コロナ規制の一部緩和で、少し元気を取り戻し始めた街
コロナウイルスの感染拡大を防ぐため第一弾、第二弾と措置が徐々に厳しくなっていったために、ドイツでは3月中旬頃から、映画に行ったり、友達と会ったりという日常生活のささやかな楽しみが、奪われていった。食料品店やスーパー、薬局などのごく限られた店以外は閉まったため、買い物に出かける楽しみもなくなった。しかしそんなことは些細なことで、休業を強いられた人や職を失ってしまった人もいる。もっと辛いことに、ドイツだけでもコロナウイルスのせいで、すでに5000人以上もの人が亡くなった。その一方で、4月15日、コロナ措置の一部が緩和されることが発表された。コロナ危機が始まってから、出口の見えない暗くて長いトンネルの中にいるような気分で毎日を過ごしていた私たちにとって、久しぶりの明るいニュースだった。
コロナ措置の一部緩和は、4月15日にメルケル首相とドイツ全国16州の州首相による電話会議で決定した。今回緩和に踏み切ったのは、この数日、新しく感染する人よりも回復する人の方が多くなっていることや、一人の感染者が何人の人を感染させるかを示す基本再生産数 (R0) が1を下回っていることなど、感染に関する指標が良い方向に向かっているからとのことだった。電話会議の結果を告げる記者会見でメルケル首相は、「生活を変え、色々なことを諦め、規則を守ってくれた市民に感謝したい」と述べた。しかし少しでも油断すれば、R0はすぐ1を超えてしまうという。つまり、再び感染者がどんどん増えてしまう恐れがあるのだ。そこで他人との間に最低1.5メートルの間隔をあけること、同居人以外との接触はできるだけ避けることという、今までの措置の中で核をなす接触制限は二週間延長され、5月3日まで続くことになった。
メルケル首相と州首相の話し合いで決まったことは以下の通りだ。
◎ 公共交通機関内と店舗内でのマスクの使用を推奨する。
◎ 売り場面積800平米以下の小売店は、客と店員の安全を守るための対策を実施するという条件付きで、4月20日から営業を再開してよい。
◎ 店舗の規模に関係なく自動車販売店、自転車屋、書店は4月20日から営業を再開してよい。
◎ 衛生基準を守ることを条件に、美容室は5月4日から営業を再開してよい。
◎ 学校の授業は5月4日から高学年から徐々に再開する。試験の準備はその前から行なってよい(コロナと学校の問題についてはこちらの記事を参照)。
市民にとって一番嬉しかったことは、売り場面積が800平米以下で客一人につき20平米を確保するといった条件を守れば、どんな小売店も開けてよくなったとことだ。その一方で、3月16日に営業が禁止されたバーやディスコ、劇場やコンサートホール、博物館や美術館、スポーツ施設などの再開は認められなかった。飲食店も、これからも持ち帰りや宅配のみが許され、教会の礼拝や旅行も引き続き控えるようにとされた。具体的に書かれていないが、スポーツや文化イベントなどを指しているのだろう、感染拡大の要因となるので大規模な催しは8月31日まで禁止となった。
この日発表されたものは政府と州が合意したガイドラインで、それをもとに各州が政令を出した。なぜならコロナ措置の法的根拠である「感染症対策法」は州の管轄だからだ。ベルリンでは学校は4月20日から再開されたが、店舗の営業は他の州より少し遅い4月22日からとなった。ベルリンの政令には、他にもガイドラインと異なる点が幾つかある。例えば、売り場面積800平米までの店舗という部分は柔軟に解釈され、大きなショッピングセンターでも、中に入っているテナントのほとんどは800平米以下なので、営業再開が認められた。百貨店など大型店舗も、800平米まで売り場を開けてよいとされた。また、動物園は4月27日から開園、図書館、博物館は5月4日から開館してよいことになった。4月30日からは子供が屋外の公共の遊び場で遊べるようになり、50人までの規模であれば5月4日から教会のミサも行えるようになった。4月22日からは20人まで、5月4日からは50人までの規模の集会も認められるようになった。
私の住む通りには、インテリア雑貨店、アクセサリーの店、靴屋など、個人が経営する小規模な店が幾つかある。この 1ヶ月間、そうした店は全部閉まっていたため通りはひっそりしていたのだが、営業再開が認められた4月22日 には一斉に店が開き、かつての明るさが戻ってきた。 冬物セールや復活祭の飾り付けのまま、時間が止まってしまっていたショーウインドーは、春から初夏向けに模様替えされていた。隣の店の店員と久しぶりのお喋りにふける店員、常連客の訪問を喜んで迎える店の主人。やっと店を開けられた嬉しさが、どこからも伝わってくるようだった。一瞬、コロナ危機は悪い夢だったのではないかと思ったほどだが、よく見ると、どの店の入り口にも消毒液が置いてある。早速入ってみたブティックでは、「商品に触る前に、手を消毒して下さいね」と言われ、現実に引き戻された。おまけにレジの所には、飛沫感染を防ぐための透明なガラスの仕切りが取り付けられていた。見かけは以前の街並みに戻ったが、やはりコロナは日常生活を変えたのだと痛感した。
久しぶりにベルリン西部の中心街にも出かけてみたが、800平米より小さい店でも、全てが営業を再開しているわけではなかった。開店のためにまだ準備をしているという貼り紙も見かけたが、ツォー駅近くのショッピング•センターでは、全体の3分の1ほどの店しか開いていなかった。コロナ危機以前に比べると、人通りもずっと少なかった。店が開いたことがまだあまり知られていないのか、感染するのが怖くて人混みに出かけることを避ける人が多いのか 、理由はよくわからない。あるニュースでは、措置が緩和されたとはいえコロナ危機が収束したわけではなく、まだ買い物を楽しむ余裕のない人が多いのだろうと説明していた。それに何と言っても、今までベルリンの中心部が賑わっていたのは、国内外からの観光客がたくさん来ていたからだ。飛行機はほぼ飛ばず、ホテルも観光目的の人の宿泊は認めないという今の状況が続く限り、街に以前の賑やかさは戻ってこないだろう。ただ、若者に人気のブランド店や、家電やパソコンを扱う量販店の前には行列ができていた。 店内に入れる客の数を制限しているためだが、スーパーの前などでお馴染みになった1.5メートルの間隔をあけた行列が、これからはショッピング街でも風景の一部になるのだろう。
今回の緩和策は、人々をコロナウイルスから守るという現在の最優先事項と、経済への打撃は最小限に抑えたいという考えを天秤にかけながら取られたものだった。しかしなぜ800平米という制限ができたのか、大きな店ほど、店内で客同士が接触する危険性は低いのに不公平ではないのか?と言う声が出たし、緩和の対象から外された飲食店やホテル業界は、悲鳴をあげている。政府と州で決めたガイドラインであるにもかかわらず、かなり大幅な緩和に踏み切った州もある。しかし緩和を急ぎすぎて、 再び感染者の数が増え始めれば、今までの努力は無駄になる。規制措置を導入することよりも、緩和していくことの方が難しいことを実感した。これからも順調に感染者が減っていくにしても、何をどの順番で緩和していくのかを巡って、いろいろな議論が交わされることになるだろう。