IMO、貨物船の二酸化炭素排出量を、2050年までに2008年比で50%削減

ツェルディック 野尻紘子 / 2018年4月22日

国連機関の一つである国際海事機関(IMO、International Maritime Organisation)はこのほど、船舶による海運のために生じる二酸化炭素の排出量を、2050年までに2008年比で50%削減することを決めた。この目標を達成するためには、2030年代から新たに導入される世界のコンテナ船などの過半数が、再生可能エネルギーなどで操業されるゼロエミッション船でなければならないという。ただ、この協定には強制力がなく、また「出来る限り早期に、二酸化炭素排出量のピークに達すること」という副文が付いており、排出量はこれからもまだ当分は増えるようだ。

現在、世界の貨物の約80%は、約5万隻の貨物船で世界各地に輸送されている。クルーズ旅行の人気も高まる一方で、巨大なクルーズ船が急ピッチで増えている。これらの船が航海の際に排出する二酸化炭素は年間約8億トンと言われ、これは全世界の二酸化炭素排出量の2%に相当する(ちなみに、2017年のドイツの排出量は9億470万トン)。関係者によると、もしこのまま協定が成立しなかった場合には、2050年の時点に、貨物船などの排出する二酸化炭素の量は世界の二酸化炭素排出量の20%に達する見込みだったという。

今回の協定は、世界173カ国の代表が、機関の所在地であるロンドンで、2週間にわたり厳しい討論をした末に得られた結果で、このような海運関連の協定が成立したのは初めてだという。 当初反対だったインドやブラジルは賛成に回ったし、中国も最初から協力的だったが、サウジアラビアと米国だけはこの協定に最後まで賛成しなかったという。ドイツを含む欧州連合(EU)の一部や、既に気候変動の影響を被っている島国などからは、二酸化炭素の排出量を2050年までに70%削減して欲しいという要求も出ていたが、採択されなかった。また、EU内の産業界は、世界共通の合意が得られない場合には、EUだけが独自の取り決めを作るのではないかと心配し、そうなるとEUが世界貿易で不利な立場に追い込まれると憂慮していた。

国際船舶会議所(ICS、Internatinal Chamber of Shipping)のピーター・ヒンチリッフ事務局長は、この協定を、地球上の平均気温の上昇を、産業革命以前に比べて2度以下に抑えるという、2015年末の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で決まった「パリ協定」になぞらえて「海運業界の画期的な『パリ協定 』」と命名した。2015年の「パリ協定」では、海運業と航空業は考慮されていなかったのだ。

エネルギーと海運の専門家であるユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのトリスタン・スミス氏は「この合意は、世界の海運業界が一団となって気候変動に対処する初の試みで、『パリ協定』の目的を達成するための大きな進歩だ」と語った。「 ただし業界は、技術面での大きな変化に急遽対処する必要がある」とも指摘した。

ドイツ連邦海運庁(BSH、Bundesamt für Seeschifffahrt)によると、ドイツには新鋭の、環境に優しい造船技術を開発している企業があるという。ドイツ船主連合のアフルレッド・ハルトマン会長は「全世界の海運業界は、必要な運輸事業を制限することなしに、二酸化炭素の排出量を大幅に削減するという大きな課題に挑戦しなければならない。各国政府は、環境に優しい貨物船や旅客船の導入という、この技術的な革新のために業界と協力し、資金援助をするべきだ」と述べた。

なお、世界の民間航空業界が排出する二酸化炭素は現在、世界の二酸化炭素排出量の2%強だが、業界は急成長を続けており、2050年までには排出量が2倍から4倍に増えるという予測もある。2016年秋に結ばれた業界の二酸化炭素排出量に関する協定によると、2020年以後に導入される新型の航空機に限り、一定の二酸化炭素排出量制限を守らなくてはならないことになる。

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