フランス、フェッセンハイムの廃炉、今度こそ本当?

ツェルディック 野尻紘子 / 2018年12月9日

フランスのマクロン大統領が11月27日「エネルギー転換に関する10年計画」を発表した。それによると、ドイツの国境に近いエルザス地方のフェッセンハイムにあるフランス最古の2基の原発は2020年の夏に操業を停止する。同原発は1977年に稼働を開始しており、すでに40年以上発電を続けているが、何度も大小の事故を起こしており、フランスやドイツ、そしてスイスの環境保護団体、またドイツ政府からも、古くて危険なので1日も早く停止するよう求められてきた。ただ、フランス政府はこれまでにも何度も、この原発の停止予定を発表しているが、何度も延期され、まだ実現していないので、今回も確信が持てるわけではない。

しかし、今回は今までとは事情が少し異なる。というのは、フェッセンハイムの2基の原発を操業しているフランス電力(EDF)が数週間前に、第一ブロックを2020年9月に、第二ブロックを2022年8月に停止すると政府に通告しているからだ。理由は、この2基の原発が近々、10年間隔で行われる大掛かりな検査を受けなければならないからで、EDFにはそれにかかる多額の費用を支出する用意がないというのだ。マクロン大統領の両ブロックを2020年夏に停止するという発表は、このEDFの通告を前倒しにした形だ。

マクロン大統領はまた、現在フランスにある58基の原発のうち、さらに12基を2035年までに停止するとも発表した。それにより、フランスの原発依存度を現在の75%から2035年までに50%にするというのだ。これは、2015年にオランド前大統領が「原発依存度を2025年までに50%に下げる」と提唱したことに比べて10年の遅れを意味する。ただ、オランド政権の政策が踏襲できないことは、この8月に辞任したユロ前環境相が、すでにこの春にほのめかしていた。

マクロン大統領の任期は2022年春までなので、一般的に、フェッセンハイムが2020年に停止される可能性は大きいと見られる。しかし、その後の計画には疑問符が付いても不思議ではない。例えば、大統領は「原発の代わりに石炭火力発電を増やす計画はない」と強調して、「我々は全ての石炭火力発電を2022年までに閉鎖したいと思っている」と付け加えたり、「2030年までに風力発電を現在の3倍に伸ばす」と発言したりしているのだが、これらが実現するかどうかはわからない。それに、大統領はフランスの原発依存という方針を変える姿勢は示していない。

国境のライン川を挟んで、フランスのフェッセンハイムの対岸にあるのはドイツのバーデン・ヴュルテンベルク州だ。同州のウンターシュテラー州環境相は、マクロン大統領の発表に対して「まだ喜ぶわけにはいかない」と発言している。今までに何度も落胆させられてきたからだという。そして「2020年はまだずっと先のことだ。1日も早く停止することが望ましく、それまで待たせるのは無責任だ」とも言う。シュルツェ連邦環境相は「マクロン大統領が原発停止を保証するのは嬉しいことだ。肝心なのは、発言が実行に移されることだ」と述べた。ドイツ環境自然保護同盟(BUND)のマイヤー同地域支部長は、「2020年の停止は可能だと思う。古い原発が停止まで無事であることを望む」と話し、フライブル出身のアンドレア連邦議会議員は、「フェッセンハイムが2年後に停止するのは、数多くの環境団体やグループが、長年にわたり同原発の危険を唱えてきたからだ」と指摘する。

なお、フェッセンハイム原発はドイツ・フランス間の国境線から100 mと離れない場所に位置し、ドイツの人口23万人の大学都市フライブルグからも20 kmしか離れていない。フライブルグの住民にとって、フェッセンハイムは 、ドイツで反原発運動が誕生したヴィールというフライブルグから32 km 離れた土地よりも近い。ヴィール一帯はドイツのワインの名産地として知られるカイザーシュトゥールという地域で、1970年代に、ここに計画された原発建設に対して、ワイン農家や住民が猛烈に反対したことから、ドイツの反原発運動は全国に広まって行った。現在も、この地域には原発が1基もない。

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