これが“将来の家”?

ツェルディック 野尻紘子 / 2012年1月29日

消費するエネルギー全てを自給するハイテク一軒家がベルリンの町中に登場した。「エフィツィエンツ・ハウス・プルス(高効率ハウス)」と名付けられたこの家、ドイツ連邦交通・建設・都市開発省が情報提供兼研究目的のモデルハウスとして、現在導入可能な種々の技術を駆使して建てた快適な家だ。一方でエネルギーを生産し、他方ではエネルギーの浪費を極度に減らし、余剰電力で自家用電気自動車に電源を提供する。この3月から15ヶ月間の実用試験が始まり、抽選に当たった4人家族がそこに住み、技術や住み心地をテストすることになっている。

この家は2階建てで、延床面積は136㎡。1階には居間、食堂、台所とお手洗い、2階には親の寝室と子供部屋が二つ、それにバスルームがある。通常ドイツの一軒家にある地下室がない代わりに、両階のかなり大きなスペースが「エネルギー技術センター」となっており、そこには制御用コンピュータや配電盤、ヒートポンプ、パイプ、タンクなどが配備されている。

約100平米ある屋上には太陽光パネルが設置され、南側の壁面は黒い太陽光発電モジュールで覆われている。両者で年間1万6500kWhの発電が可能になるという。ドイツ一般家庭の年間電力消費量は通常3500kWhと言われているから、この発電量がいかに大きいか理解いただけると思う。但し、この家の年間電力消費量は約1万kWhと計算されている。その主な理由は暖房や給湯に石油やガスなどをいっさい使用せず、ヒートポンプを使うからだ。

この家は、冬の寒い日でも、外気マイナス20度までなら、ヒートポンプで暖めたお湯を使う床下暖房で十分快適な室温を保つことが出来るように設計されているという。そのために家の外壁には36cmもある繊維素の断熱層が施されており、窓やガラスのドアは全て三重断熱ガラスだ。また、熱のロスを考慮して北側には窓を作っていない。そして換気は自動的に行われ、その際、取り込む新鮮な空気は事前に適当な湿度を持たせて部屋の温度に暖め、交換する空気からは外に排出する前に熱を回収する。温度設定などの変更は、スマートフォーンや壁に取り付けられたタッチパネルで する。

もっとも、この家の良いところは、多少熱のロスはあるかも知れないが、手動でも窓の開閉が出来ることだ。また、西に面する玄関側には屋根が大きく張り出ていて、太陽の低い冬には日が差すようになっているが、太陽の高い夏には直射日光が入りにくいようになっている。テラスのある東側のドアを開ければ、暑い夏の日に風を通すことも出来そうだ。

玄関前の屋根のあるスペースは、カーポート兼電気自動車充電場所となっている。15ヶ月の試験期間中、メーカーから提供される4人乗りと2人乗りの電気自動車2台が家族のマイカーとなる。他に電気自転車1台もこの家に装備されている。日常生活に必要としない余剰電力は庭に埋められる容量40kWhの電池に充電し、自動車などの電源とする。夜間、太陽の出ていな時間帯に使用する電力源ともなる。電気自動車は、6000kWhで約3万km走行可能という。更に余った電力は再生可能エネルギーとして売却する。

住むことになる4人家族がどんな反応を示すか、興味深い。

なお、建設省は、この家はモデルハウスで、3年後に解体する予定なので、工事費が不必要に高くなる地熱を利用する装置は今回使用しなかった、と発表している。他の場所に移して再び組み立てることも出来るし、環境に悪影響を与えずにリサイクルすることも可能なように考慮されているという。

 

 

 

 

 

 

Comments are closed.