまでの山田作品とはひと味違った、反戦の想いがこもった映画だとベルリンでは受け取られたようです。黒木華さんが主演女優賞をもらったことも話題になりましたね。その他の作品について新しい原稿を書きましたので、そちらもお読みください。