ドイツ製・ビオTシャツ、日本製・刺し子雑巾

やま / 2013年1月13日

トルストイの著書に『人にはどれほどの土地がいるか』という民話があります。日本語ではなにげなく「土地」と訳されていますが、ドイツ語では「大地=地球」を意味するErde (earth) が使われています。「人にはどれほどの大地がいるか」という問いに対してドイツ全国紙「ディー・ヴェルト」は次のように答えていました。

もし人類が今までのように天然資源を無駄に消費していき、環境を汚染していけば、2030年には“2つ目”の、2050年には“3つ目”の地球が必要となるだろう。世界自然保護基金WWFは患者である地球の健康診断を行った結果、異常警報を出している。病名は「人間」。

今年の冬は暖かいので暖房費が安くなると、私たちは呑気に喜んでいます。実はこの気候異変の原因は、工業国の莫大なCO2排出量にあるということを忘れています。「南ドイツ新聞」のある記事にはこう述べられていました。

……世界の天災ニュースが絶えないのにもかかわらず、工業国においては過度の消費生活と環境破壊が直接に関連があるとは今でも自覚されていない。たとえば人口800万人を持つ国で薄型テレビが毎年100万台販売されている。そして、このごろの自家用車は大型になり、今までの地下駐車場に入らないことがある。また、西ヨーロッパでは食料品の3分の1が捨てられてしまう。満足のいく生活とは、“必要ない必需品”であふれる「限りなきショッピング主義社会」とされている。

そして去年の夏、ベルリンにも「早くて安いファストファッション店」がついにオープンしました。服の定価がほとんど1000円以下で客は夢中で買いこんでいたようです。その開店の際「安けりゃよい」という見出しの解説が日刊紙「ミッテルドイチェ・ツァイトゥング」に掲載されていました。

……2004年度の統計によるとドイツでは40億8千万着の衣類が販売された。2011年にはその数が48億に上った。両年度を比較すると15%も増加したことになる。ところが生活費を見てみると衣類のための出費は減っている。靴と衣類の出費は一世帯につき1998年では毎月平均118ユーロ(約1万2千円)、そして2002年には112ユーロ、そして2008年には106ユーロと減っている。購入する数が増えているのにもかかわらずに出費が減っている。この“安物買い”が環境に悪影響をあたえている証拠がたくさん見つかっている。

1000円以下で素敵な綿のTシャツを買ったときに、たった一枚のTシャツを生産するのに7000リットルの水が必要だと考える人はいないでしょう。事実、ソ連邦の綿花生産優先政策が原因で水不足になり、消えゆくアラル海は「20世紀最大の環境破壊」の現場です。さらに生産のために染料、可塑剤や防虫剤など、約7000種類の化学物質が使用されています。その量はTシャツ一枚につき1.2kgだそうです。多量の化学物質が川や海に流され、取り返しのつかないほど環境を汚染していることに対して消費者はまったく盲目のようです。たんすにあふれるほどの衣類はいつかは処分しないと新しいものが入りません。古着は回収され、選別されます。まだ着られる衣類は東欧やアフリカに輸出されます。
→古着の援助はもう沢山「第2の災害」になった援助物資
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120514/232001/

無駄なものは買わないように、そして節約して環境保護に努めなければと思っていたところ「安心して衣類を買って捨ててください」と古着を野原に投げ捨てる人の動画を見ました。この極端な動画を披露するのはハンブルグ、ロッテルダムやバージニア大学で活躍しているミヒャエル・ブラウンガート教授です。彼はあるラジオ放送のインタビューでは次のように語っていました。

現在、地球の状態を検証すると環境に優しいという今までの対応だけではもう間に合わない。省エネ、節電、節約など倹約することだけではもう遅い。たとえば親が子供を今まで20回殴っていたとする。これからは5回にするといっても暴力がなくなったとは言えない。公害となる廃棄物の量を減らすだけでは済まない。これからの製品は使用する際、環境を良化していかなければならない。…自然界にはゴミという概念は存在しない。

そのような考えから、化学者であるブラウンガート教授とアメリカ合衆国の建築家ウィリアム・マックドノー氏は「ゆりかごからゆりかごへ」(Cradle to Cradle、 C2C )という新しいシステムを考案しました。ブラウンガート教授の目的は公害とゴミの存在しない世界を作ることです。その世界にはただ2種類の製品しか存在しません。ひとつは「生物的循環製品」で土に還るので使用後、躊躇なく捨ててもかまいません。2つ目は「技術的循環製品」と呼ばれ、品質低下なしに何度も再利用できる製品です。彼らはすでに数多くの企業と協定してC2C製品を作り出しています。

「わが社の製品は、ドイツ製」と強調するスポーツ及びレジャーウェアーのメーカーがあります。ブラウンガート教授はこの企業と提携して、「生物的循環製品」の開発を始めました。まず今まで使われていた素材に有害な化学物資が含まれていないかと調査されました。そして殺虫剤や農薬の残っていない有機栽培の綿や、川に流しても安心な染料が開発されました。このような素材で作られた「ビオTシャツ」が古着となり捨てられても、たい肥として土に還ります。

ところで日本にも、「生物的循環製品」があったことを思い出しました。それは昔どこの家にもあった再生再利用を重ねてできた雑巾です。山口昌伴著の『ちょっと昔の道具から見なおす住まい方』にはこう書かれています。

正しい雑巾とは−−−新品の反物が購入され、晴れ着として仕立てられる。着古されて晴の場に冴えなくなると染め直して普段着へ。解いては洗い張り、仕立て直しを繰り返し、ついに膝が抜け、やつれが目立つようになると蒲団や座蒲団(おざぶ)の側布(かわ)に。羽織など絹物、メリンスは掛け蒲団の側布におろされ、そして最後に腰の失せた絹物はハタキに、こしのある布はすけや破れを補いあうように八重に重ねて、太い糸で縫い合わせる太い針−−−雑巾針、刺し子針で縫い固めた。
晴れ着から雑巾まで、再生再利用を重ねた布は、最後には強く絞ったら千切れるまでに弱り、雑巾バケツの中で溶けていった。

昔のことですから、草木染で色をつけ、蚕の食べる桑の葉には農薬などがついていなかったことでしょう。ですから素材は100パーセントビオでした。
新しい方法を探す前に、昔の住まいの工夫について調べてみると案外と良いアイデアが見つかるかもしれません。なにせ、その当時は人間が大地に暴力を振るわず、地球もまだひとつで足りていたのでしょうから。

ディー・ヴェルト、DIE WELT – Jochen Clemens 著
南ドイツ新聞、Süddeutsche Zeitung - Harald Welzer 著
ミッテルドイチェ・ツァイトゥング、Mitteldeutsche Zeitung – Daniel Baumann 著
ミヒャエル・ブラウンガート、Michael Braungart
ウィリアム・マックドノー、William McDonough

写真参照
「汚染された海」 Wikipedia、石油流出
「あれも、これもほしい」 flickr、撮影者 garretkeogh

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