東部2州で右翼ポピュリズム政党が躍進

永井 潤子 / 2019年9月8日

9月1日に行われた東部ドイツの2州、ザクセン州(州都ドレスデン)とブランデンブルク州(州都ポツダム)の州議会選挙ほど、その結果が注目された州議会選挙は近年なかった。それは、当初の世論調査で、右翼ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、この2州で第一党になる可能性が伝えられたからである。ドイツ統一以来30年間、ザクセン州ではキリスト教民主同盟(CDU)が、また、ベルリンを取り巻くブランデンブルク州では社会民主党(SPD)が、一貫して政権を担当してきた。かつて国民政党と見なされてきたCDUとSPDが、その退潮傾向をストップすることができるかどうかも、今回の州議会選挙での大きな関心事だった。

初の開票結果の予想が発表された当日18時過ぎ、多くの人はホッと胸をなでおろしたのではないだろうか。この2州でAfDはともに第一党になることはできず、ザクセン州ではミヒャエル・クレッチマー州首相 (44歳) の率いるCDUが、ブランデンブルク州ではディートマー・ヴォイトケ州首相 (57歳) のSPDが第一党の地位を守ることに成功したと報道されたからである。

選挙管理委員会が発表した暫定結果は以下の通り(括弧内は前回2014年との差)。

ザクセン州のクレッチマー首相も、ブランデンブルク州のヴォイトケ首相も、州内各地の有権者の話を聞き、対話を重視する姿勢で精力的な選挙戦を展開した。その結果、選挙直前の世論調査では、劣勢を挽回することに成功したとの予想が生まれていたが、それが実証された。特にザクセン州ではCDUはAfDに4.6ポイントの差をつけて、32.1%の票を獲得することができた。また、激しい競り合いが予想されていたブランデンブルクのSPDも、26.2%を獲得して第一党の地位を守ることができたが、AfDとの差は2.7ポイントという僅差だった。

ザクセン州のクレッチマー首相©️Landesverband der sächsischen Union

二つの州でクレッチマー首相もヴォイトケ首相もその地位にとどまれることにホッと一息ついた人たちも(私もその一人だが)、次の瞬間、AfD の躍進ぶりに改めて衝撃を受けた。AfDの得票率は、ザクセン州では27.5%で、前回2014年のほぼ3倍に伸びており、有権者のほぼ4分の1がネオナチも含むこの右翼ポピュリズム政党を支持したことになる。ブランデンブルク州でも、AfDの得票率は23.5%で、前回のほぼ2倍の票を得ている。その一方、これまで「東部ドイツ人の利益を代表する党」と見なされてきた左翼党の衰退ぶりが目立った。左翼党は、二つの州で大幅に票を減らし、ザクセン州では10.4% (-8.5%)、ブランデンブルク州では10.7% (-7.9%)にとどまった。5月のヨーロッパ選挙で躍進した緑の党が、これまで支持者の少なかった東部2州で、どの程度票を伸ばすかも注目されたが、ブランデンブルク州では前回より4.6ポイント多い10.8%を獲得したが、ザクセン州では2.9ポイント増の 8.6%で、票を伸ばしたのは確かだが、予想されたほどの大幅な伸びではなかった。その理由は、緑の党の支持者がAfDの躍進をストップするため、あえてCDUやSPDに投票したためだと分析されている。

投票率はザクセン州で66.6%、ブランデンブルク州で61.3%と、いずれもこれまでより高かった。「AfDかあるいは従来の政権与党か」という白熱した論議が、これまで投票に行かなかった層も動員する結果になったと見られている。

ザクセン州のCDUもブランデンブルク州のSPDも、AfDとの連立を拒否している。両州とも、これまでの2党連立では過半数に達しないため、緑の党や左翼党を含む3党の連立にならざるを得ず、新しい連立政権の樹立には、かなり時間がかかるものと予想されている。

東部ドイツ出身で、統一後の1998年から2005年まで連邦議会議長を務めたヴォルフガング・ティールゼ氏は選挙の夜、ドイチュラントフンクとのインタビューで「これほど多くの東部ドイツの有権者が、ネオナチなどを含む排外主義的な右翼ポピュリズム政党を選んだのは、本当に悲しい」と嘆いていたのが、印象に残った。

なぜ東部ドイツでAfDがこれほど躍進するのか、さまざまなメディア、世論調査機関、学者が分析しているが、今回、二州の選挙結果の詳細な分析を見ると、いくつかのことがはっきりしてくる。まず、二洲ともAfDを選んだのは、圧倒的に男性が多いということだ。ザクセン州では男性が最も多く選んだ政党はAfD で、その率は33%に達したが、女性では22%に過ぎなかった。その逆に現在の政権与党CDUを選んだ男性が31%だったのに対して、女性は37%がクレッチマー首相の率いるCDUを選んでいる。ブランデンブルク州でも、最も多くの男性が選んだ政党はAfDで30%だったが、女性では19 %に過ぎなかった。逆にヴォイトケ首相のSPD を選んだ男性は24%と少なかったが、女性では29%と多かった。

ブランデンブルク州首相のヴォイトケ氏©️Oliver Lang

二州とも男性の中でも30歳から59歳までの年齢層にAfDの支持者が多く、この世代では支持率は50% 以上に達する。また、二州とも18歳から29歳までの若い世代でも、AfDの支持者が多いという意外な事実も明らかになった。どちらの州でもこの若い世代でのAfDの支持者は21%程度で、緑の党とほぼ同じ支持率となっている。一方、世論調査機関、Forschungsgruppe Wahlenの分析によると、二州でAfDが第一党になるのを防いだのは、60歳以上の高齢者層だということである。ザクセン州では60歳以上の43%が現在の政権与党CDUを選び、ブランデンブルク州では60歳以上の有権者の37%がSPDに一票を投じ、そのことが今回の州議会選挙で決定的な役割を果たしたと見られている。

そのほか、労働者層にAfDの支持者が多いこともわかったが、これは両州で褐炭採掘に携わる労働者が、気候温暖化防止のため褐炭採掘が早期に停止されることへの不安を感じていることが反映していると見られる。教育程度の高い人や公務員の間では、AfDの支持率が低いことも明らかになった。また、都会に暮らす人より地方で暮らす人達の間でAfDの支持率が高いこともわかった。それは統一後若い人達が都会に出かけたことで人口が減った村などで、病院や銀行、商店などがなくなり、バスが1日に1−2回しか運行されなくなったといったインフラへの不満が反映しているとも見られる。

翌日のドイツの新聞は、この二州の州議会選挙の結果についてさまざまな論調を載せた。南西ドイツ、ルードヴィヒスブルクで発行されている新聞「ルードヴィヒスブルガー・クライスツァイトゥング」は、東部でのAfDの躍進に驚きを示し、次のように書いている。「有権者の4分の1、そこにはこれまで棄権してきた人達も多数含まれるが、彼らは 明らかに人種差別的で極右の政党を支持した。その背後には、理解できなくはない感情的な理由が隠されている」。

これに対してフランクフルトで発行されている全国紙「フランクフルター・アルゲマイネ」は次のように見る。「結局ザクセン州の有権者の4分の3は、過激派と超過激派の間でさまざまな顔を持つ政党AfDと全く関係のない政党に投票した。20世紀に2回独裁主義を経験したことは、その経済や社会、そして特に人々の頭や心に痕跡を残したかもしれない。そして、その影響は今後もなお長く続くかもしれない。しかし、この日曜日、民主主義がいかに貴重なものであるかを示すため、これまでより、はるかに多くの市民が、その選挙権を行使した。このことは、『民主主義の没落』という警告の大合唱に同調できない十分な根拠になる」。

ザクセン州のケムニッツで発行されている新聞「フライエ・プレッセ」は、「ザクセンのCDUがAfDに距離を置いてトップに立つことができた理由は3つある」と指摘する。「一つは女性たちである。男性の3人に1人がAfD に投票したが、女性は大まかに言って5人に1人しか、この党を支持しなかった。二つ目はミヒャエル・クレッチマー州首相である。彼の『話し合おう』という戦略が成果をあげたのだ。三つ目は、他の政党の支持者が、AfDが第一党になるのを防ぐため、CDU支持に回ったことである」。

ブランデンブルク州の州都ポツダムで発行されている新聞「メルキッシェ・アルゲマイネ」は次のように指摘する。「AfDが大幅に票を伸ばしたことと国民政党のSPDとCDUの力が弱まったことで、ブランデンブルク州の政治的地図は変わった。今後SPD が政権を維持するためには、3党が連立する必要がある。その結果、政権を担当する政党には、プラグマチズムと妥協する用意がこれまで以上に必要となる。各党の利害調整は難しいものになるだろう。しかし、だからと言って、それは、多くの人が憂慮するような『民主主義の終わり』を意味しない」。

「東部で何か新しい動き」という社説を掲載したのは、ミュンヘンで発行されている全国紙「南ドイツ新聞」である。「ザクセン州のクレッチマー首相も、ブランデンブルク州のヴォイトケ首相も、今回の選挙戦で学んだはずである。この二人は州首相としての地位を守るため、必死で闘った。彼らはそれぞれの党のトップ候補というより、一人の人間として選挙戦を闘った。二人は、精力的に州内の集会に出席し、人々の不満や批判を聞き、意見を交わし、具体的な政策について説明した。クレッチマー首相も、ヴォイトケ首相も強力な人間的魅力を発散するタイプの政治家ではないが、その誠実で、地に足のついた態度で、有権者の信頼を得ようと努力した。人々との対話を重視した結果、地方での警官や医師を増やし、公共交通網の改善に努力するなど具体的な問題について約束した。東部ドイツでは、特に所属政党の利益や自分自身の成功を優先的に考える政治家ではなく、人々の不満に答える、こうした政治家が必要とされる。連立政権樹立までに何が起こるかまだ不明だが、東部の政治家たちには、これまで以上に有権者に説明し、新しいことにも勇敢に挑戦する態度が必要とされる。それが実行される時、東部ドイツに新しいものが生まれる」。

10月27日には東部テューリンゲン州(州都エアフルト)での州議会選挙が行われるが、この州ではボードー・ラメロー首相の左翼党がこれまで政権を担ってきた。この州でもAfDの躍進が予想されている。ラメロー首相の個人的な人気は高いが、所属する左翼党は退潮傾向にあり、ラメロー首相がその地位を維持できるかどうかは、予断を許さない。

 

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