「乾ききった夏-我々は生活態度をどう変えなくてはいけないのだろうか」

ツェルディック 野尻紘子 / 2018年9月9日

とは、8月末の日曜の晩のテレビのトークショーのテーマだった。今年のように、これほど毎日、太陽の出る夏を経験したことは、ドイツ生活50年を超す私にとって初めてだった。来る日も来る日も太陽が燦々と、いやジリジリと照り、しかも気温が高く、40度に近づく日も度々あった。そして北ドイツや東ドイツでは、何よりも4月から9月まで、雨らしい雨がほとんど降らなかった。水不足で農地にひびが入り、農作物が干からび、収穫高が例年の半分以下だったり、牧草が育たないため家畜の緊急屠殺に迫られたりした地域も出た。大多数のドイツ住民が、地球温暖化を垣間見たと感じた夏だった。それとも、それはもう始まっているのかもしれない。

この「乾ききった夏-我々は生活態度をどう変えなくてはいけないのだろうか」は、ドイツ公共第一テレビ(ARD)が毎週日曜の晩に放送する「アネ・ヴィル」という番組のテーマで、この番組は数多くあるドイツのテレビのトークショーの中で最も重要視されている。「アネ・ヴィル」に対抗するドイツ公共第二テレビ(ZDF)のトークショーは「マイブリット・イルナー」で、毎週木曜の晩に放送される番組だが、ここでも夏休み後初のテーマは「暑い惑星-我々には物事を放棄する用意があるだろうか」だった。

この二つのトークショー(いずれも女性司会者の名前がつけられている)では、いつもいろいろの社会問題や政治問題が話し合われる。この度、両者が揃って、ドイツで気象観測が始まって以来最高だったこの暑い、乾ききった夏を機に、「地球温暖化の責任は我々住民、消費者の行動にある、行動の変化が必要だ」と-まだいくらか控えめではあったが-視聴者にアピールしたのは印象的だった。そもそも、ドイツのメディアが、読者や視聴者、つまり消費者を批判することは非常に少ない。例えば、健康に害を及ぼすと言われるディーゼル車の排出する酸化窒素。何度も報道のテーマとなっているが、批判の対象はいつも政治と自動車メーカーで、消費者ではない。消費者が自重して、絶えず車を乗り回すことを止め、いくらかでも走行距離を減らすなら、空気中の酸化窒素の値は低下に繋がるはずなのだが、そんなことの書かれた新聞記事を読んだことはないように思う。

「アネ・ヴィル」の司会者、アネ・ヴィルは、「この夏は、何たる夏だったのだろう」というセンテンスで彼女の番組を始めた。そして、「これは天候だったのだろうか、それとも気候変動だったのだろうか」という質問を、その分野の第一人者であるポツダム気候影響研究所PKI、Potsdam-Institut für Klimafolgenforschung)のハンス・ヨアヒム・シェルンフーバー所長に投げかけた。同氏の答えは「気候変動だ。原因は97〜98%人間が作ったものだ」とはっきりしていた。

「私たちはこの夏、ヨーロッパにいながら地球温暖化を体験した」と発言したのは、緑の党のアネレーナ・ベアボック共同代表だった。同氏は、地球の気温は産業革命以前に比べて既に1度上昇していると語り、「学術界は気候の変動を証明している。するべきことは政治家が行動に出ることだ」と野党側の立場から現政権を批判した。シェルンフーバー氏は、気温上昇の上限を産業革命以前に比べて1.5〜2度に抑えるという2015年末の「パリ協定」の決まりが、このままでは守れないだけではなく、我々が現在、3〜4度の気温上昇に向かって突進していることを指摘した。

我々がこのまま、今まで通りの生活態度を維持するなら、気候変動が避けられないことは事実のようだ。では、どうすれば良いのだろうか。「アネ・ヴィル」は、ドイツの消費者がここ数年間に購入した自家用車の4分の1が燃料消費の大きいスポーツ用多目的車(SUV)だったことや、飛行機と豪華客船の旅客数が爆発的に増えていることなどを短いフィルムで紹介した。これらは気候変動の原因となる二酸化炭素排出量の増加の原因の一部だ。

「格安便が増えている上に、飛行運賃には付加価値税もかかっていない」と批判したのもベアボック氏だった。しかしこれには、「安いチケットを利用する人たちの中には、初めて飛行機に乗るお爺さんやお婆さん、帰省する学生もいる」と、ノルトライン・ウェストファーレン州のアンドレアス・ピンクワート経済相(自由民主党)が異議を申し立てた。そのまま受け入れていい意見だろうか。

「マイブリット・イルナー」の司会者、マイブリット・イルナーは「地球は汗をかいている、地球は熱を出している」と彼女の番組を始めた。そしてこの夏に我々が経験した事実を「将来の予告編」だったと名付けた。「二酸化炭素の排出量が増え続けるにも関わらず、我々は飛行機に乗り、SUVを購入し、そして年間60キロもの肉を食べている。政治は無駄や贅沢をする人を罰し、気候変動防止に貢献する人を褒めるべきではないだろうか」とも問いかけた。

トークショーに参加したTVジャーナリストで有機農業を営むマックス・モーア氏は「贅沢や便利さを我慢するだけでは足りない。必要なのは根本的なシステムの転換だ」と発言し、緑の党のローベルト・ハーベック共同代表も「異常気象は既に当たり前になってきた。真の解決策が必要だ」と強調した。そして自由民主党のヴォルフガング・クビキ連邦議会副議長が「ドイツだけでは解決できない問題だ」と指摘したことに続いて、ドイツ北部キールのライプニッツ海洋科学研究所のモジブ・ラティフ所長は「世界には事実上、真の気候政策が存在しない」と訴えた。番組では、ここ1年間、車を放棄したり肉食を控えたりして、できるだけ環境に優しい生活をしてきた4人家族の報告もあった。

シェルンフーバー氏は先ごろ、全国紙「南ドイツ新聞」のインタヴューで、我々の生活態度を「壁に向かって突進する集団自殺」と称した。気候変動は、我々が今年経験したように、もう始まっているようだ。待っている時間はない。我々一人一人が、少しずつでも、生活態度を変える時が来ていると思う。

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