ドイツ統一から29年、旧東独地域の現状
1989年11月にベルリンの壁が崩壊してから今年で30年、翌1990年10月に旧東西ドイツが統一して一つの国家になってから今年で29年が経った。その間、旧東ドイツ地域はどう変化しただろうか、ドイツ統一はどこまで進んだだろうか。ドイツ連邦政府直属の東部ドイツ担当官、クリスチャン・ヒルテ氏はこのほど『2019年度、ドイツ統一に関する政府年次報告書』を発表し、「ドイツ東部の状況は、一般に語られているよりずっと良好だ」との見解を明らかにした。しかし、統一は「まだ終着点に達していない」とも語った。
旧東独地域を訪ねると、整備された道路などのインフラや綺麗に修復された街並みなどにびっくりする。ライプチヒやイエナには活気があるし、バルト海に面する海岸地域は夏の間、避暑客で賑わっている。
「『旧東西ドイツの生活条件を同じようにする』というドイツ統一以来の課題は、大きな進歩を遂げている。旧東独地域の経済状況は着実に旧西独地域の状況に近付いてきている」と、自身も東部出身のヒルテ氏は強調する。ベルリンを含む旧東独地域の人口一人当たりの国民総生産は、1990年の旧西独地域の43% から現在は75% に増えた。 2018年の経済成長率は、西の前年比1.4% を抜いて東では同1.6% になった。東部ドイツでの失業率は、1990年の12% から2018年には6.9% に下がった。その間、西部ドイツの失業率は7.7% から 5.2% に低下している。そして1990年代のドイツ東部の最大の難関だった失業問題は、現在では重要性を失っている。 東部の平均賃金も2018年までに西部の84% に達している。
ドイツ統一後に、大勢の東部ドイツの働き盛りの若い人たちが、チャンスを求めて西部ドイツに移ってしまったことは大きな問題だった。例えば、人口の半数が西独に移ってしまったというような町もある。ただ、人口の移動には2015年頃から歯止めがかかりだし、2017年からは、西部ドイツから東部ドイツに移動した人たちの方が多かった。その中には、一度西部に移っていたものの、再び故郷に戻った人たちも含まれるという。
ヒルテ氏によると、統一の進歩は数値に表れているだけではなく、旧東独地域の住民の間でも認識されている。彼らの3分の2以上が、「自分自身だけでなく旧東独地域の他の人たちも、現在の生活状況を1990年よりずっと良いと考えている」という。
しかし、東西間の生活条件が完全に均等になったわけではない。ヒルテ氏は、旧東独地域の企業が小規模であること、ドイツの一番大切な株価指数であるDAX に含まれているようなドイツを代表する大企業の本社が東部に一つもないこと、また、大手外国企業もドイツ本部を東部に置いていないことを指摘している。国際的な大企業の存在する地域には、待遇や研究環境の良い職場が誕生するのだが、東部にはそのチャンスが与えられていない。
また、現在社会はデジタル化やグローバル化に適応することが求められているが、東部ドイツでは若い有能な労働力が不足している。同時に、東部ドイツでは住民の老齢化が進んでいる。そして、ドイツ統一から今までに経験してきたような大きな変化を、もう一度繰り返したくないとする人たちが、多くいることも事実だという。しかし現実には、ドイツ政府が先ごろ決定した2038年までの脱石炭政策などのために、さらに新たな構造改革が求められている。
ヒルテ氏は、東部ドイツにはまだ、個人としてもグループとしても、不利な状況に立たされていると考える人たちが多いと言い、「それは、彼らが不幸にして40年間、不当な立場に立たされていたからだ」と説明する。そして政治家には、その問題を解決する努力が必要だとし、自分自身もそのために尽力すると述べた。