日本最南端の地熱発電所を見学して

永井 潤子 / 2017年8月13日

先ごろ3週間ほど日本に一時帰国した際、中学から高校にかけて3年間を過ごした懐かしい土地である鹿児島に出かけた。今も活発な活動を続けている活火山、桜島を抱く鹿児島県は、いたるところで温泉が湧き出ている。そこで目にしたのは、自然のエネルギーをうまく利用して暮らしている人々の姿だった。指宿市の山川地区にある地熱発電所も、そうした人々の生き方を象徴しているように思えた。

山川地熱発電所は、1995年に営業運転を開始した比較的新しい地熱発電所である。薩摩半島の南端に位置する山川は、昔から琉球との貿易やカツオ漁業の基地として栄えた港町で、地熱発電所は、海岸近くの、のどかな田園風景のなかにある。田畑に囲まれた白っぽい工場のような建物の冷却塔からは、白い蒸気が出ていることが多い。ほとんどの地熱発電所が山の中にあるのに、この発電所の標高は、海抜43メートルという低地で、全国的にも珍しいのだという。発電所のテラスから眺める薩摩富士と言われる開聞岳の眺めが美しい。

この地熱発電所が生まれるきっかけは、地元の人たちが、田畑から蒸気が勢い良く噴き出しているのに気がついたことにあったという。その情報に基づき地熱資源の調査が開始されたのが1977年だったが、「調査と建設にかなりの時間がかかったのです」と同発電所の案内の若い女性は言う。さまざまな調査の結果、この地に地熱発電所を作る価値があるという判断が下され、地熱発電所の建設が開始されたのは、1993年9月のことだったから、確かに調査活動に15年ほどの月日が費やされており、さらに建設に3年余り、結局運転開始までに20年近くの歳月がかかっている。

マグマの熱エネルギーを利用する地熱発電は、化石燃料を全く使わずに、地下から高温の蒸気を取り出して発電するため、CO2などの気候温暖化ガスを出さないクリーンな発電方法である。「火力発電のボイラーの役割を地球が果たしてくれています」と、案内の女性は説明する。地下の岩盤の中に閉じ込められたマグマの熱で高い温度になっている地下水(蒸気と熱水)を「蒸気井(じょうきせい)」で取り出し、この蒸気で蒸気タービンをまわし、発電するというのが地熱発電の基本原理である。

太い管が長々と伸びているのは、「二層流体輸送管」というもので、これは蒸気と熱水が混じっている流体(二相流体)を蒸気井から発電所に送る管である。蒸気井から二層流体輸送管を通ってきた蒸気と熱水混じりの流体を、蒸気と流水に分離するのは、「気水分離器(セパレーター)」で、分離された蒸気は蒸気タービンへ、残りの熱水は、「還元井」により、再び地下へ戻される。

蒸気タービンは、発電機を回すための羽根車で、蒸気で回る風車のようなものだ。タービンは発電機を回し、電気を作る。この時の蒸気の温度は183度とか。タービンを回した後の蒸気は、冷却水で温水にする装置、「復水器」で温水になる。この温水は、冷却塔に送られ、さらに冷却される。冷却塔では18メートルの高さから温水をシャワーのように落として空気と触れさせることで、摂氏50度から20度まで冷やし、冷却水を作っている。この冷却水は再び復水器に送られ、蒸気を冷却するために使われるという循環システムだ。

山川地熱発電所の出力は、3万キロワット。約1万世帯の電力をまかなうことができるといい、変圧器で、高電圧(6万6000 ボルト)の電気に変えられ、送電線を通じて指宿市や開聞町に送られている。同発電所のパンフレットには、「1年間に発電する電力量は約2億3700万キロワット時で、ほぼ 5万4000キロリットル(ドラム缶27万本分)の石油で発電する量に相当する」と書かれている。

地下深部の地熱残留層から蒸気と熱水を取り出すための蒸気井は、この発電所には12本あるが、一番深いのは2100メートルの深さ、一番浅いものでも1800メートルもの深さがある。各蒸気井から出る蒸気の量はそれぞれの地下の状態、深度で違うが、発電所全体としては毎時225トンの蒸気が使われるという。発電に利用できない余った蒸気は、山川発電所付近の園芸農家に送り、マンゴーなどの熱帯性果物や胡蝶蘭、観葉植物などのハウス栽培に有効利用されているそうである。発電に利用できない熱水を地下に戻すと聞いた時、「もったいない。これも利用できないか」と思ったが、山川ではすでにこの熱水を有効活用する「山川バイナリー発電所」が建設中で、2030年に完成する予定だという。

世界でも有数の火山国である日本では、地熱発電はもっと重要な役割を果たすべきだと思うが、今のところ地熱発電所の数は少ない。事業用地熱発電は全国で14カ所、自家用は3カ所で、東北と九州に集中している。地熱発電が増えない理由の一つは、建設前の調査に時間とお金がかかることが挙げられるという。また、温泉業界が温泉への悪影響を懸念して建設に反対することや地熱の豊かな地域が国立公園内にあるケースが多いことも影響しているとみられる。

私が感心したのは、この山川地熱発電所には、地熱発電についてわかりやすく解説した展示が行われているだけではなく、「バーチカルジオシアター」が設けられて、地熱発電をはじめ、さまざまな発電の仕組みやエネルギー・環境問題を理解するための映像が上映されていることだった。こうした山川地熱発電所を訪れる人は、先生に連れられた学校の生徒を始め、観光客などの見学も多いと聞いて、心強く思った。また案内の若い女性が、マニュアル通りの説明だけではなく、私の質問の全てにきちんと答えてくれたことも印象に残った。

1984年から100キロワットの自家用地熱発電を行ってきたホテルが霧島高原にあることも、今回の鹿児島訪問ではじめて知った。また、鹿児島市で私が泊まったホテルの屋根には、太陽光発電の設備が取り付けられ、使用電力の一部を賄っていたし、指宿の黒酢の有名なメーカーの屋根もソーラー施設で覆われていた。そういえば黒酢の生産そのものも太陽のエネルギーを利用したものだ。日本の最南端の鹿児島で、人々がこうした自然のエネルギーを活用している実情を知り、薩摩藩主の島津斉彬以来の進取の気性を垣間見た思いがした。

関連リンク:
究極の自然エネルギー、地熱のおすすめ、みどりの1kWh
日本地熱協会
日本地熱学会

2 Responses to 日本最南端の地熱発電所を見学して

  1. チャールズ says:

    フクシマから学び、脱原発を決めたドイツ、イタリア、台湾・・そして就任の韓国・文大統領も脱原発を打ち出した。

    当事国で収束さえできず、汚染放置。しかも地震火山活動のなか再稼働するクレイジーな国・・

  2. ヘルブラウ says:

    この記事をブログ「グレーは淡青」に転写したのですが、不都合があればお知らせください。