減らない世界の石炭需要

ツェルディック 野尻紘子 / 2018年1月21日

地球温暖化の最大の原因とされる二酸化炭素は、石炭を燃焼して電力や熱を生産する際に最も多く排出される。二酸化炭素の排出量を世界的に削減しようとする努力は、毎年開催される国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)などにも見られるが、その一方で、世界の石炭の需要はなかなか減らない。パリにある国際エネルギー機関(IEA)が発表した報告書によると、石炭の需要は2022年まで、量的に変わらないという。

世界の石炭の需要は2015年と2016年で4.2%減った。IEAは、天然ガスが安かったことや再生可能電力が増加したこと、エネルギー利用の効率が上昇したことなどを理由として挙げている。IEAは、これから2022年までに増加する世界のエネルギー需要に石炭が占める割合が、現在の27%から26%に減ると予測する。しかしその需要は過去5年間の平均に相当する約55億トンで、大きな変化はないという。

世界最大の二酸化炭素排出国で、世界の石炭需要の半分を消費する中国 では、過去3年間続けて石炭の消費が減っている。国際科学界を支援するために設立された「地球規模の炭素プロジェクト(グローバル・カーボン・プロジェクト)」は、「空気汚染に悩まされている中国は、同国が確約している2030年以前に、二酸化炭素排出量の上昇を止めるようにするだろう」と推測している。しかし他方、世界第二の石炭消費国であるインドでは、2016年に石炭消費が前年比で2.4%増えている。同国では、再生可能発電が増えているにも関わらず、多数の石炭火力発電所の建設計画も進んでおり、今後、石炭の需要が最も大きく増える国だとIEAは分析している。

IEAはこの他パキスタンやインドネシア、ヴェトナム、マレーシャ、フィリピンなどの、今までは大きな石炭消費国ではなかった国でも、石炭の需要が大きく増えるだろうと見ている。

一方、米国での需要は、トランプ大統領の石炭政策にも関わらず斜陽気味だという。再生可能電力の伸びとフラッキング(水圧破碎)で得られるようになった安価な天然ガスの影響で、石炭は2016年に初めて、発電に使用される最も重要な資源ではなくなったのだ。しかし国内の需要の減少で消費の減った石炭は、輸出に回されている。そして世界の重要な石炭輸出国であるインドネシア、オーストラリア、ロシア、南アフリカは、これからも石炭輸出国に留まるだろうという。

ヨーロッパで石炭が重要な役割を果たしているのはドイツとポーランドで、両国は2016年に欧州で消費された石炭の半分を消費している。ただ、ロンドン在のシンクタンクであるカーボン・トラッカーは、欧州にある石炭火力発電所の半分は既に現在採算が取れなくなっており、2030年までにはほとんど全ての発電所が赤字になると報告書に書いている。またドイツでは、国内の環境保護団体や緑の党なども脱石炭火力発電を強く唱えている。さらに世界では、石炭火力発電からの全面的な撤退を宣言した国も増えているので、ドイツが石炭火力発電から次第に手を引くことは時間の問題だと思われている。

IEAは、世界の石炭の消費が減らない以上、二酸化炭素の排出量を減らす努力が必要だと報告書を結んでいる。可能性として炭素捕捉と貯蔵(CCS)や二酸化炭素を利用した人工燃料の製造を挙げ、排出される二酸化炭素を減らす方法がないならば、石炭の消費を制限しなくてはならなくなる日が来ると結論づけている。

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