愛はコロナより強し

池永 記代美 / 2020年8月30日

初夏にはドイツで日々新しく確認されるコロナ感染者の数は、200人から300人と少ない日もあり、このままコロナ危機は乗り越えられるのではないかという希望が持てた。しかし、最近になってその数は千人を越す日が続いている。そのためドイツでは今でも、欧州連合(EU) か欧州経済領域に属する国以外のいわゆる第三国からの入国は、いくつかの例外を除いて厳しく制限されている。こうした状況下で自由に会うことができなくなった非婚のカップルがいることを受けて、ドイツ政府は8月10日からは、第三国からの非婚のパートナーも入国ができるように制限を緩和した。なかなか粋な計らいだ。

西ヨーロッパの国々でコロナウイルスによる感染拡大が急速に進んだ3月16日、ドイツは隣接するオーストリア、スイス、フランス、ルクセンブルク、デンマークとの国境で検問を開始し、特別な理由がなければ、入国も出国も認めないと発表した。行き来が認められたのは通勤する人や、トラックでの食料品や工業製品の輸送に関わる人たちだけとなった。「人の自由な移動」はEUが誇りにしてきた基本理念の一つだ。それにも関わらず、ドイツがこのような入国制限措置を取ったのは、その当時これらの国のドイツに隣接する地域で、コロナ感染者が急に増えたことが原因だった。例えばオーストリアやフランスは、ドイツより早くレストランや商店の営業を禁止するなど厳しいコロナ対策を取ったため、そこから人々がドイツに買い物や食事をしに来るようになることが予想されたのだ。

こうした「国境閉鎖」はそれまで国境を越えて一緒に生活してきた人たちの間に、物理的にも心理的にも亀裂を生じさせた。ドイツ西部でフランスと接するザールラント州のガースハイムという町では、フランス人の多くが、ドイツの病院、介護施設、食料品店などいわゆる医療や生活で欠かせない分野で働いているにも関わらず、 「ドイツから出て行け」と言われるような嫌な事件が何度か起きた。この「国境閉鎖」は、ドイツとフランスの和解の努力を台無しにするものだと、地元の町長は連邦政府の政策を批判した。

ドイツ南部のコンスタンツとスイスのクロイツリンゲンの間の国境も閉鎖された。ここにはまず、ドイツ当局がフェンスを設けたという。しかし、両方の町に分かれて住む友だちがフェンス越しに一緒に遊んだり、フェンスの隙間を利用してビールを回し飲みしたり、恋人がキスを交わしたりしたため、今度はスイス当局が、一つ目のフェンスから少し離れた所に二つめのフェンスを設置したそうだ。そのためフェンス越しに手を握ったり体を触れ合ったりすることはできなくなってしまった。それでも友人や恋人たちはフェンスのところにやって来て、お互いの顔を見つめたり、声を掛け合ったりした。何人もの人が距離を取りながらフェンスに張り付いて立っている写真は、とても切ないものだった。

幸い隣国との間の国境管理は6月16日に解除され、今はEUや欧州経済領域における移動の自由が取り戻された。またドイツは、国籍やそれまでの滞在地がどこであるかにかかわらず、ドイツにおける長期滞在資格を持っている人の入国も認めている。もちろんその中には、ドイツ人の配偶者も含まれる。しかし、ドイツには婚姻届を出していないカップルは140万組もいるのに、彼ら非婚カップルはその対象から外されていたのだ。このことについて、連邦内務相のゼーフォーファー氏(キリスト教社会同盟/CSU)が、なんとか改善したいと発言していた。これを聞いて私は、保守派の同党の中でもハードライナーとして、難民の受け入れ問題などでは何度もメルケル首相(キリスト教民主同盟/CDU)と激しく衝突して来た同氏の意外な一面を見たような気がした。しかし考えてみれば社会の現状に合わせた措置で、当然のことかもしれない。この措置はドイツだけでなく、EU全体で取られたもので、そこには現在EU議長国であるドイツの働きかけが大きかったという。

この場合のカップルとは、ある程度の期間付き合ってきた二人を指すのだが、婚姻証明のような書類のない二人がどのようにしたらカップルと認められるのだろうか。 まずは付き合いの期間の長さを証明する必要があり、それはかつてドイツで会ったことを証明する航空チケットや入国スタンプ、もしくはかつて外国で一緒に住んでいたことが判る書類だという。そして二人がカップルであることを二人の署名入りの書類で宣言し、ドイツに住んでいるパートナーからの招待状が必要だ。残念ながら少し面倒な手続きが必要だが、愛する二人にとっては、大した障害ではないだろう。

ところで、以前伝えた日本のコロナ鎖国は、少し改善されるようだ 。今まで外国籍を持っている人は、再入国許可の保持者でも家族が亡くなったり、治療を受けたりするなどの「特段の事情」で外国に出た場合しか、日本に再入国することができなかった。それが9月1日から、こうした「特段の事情」がなくて外国に出たとしても、在外公館が発給する再入国関連書類提出確認書と、出国前72時間以内に実施した検査による新型コロナウイルスの陰性証明 があれば、在留資格がある外国人は日本に再入国できるようになるそうだ。日本の社会の一員として働き、学び、生活している人たちを日本は必要としているのだから、いまの社会の現実に合わせた対応をするのは当然のことだろう。

 

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