福島の被災者との出会いから生まれた詩と写真の展覧会
福島の被災者との出会いから生まれた詩と写真の展覧会「Out of Sight.」が、3月28日(金)までベルリン日独センターで行われている。詩を書いたのは、長くドイツで暮らし、日本語とドイツ語の両方で小説や詩を作っている作家・多和田葉子さん。写真を撮ったのは、フランスのマルセイユ生まれでロンドンとベルリンを拠点に活動する写真家デルフィーヌ・パロディ=ナガオカさんである。
展示されている写真の多くは、左側に人物、右側に自然の風景が写っている。下にドイツ語と英語で、その人物がパロディ=ナガオカさんに語ったと思われる言葉が書かれていた。読むと、もとは福島第一原発の近辺に住んでいたが、事故で故郷を離れることを余儀なくされた人たちの言葉だとわかる。
どうすれば子どもにとって一番いいのかを思い悩む母親の言葉がある。「今まで、赤ん坊の健康には細心の注意を払い、安全なペットボトルの水を使ってミルクを飲ませてきた。しかし、これから子どもが歩くようになり、外遊びをしたいと言ったらどうすればいいのか」。
また逆に、母親に外遊びを禁じられた子どもの言葉もある。「あの日以来、お母さんの許可なく外に出られなくなった。食べ物も全部放射線量を測って、お母さんが許可したものしか食べちゃいけないって」。
写真の間には、多和田葉子さんによる詩がパネルで展示されている。ドイツ語と日本語によるものだが、これはどちらかがどちらかの翻訳ということではなく、両方多和田さんが書いたものだろう。パロディ=ナガオカさんの写真と呼応し合っているようにも見えるし、別々の作品のようにも見える。
ここで、私が感銘を受けた作品をいくつか紹介したい。まず、パロディ=ナガオカさんの写真では、福島第一原発のそばの強制避難区域内にあるスーパーマーケットの写真とそのキャプションに心を打たれた。スーパーマーケットは、日本全国どこにでもありそうな、何の変哲もないものだ。とくにおしゃれだとかセンスがいいお店というわけではない。キャプションには次のようなことが書いてあった。「近所のスーパーマーケットという何気ないものが、記念碑的な存在になってしまったことに、ショックを受けています。あのスーパーマーケットには、思い出が詰まっています。子どもの頃は母と一緒に買い物に行き、十代の頃は学校の友だちと敷設のカフェで好きな男の子のことをおしゃべりしました。妊娠中は女友だちとカフェでくつろぎました。子どもが産まれてからは子どもを連れて買い物に行きました。それがもう二度と戻れないものになってしまうなんて」。
多和田さんの作品では、次の2つがとくに心に残った。故郷を離れざるをえなかった人々の無念や哀しみ、こんな事態に追い込まれた福島の状況の異様さを捉えている詩だと思った。
Am Tag der Toten im August
verirren sich auf dem Heimweg die Geister.
Zu den Evakuierten zum Familienfest
oder zum alten Haus? Menschenleer!
Unberührt hängt am Baum eine dunkelrote Frucht.
Verriegelt und zerschlagen die trüber Fenster.
お盆が来ると
帰郷する亡霊たちは迷う
仮設に行って家族の集いに出るべきか
それとも昔の家屋に戻るべきか、人はもう住んでいないけれど
枝に赤く熟す果実 手を触れる人は誰もいない
窓ガラスは割れ、鍵はかかったまま
“Heute Ruhetag” steht an der
Tür eines Friseursalons. Seit
drei Jahren hört der
Tag “Heute” nicht
mehr auf und die Haare
wachsen woanders.
「本日休業」の札が
理髪店の扉に貼ってある
三年前から
今日という日が終わらないので
髪の毛は
別の土地で伸びていく
展覧会は、3月28日(金)までおこなわれている。詳細は次の通り。
<詩と写真の展覧会 “Out of Sight.” 多和田葉子、デルフィーヌ・パロディ=ナガオカ二人展>
【時間】月〜木曜日:10:00~17:00、金曜日:10:00~15:30
【場所】ベルリン日独センター (Japanisch-Deutsches Zentrum Berlin, Saargemünder Strasse 2)
【入場料】無料
【詳細リンク】
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