フクシマのツケを払わされるベルリン市民!?
10月下旬以降、ドイツの新聞に「2012年から電気料金値上げ」の文字が目立つようになってきた。その中でもベルリンの日刊紙「デア・ターゲスシュピーゲル(Der Tagesspiegel)」の見出しには度肝を抜かれた。「ヴァッテンファルが料金を値上げ - フクシマのツケをベルリン市民が払う」という見出しである。
ベルリン、ブランデンブルク、ハンブルクなどに電力を供給しているヴァッテンファル社は、2012年からの値上げの理由をいくつか挙げているが、送電網の使用料の値上げを第一の理由としている。再生可能な自然エネルギー、とくに風力発電に関しては、ブランデンブルク州が生産の一大拠点となっており、ここからドイツ西部や南部の重工業地帯への送電を安定させるために、送電網の拡充と整備は、ドイツの経済競争力を維持するために必要不可欠である。ヴァッテンファル社は、送電網利用費を2012年初頭から1kWhにつき4.95セント値上げすることを発表した。これは約9%の値上げに相当する。またヴァッテンファル社は福島の原発事故までも値上げの理由に挙げた。原発事故後、ライプツィヒ電力市場で電力価格が高騰したというのである。さらにいくつかの法律改定によって、電気料金の明細表示が義務付けられ、今まで以上に紙や郵送料がかさむことも値上げの理由に挙げられている。この結果、一年間の使用料が2200キロワット時という平均的世帯では、年間の電気料金が約37ユーロ(約3900円)上がることになる。
今回の値上げの最大の理由になった送電網使用料の値上げが社会的公正を欠くという指摘がなされている。つまり、今年6月、脱原発の政策と関連法案が決定された際、連立内閣が「こっそりと」ある法案を決定していた、というのである。専門家すら見逃してしまったこの法案というのは、送電網使用に当たり、企業の規模に応じて使用料の負担が決定されるというものだ。大企業や、年間10ギガワット時以上の電力を使用する企業は送電網使用料の支払いを免除される。年間10万キロワット時以上の企業の負担も軽微なものであり、例えば数十人の社員がいればこの恩恵に浴することになる。この結果、個人の電力消費者と零細企業は大きな負担を強いられることになる。
ドイツ全国消費者センター連盟(VZBV、Verbraucherzentrale Bundesverband e.V.)のエネルギー専門家ホルガー・クラーヴィンケル氏は、個人消費者と零細企業への過大な負担を「前代未聞のとんでもないこと」であり、「大企業に手厚く、個人や零細企業に負担を強いるこのやり方は例を見ない厚かましさだ」と述べている。また、ベルリン消費者センター(Verbraucherzentrale Berlin)は、今回のヴァッテンファル社の値上げを契機に、電力会社を変えるように勧めている。
日本では、ドイツにおける脱原発が何の軋轢もなく進行しているかのような報道が見受けられるが、電力会社とそのロビーが繰り広げる巻き返しについては、きっちりと見ていかなくてはならない。今回の送電網使用料の負担について、個人消費者がどのような反応を起こすのだろうか。ヴァッテンファル社は、競合する他の電力会社も送電網を使用するため、同じように電力料金を値上げするはずだと述べている。