難しい連立政権樹立のための政党間話し合い

ツェルディック 野尻紘子 / 2017年11月12日

ドイツで9月24日に実施された総選挙の結果を受けて、3週間前から新しい連立政権樹立の可能性を探る政党間の話し合いが始まっているが、進展がなかなか見られない。この話し合いに参加しているのはメルケル首相の率いるキリスト教民主同盟、姉妹党のキリスト教社会同盟、それに自由民主党と緑の党の4党だ。党の方針に元々大きな差のあるこれら4党が一致するのは、始めから非常に難しいとされ、各党にどこまで妥協の準備があるかが注目される。連立の話し合いが失敗した場合の総選挙のやり直しも語られるなか、メルケル首相は「11月16日までに前段階の話し合いを終えて、その後本格的な連立交渉に入りたい」と話す。クリスマスまでに新政府が誕生することが一般的に望まれている。

政党間の話し合いは11月6日の週から第二ラウンドを迎えたのだが、この日からはドイツのボンで第23回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP23)も始まり、緑の党とキリスト教民主同盟・社会同盟(CDU・CSU)及び自由民主党(FSP)の対立が一段と目立つようになった。緑の党のジモーネ・ペーター党首は、「ドイツのように全国に石炭火力発電所が沢山あり、人口一人当たりの二酸化炭素排出量の多い工業国は、率先して石炭火力発電から手を引くべきだ。でなければ、今回会議の議長国であるフィジー島の人たちに顔向けできない」と語った。

同党はドイツが2030年までに石炭火力発電から完全に撤退することを要求している。そしてメルケル首相が2007年に当時の連立政権相手であった社会民主党の閣僚と決めた2020年までのドイツの二酸化炭素排出量の削減目標(1990年比でマイナス40%。現在までに32%が達成されている)の保持も主張している。2030年までに完全に火力発電から撤退するべきだという緑の党の要求を、話し合いに参加している自由民主党の有力議員、アレクサンダー・グラーフ=ラムスドルフ氏は、「ドイツ産業の終焉だ」と反発した 。それに対してペーター氏は「無責任な発言だ」と強く批判している。

緑の党は、更なる再生可能電力の促進を続けながら、20箇所の古くて効率の悪い石炭火力発電所を即座に停止し、その後残りの発電所も徐々に停止すれば、これらの目標は達成できると考えている。しかし自由民主党からは、「緑の党は火力発電からの撤退で停電を促進する」との批判も出ている。これに対して、選挙の際に緑の党の女性トップ候補であったカトリン・ゲーリング=エックハード氏は「我々の党は、停電を発生してまで政権に就きたいなどとは決して思っていない。そんなことは私たちの党の自滅につながる」と抗議している。そしてこれからの安定した電力供給と適正な電力料金には「デジタル化やインテリ制御が役立つ」とも付け加えた。

キリスト教民主同盟所属の経済協議会も、緑の党などの「環境イデオロギー的な誇張」に警告を発し、「企業と消費者に、これ(再生可能エネルギー促進のための多額の賦課金など)以上の負担をかけてはならない。環境アクティヴィストたちが要求する石炭火力発電所からの即時撤退は、環境保護に貢献しない」と意見を述べている。

緑の党はまた、地球温暖化と住民の健康を考慮して、2030年からのガソリン車とディーゼル車の販売禁止を唱えているのだが、自由民主党は「緑の党の要求は全面的に受け入れられない」と強く反対している。ラムスドルフ氏は「緑の党の要求は工業国の自殺に等しい」とまで言う。「誰も2020年に『パリ協定』の目標を達成しようとは考えていない。2050年までに達成することが大切なのだ。自由民主党は、数百万人の雇用のかかっているドイツ工業の国際競争力が、世界単位で見た場合に、僅かな効果しか発揮できない緑の党の要求のために失われることに反対だ」と続ける。

しかし、ここにきて少し妥協的な声も聞こえてきた。緑の党のジェム・エツデミア男性トップ候補は新聞のインタビューで、「緑の党の得票率8.9%で、100%の要求を実現させるのは無理なのだろう」として、2030年からのガソリン車とディーゼル車の販売禁止という同党の要求に固執しないと発言した。「大切なのは車の排ガス量を抑える手段、例えばディーゼル車に排気ガス削減ディバイスの取り付けが導入・義務化されることや、都市などが、排気ガスの排出量の多い車を市内から締め出すためのゾーンを設けることなどだ」と語った。ペーター氏も、「ドイツ最後の火力発電所の停止が 2030年になるか、あるいは2032年になるかは問題ではない。重要なのは二酸化炭素の排出量が減ることだ」と妥協の姿勢を示している。

一方、自由民主党のクリスチャン・リンドナー党首は、同党の300〜400億ユーロ(約4〜5兆円)規模の減税要求に対して「幾らか譲歩する用意がある」と明かすなど、各党間の対立が少し和らいできた。

ゲーリング=エックハード氏は、現時点の話し合いを「架橋の時」と説明して、これからも話し合いを進める準備のあることを示唆した。 そして、「大きな差がある党同士の連立政府には、最小限の共通点しか存在しないのではないか」とのジャーナリストの質問に対して、「例えば、『自由民主党がデジタル化こそが未来だ』と発言し、緑の党が『エコロジーこそが未来だ』と言うなら、モダンで将来性があり、成果が期待出来る 政府のために、両党が協力するのは当然ではないだろうか」と答えた。

話し合いに参加している政党の間では、環境以外のテーマでも難民問題や農業政策などでまだ意見が食い違っているが、教育や民主主義の強化などのテーマでは意見の一致が見られている。

 

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