ドイツ電力最大手エーオン、原発と火力発電から撤退?
ドイツ電力4大手中の最大手エーオン(E.ON)が、このほど画期的な発表をして人々を驚かせた。大型発電所で発電される多量の電力が市場を席巻していた時代は終わりを告げ、これからは、あちこちで発電される(比較的少量の)電力を無駄なく利用して電力需要を賄うようにしていく時代が来るという前提にたった、大決断をしたからだ。
エーオンは事業の中心を再生可能エネルギーや 顧客対応の送・配電網などに絞り、従来の中心であった原子力や火力発電事業などを2016年までに本社から切り離して、新しく設立する別会社に移すという。本社に残る従業員の数は現在の6万人のうちの4万人、新会社に移るのは2万人となる。ドイツの電力大手は、ドイツ政府の脱原発決定と再生可能エネルギーの急速な増加で収益の低迷を続けており、何らかの対策を模索していたが、抜本的な事業改革を打ち出したのは同社が初めてだ。
同社は、電力業界の将来的な大きなビジネスチャンスは、風力や太陽光発電などの再生可能エネルギー装置の構築や、各地域に密着して分散する中・小規模の自然エネルギー発電装置の接続、変化しつつある顧客への対応にあると判断した。発電装置を発電量の変動に耐えられる次世代送電網(スマートグリッド)に接続し、また消費者もこのスマートな(洗練された)グリッド(電力網)に接続して、彼らに新しいサービスなどを提供することが考えられる。スマートグリッドはIT技術を駆使し、リアルタイムに電力の発電量や需要量を把握するなどして電力を効率よく送電・供給するインテリジェントな電力網といわれ、省エネも可能にする。
同社は他方で 、これからも石炭やガス火力発電を必要だと考えており、世界規模のエネルギー取引や石油・天然ガスの開発も続ける意向だ。新会社には水力発電も含まれる。ただ、これから促進する自然エネルギーや送・配電網の事業と、エーオンの従来からの事業内容だった原子力、火力、水力発電などは「二つの異なる性質を持つ事業なので、二つの独立した企業に分離することが将来的に有利だと判断した」とヨハネス・タイセン社長は記者会見で語った。
エーオンのこの決断は、 火力発電が将来主にバックアップ的な存在となることを意味する。またドイツの場合、原子力発電所は 2022年までに残っている9基全てが停止される。この国では、原発の再稼働に実現性があると考えている人は殆どいない。
このニュースはドイツで大きな反響を巻き起こした。大半のメディアは「エーオンはエネルギー転換の一部を自ら担おうという動きに出たのだろう」とコメントしている。ガブリエル連邦経済・エネルギー相は「変遷したエネルギー供給を取り巻く社会に対し、徹底した結論を出した最初の企業」と褒め、ドイツ環境自然保護同盟(BUND、Bund für Umwelt und Naturschutz)のヴァイガー所長は「エーオンのマネージャーたちはやっと原子力と火力が過去の発電方式であることに気付いたようだ」と語った。ドイツのグリーンピース代表は「これで原子力と火力発電の終わりに向けて本格的な歴史的方向転換が始まった」と歓迎した。エネルギー問題を担当する緑の党のフェルリンデン連邦議員は「エネルギー転換という新しい時代の幕を切ったのは、緑の党と社会民主党の連立政権による2000年の脱原発決定だった」と強調し、「エネルギー大手はその開幕を長い間無視して来た 」と述べた。
しかし、「従来型の火力発電に将来性が見えないので見切りを付けたのだろう」という批判や、「原発の廃炉作業を国に押し付けるのではないだろうか」という懸念の声も多い。タイセン社長は「火力発電に関してはリストラではなく、単に事業を新社に移すだけだ」として、「解雇は考えていない」と繰り返す。また原発の後始末に関しても「以前からの廃炉用積立金は決算上全て新会社の資産に組み込む」と主張している。同社が所有する7基の原発処分のために今までに積み立てられた資金は、145億ユーロ(約2兆1515億円)に達するという。
ただ、積立金が十分ではないのではないだろうかという疑いは強く、「エーオンは責任を回避するために分社化を図るのだろう」という疑惑は消えない。ガブリエル経済・エネルギー相は、廃炉のことは法律ではっきり決められているとし、国は「廃炉と放射性廃棄物の安全が保たれるよう監視する」と語った。しかし反原発運動や環境保護団体の間では「新しい会社は、不良債権をまとめて扱うバッドバンクのような存在で、つけは結局国が、つまり納税者が払わされることになるのだろう」という声が大きい。