連邦議会選挙、気候問題に関する各党の公約は?
ドイツの連邦議会選挙があと1週間後に迫って きた。今回は47もの政党がこの選挙に臨むのだが、実際に接戦を繰り広げているのは、現在すでに議席を持つ6政党だ。どの党も30%を超すような高い得票率は達成できないと予想されるため、選挙後に2党ではなく3党による連立政権が成立する可能性が高く、いく種類もの組み合わせが考えられる。そんな中、各党は今回の選挙で最も重要なテーマである気候問題に関して、どのような対策を公約しているのだろうか。ベルリンにあるドイツ経済学研究所(DIW)が調べた。
ドイツはこの6月に、気候保護法を改正し、二酸化炭素の排出量を2030年までに1990年比で65%削減することを決めた。DIWは今回の調査で、各党が公約で示す対策や提案が、果たしてこの目標値の達成に十分であるかどうかを追及した。調査のタイトルは「政党の公約でカーボンニュートラルは実現できるか?」だ。
DIWがチェックしたのは、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、社会民主党(SPD)、自由民主党(FDP)、左翼党、そして緑の党の5党の公約だ。「ドイツのための選択肢(AfD)」は調査の対象としなかった。理由は、同党が地球温暖化を疑問視して二酸化炭素排出量の削減を拒否し、パリ協定からの脱退を要求しているからだ。
DIW は、気候保護法の区分に従って、発電、工業、交通、建造物、農業のそれぞれの分野で、5党がどのような提案をしているかを細かく調べた。また、二酸化炭素を吸収する森林や湿原、ドイツ国内で二酸化炭素の排出に課される価格(二酸化炭素の価格)、欧州二酸化炭素排出権取引制度(EU ETS European Union Emissions Trading System)の効用なども考慮した。そしてその結果を、既存の多数の学術的研究などに照らし合わせて、それらの提案がどれだけの二酸化炭素の削減をもたらすかを算出した。4点が満点で、4点が得られれば、その党の提案を実行に移した場合には、気候保護法の掲げる削減目標が2030年までに達成できるものとした。結果は、緑の党の得点が 3.62 点で1番、次が左翼党の 2.60 点、続いてCDU/CSU の 1.81 点、 SPD の1.79 点、FDP は1.24 点だった。
ということは、緑の党の公約が一番進んでいると言える。しかし、例え緑の党が全ての提案を実現に移すことができたとしても、気候保護法の掲げる削減目標は達成されないことを意味する。DIWのクラウディア・ケンフェルト教授は記者会見で、「気候問題に関する各党の公約は不十分だ」と断言している。同氏 はしかも、ドイツの気候保護法が定める削減目標でも、地球の気温上昇を産業革命以前の気温に比べて1.5 度以内に収めるというパリ協定の目標を守ることは非常に難しいとしているのだ。ドイツ人だけではなく、人類は今、何と難しい問題に直面しているのだろうか。
各党の公約内容をごく大まかに紹介する。例えば、CDU・CSUは2050年よりかなり前に「カーボンニュートラルな工業国家」を達成すると謳っている。SPDは遅くとも2045年までに、左翼党は2035年までに、緑の党は2020年代にカーボンニュートラルを達成するとしている。二酸化炭素排出量の削減に関しては、FDPが欧州二酸化炭素排出権取引制度を出来るだけ早く、現在の発電、工業、欧州内航空分野からさらに 建物と交通分野に広めることを提唱している。CDU・CSUも取引制度の範囲を出来るだけ早く広げることに賛成だ。そして二酸化炭素を地中などに埋める二酸化炭素回収・貯留技術(CCS、Carbon Dioxide Capture Storage)も推奨している。緑の党は、排出権の数を早く減らすことによって二酸化炭素の価格を上げることを提案する。それによって、再生可能電力の増大が早まることに期待をかけているのだ。また、気候に優しくない事業に対する助成金の削減、廃止も提唱している。SPDは取引制度に触れていない。左翼党は排出権取引制度を拒否しており、企業などに許される排出量を国が設定し、それが守れるようにするために、国が助成金を提供することなどを考えている。同党はまた、CCSにも反対だ。さらに、二酸化炭素を削減するためにアウトバーンに時速制限を導入するべきだとするのはSPD (時速130 km)と緑の党(同)、それに左翼党(時速120 km)で、CDU・CSU とFDPは導入を考えていない。
再生可能電力の拡大に関して、緑の党は陸上風力発電装置の新設規模を当初は年間5〜6ギガワット、後には7〜8ギガワット、太陽光発電装置は当初年間10〜12ギガワット、後には18〜20ギガワットと野心的な数値を設定している。4年以内に150万軒の家屋の屋根にソーラーパネルを設置し、2030年までにはSPDと同じように、暖房用に500万台のヒートポンプの設置を提案している。SPD は全てのスーパーマーケットの屋上にソーラーパネルの設置を義務づけるという。またCDU・CSUは新設装置の設置許可を簡略化し、建設が速やかに進むよう計らうという。FDPは、再生可能エネルギーによる発電を完全に市場の動きに任せ、国が決める新規設置の規模や電力の固定価格での買い上げ(FIT)などを廃止するという。
2038年と政府が決めた脱石炭を前倒しにして2030年までに石炭火力発電を停止するとしているのは、緑の党と左翼党だ。CDU・CSUは停止の時期を2038年としている。SPDもその時期を2038年としているが、それまでに再生可能電力の発電量が十分に増え、電力発電量の多い北ドイツから電力消費量の多い南ドイツへの送電網が整った場合には、前倒しも可能だとしている。FDPは公約で脱石炭に触れていない。
公約ではまた、気候に優しいとされる水素の利用もテーマになっており、SPDは大規模工業生産による水素ぬきでのカーボンニュートラルは考えられないと主張し、ドイツを2030年までに世界の水素事業のリーダーにするという。CDU・CSUもドイツを水素の世界ナンバーワンに育てるという。そして同党は、水を再生可能電力を使って電気分解して得られる気候に優しい「緑の水素」だけでなく、天然ガスから作られ、そのために生産の際に二酸化炭素が発生するので気候には良くない「青い水素」も利用するという。FDPは水素生産の際に発生する二酸化炭素を地下に埋蔵することに反対ではなく、水素を使って作られる液体の車の燃料も導入するとしている。緑の党は、石炭火力発電を止めた際に、その代替として必要になるガス火力発電所を建設する場合には、その発電所が将来は水素で稼働できるように設計されなければならないとしている。
地球温暖化の影響が、ますます目に見えてくるような昨今だ。気候変動問題に対する対策は急がれるし、抜本的なものでなければならない。今回の連邦議会選挙にあたり、5政党も種々の提案を行っているのだが、それではまだまだ足りないとDIWは判断した。少なくとも、DIWのチェックで最高点を得た緑の党が、連立政権に加わる可能性は高い。しかし、連立交渉の中で、彼らの主張をそのまま通すことは難しいだろう。それを考えると、次期政権の気候変動対策にはあまり大きな期待はかけられない。