問題をはらむ新しい連立政権のエネルギー政策

永井 潤子 / 2018年2月25日

メルケル首相が党首を務めるキリスト教民主同盟(CDU)とその姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)、それに国政第2党の社会民主党(SPD)は、2月7日、新たに、いわゆる大連立政権を樹立することで合意し、177ページにわたる連立協定を発表した。その中でエネルギー問題については3ページが費やされ、再生可能エネルギー促進の野心的な目標が示されている。実際に第4次メルケル政権が成立し、そのエネルギー転換政策が実施されて、再生可能エネルギーが今以上のスピードで増えると、目下計画されている送電網敷設計画では十分ではなくなると、関係者は問題視している。

2011年に2022年までの段階的な脱原発を決定したドイツでは、以来風力や太陽光による再生可能エネルギーへの転換に力が入れられてきた。その結果、再生可能電力は増え続け、今では太陽光、風力、バイオマスの自然エネルギーによる発電量は、総需要の約3分の1(32.5%)を占めるまでになっている。中でも風力発電の占める割合が高く、風の強い北海やバルト海の風力発電による電力を、電力需要の多い南のバーデン・ヴュルテンベルク州やバイエルン州に送るための送電網の拡充、新設が緊急の課題となっている。当初の計画では原発から完全に撤退する2022年までに、長距離にわたる高電圧の送電網を地上に敷設する計画だったが、通過する各地の住民の反対が強く、計画は思うように進まず、結局地下に送電網を作ることで合意が生まれた。

新たな送電網の新設計画は、ジュートリンク(Südlink) とジュートオストリンク(Südostlink)の二つが考えられており、中でも電力輸送の大動脈となるジュートリンクは、北のシュレスヴィッヒ・ホルシュタイン州から南のバーデン・ヴュルテンベルク州とバイエルン州までの述べ800キロの送電網敷設計画である。また、ジュートオストリンクの方は、東のザクセン・アンハルト州からバイエルン州東部までの約600キロの送電網敷設計画となっている。これらの計画は、ドイツの4大送電網会社によって進められており、完成は当初の目標より遅れて2025年になる予定である。

地下に送電網を作ることでようやく合意が生まれ、具体的なプランを練ってきた4大送電網会社、テネット(Tennet)、50ヘルツ(50Hertz)、トランスネットBW(Transnet-BW)、アンプリオン(Amprion)の4社の当事者たちは、今回CDU・CSUとSPDが合意した連立協定の野心的なエネルギー転換政策に驚きと当惑を隠さない。というのも、今回の連立協定には「エネルギー転換政策と気候変動対策を成功させるために、再生可能エネルギー促進のテンポを一層高めなければならない」と明記され、「再生可能電力の総需要に占める割合を2030年までにおよそ65%に引き上げることを目指す」とも書かれているからである。「前政権は、2035年までに再生可能電力の割合を55%から60%にまで増やすことを目指し、それに基づき送電網新設計画が建てられてきた。その前提条件が変わって、再生可能電力が急速に増えれば、現在の送電網敷設計画では容量が不足する」と送電網関係者は見る。東部ドイツの送電網会社、50ヘルツ社のボリス・シュフト社長は「現行の送電網敷設計画の容量を高めることを今のうちに考えるべきではないだろうか。適切な時期に計画を練り直す方が、後になって高い費用をかけて新しく作り直すよりいい」と語っている。50ヘルツ社は、テネット社とともに、ジュートオストリンクの建設に関わっている。

実際に新たな大連立政権が樹立されるかどうかは、2月20日から3月2日まで行われるSPDの全党員の郵便投票の結果で決まる。大連立賛成派が多数を占めて、第4次メルケル政権が成立し、連立協定に書かれたエネルギー転換の政策が実施されると、北部で作られた自然電力を電力需要の大きい南部に送るための大規模送電網敷設計画は見直しを迫られ、さらに遅れる可能性もある。しかし、大規模送電網敷設計画だけにエネルギー転換の全てがかかっているわけではない。連立協定には、「各地域で電力を合理的に使うこと」も謳われている。デジタル化による電力の需要と供給の調整や既存の送電網の効率的な利用のほか、南部での風力発電やソーラーパークの建設促進なども含まれる。地産地消の原則が電力にも適用されれば、北から南へ送電する電力が少なくて済むことになる。

 

 

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