もうちょっと簡略化できないかな、在外投票
12月16日(日)は、日本では衆議院選挙の日ですね。私たち「みどりの1kWh」の関心事であるエネルギー転換も争点の一つとなっているこの選挙。ベルリン在住の私もすでに投票をしてきました。「え? 国外に住んでいても投票できるの?」と驚かれる方もいるかもしれませんね。そうなんです。日本には、海外在住の日本人も投票できる「在外選挙制度」というものがあります。嬉しいシステムではありますが、実際投票したり、周囲の日本人と話したりしてみて、「この制度、もうちょっと簡略化できないかな……」とも感じました。
「在外選挙制度」により、海外在住の日本人が国政選挙に投票できるようになったのは、2000年5月のことです。今から12年前。案外歴史の浅い制度ですね。もちろん、この制度を国に認めさせるまでには、先人たちの努力がありました。ドイツ在住歴の長い「みどりの1kWh」のじゅんさんも実はその一人。70〜80年代頃、一人でロビー活動をしていたとか。在ドイツの日本大使館に訴えたり、日本への里帰りの際は外務省や自治省を訪ねたりしたとのことです。
そのような努力が実って実現した在外選挙制度ですが、今回初めて利用してみて、「投票までの関門が多い……。これは棄権者続出だな」と感じました。以下に、投票するまでの流れを説明しつつ、私が感じた問題点も書いてみたいと思います。
(1) 日本から海外に出る際、日本の自治体に「海外に転出します」という届け出を出す。
これをやらないまま、日本を出てしまった人はかなり多いのではないかと思います。海外への転出届を出すと、国民年金と健康保険は脱退することになります(ただし国民年金は任意で継続可能)。「健康保険を脱退しちゃったら、日本への里帰りのときケガなんかしたら困るよね。それに何だかややこしいし、1年くらいで日本に戻って来るんだろうし、転出届なんて出さなくていいや。長めの海外旅行みたいなもんでしょ」と、転出届を出さないまま海外に出た留学生やワーキングホリデー利用者も多そうです。「日本にいつ帰るかわからないけど、とりあえず海外に出るんだ!」と、何も手続きをせず国を飛び出した武者修行系(?)の若者もいそうですね。本来なら、そんなふうに海外経験を積み、将来は日本で活躍しようと考える人こそ、投票し、日本の政治に意見を反映させてほしいものですが、いきなりここでつまずく人も多そうです。
(2) 海外での住所が定まったら、大使館・領事館に「在留届」を出す(インターネット、郵送可)。
(3) 海外での居住期間が3か月を越えたら、在外選挙人登録が可能になる。本人または家族が大使館・領事館に行って申請をする(インターネットも郵送も不可)。大使館・領事館の人が日本とやり取りをしてくれて、2か月ほどで選挙人登録が完了し、「在外選挙人証」を受け取る。
(2)と(3)は同時にすることも可能。海外での居住期間が3か月を越えた時点で、在外選挙人登録手続きが開始されます。でも、投票できるまで、全部で5か月ほどかかるとは……。また、大使館・領事館に自分で行かないといけないのも、大きなハードルだと思います。私の住むドイツを例にとると、国土面積は日本とほぼ同じくらいですが、日本大使館・領事館の数は5カ所です(ベルリン、デュッセルドルフ、ハンブルク、フランクフルト、ミュンヘン)。ドイツは日本と交流が深い先進国ですが、そうではない国であれば、大使館・領事館の数はもっと少ないでしょう。ちなみに、在ドイツ日本大使館・領事館では、年に1度程度、大きめの都市(ライプツィヒ、ドレスデン、シュトゥットガルト、ハイデルベルクなど)に出かけて行って、在外選挙登録受付や領事業務の出張サービスをしています。ドイツ在住の人は、自分の在住地域の大使館・領事館のウェブサイトをチェックしてみてください。
(4) さて、いざ選挙になった場合、次の3つのやり方で投票ができます。
(a) 大使館・領事館で投票。(今回の選挙では投票可能日は5日間)
(b) 郵便で投票。
(c) 日本国内で投票。
(c)は、たまたま選挙のときに日本に里帰りしていた場合の話です。となると、現実的には(a)か(b)ということになりますが、前述の通り、ドイツ全土で5カ所しかない日本大使館・領事館まで行ける人はわずかです。では、(b)の郵便投票ならどうか。これだと「日本の選挙管理委員会に投票用紙を請求(郵送)→選挙管理委員会から投票用紙が送られてくる(郵送)→投票用紙に支持する候補者を書き込んで日本の選挙管理委員会に送る(郵送)」という流れになります。つまり、日本と郵便で1往復半のやり取りをしなければならないのです。送料は自己負担、最後に日本に送る投票用紙は、投票日までに日本の選挙管理委員会に届いていなければなりません。
いかがでしょうか。「日本の政治にモノ申したい!」と意気込んでいる人でも、(1)〜(4)のどこかの過程で挫折してしまうことがあるのではないでしょうか。数年前の調査ですが、外務省によると、海外在住の日本人有権者は約72万人、そのうち在外選挙登録をしているのは約8万人、実際投票したのは約2万人とのことです。ここだけの話、私もベルリンに来てから1度棄権しています。また以前、別の国に2年ほど住んでいたときは、選挙人登録さえしていませんでした。そんなわけで、今回初投票した私の感想は「ありがたいシステムなんだけど、もうちょっと簡略化できないかな……」というものでした。この記事を日本で読んでいる皆さんは、心ならずも棄権してしまった海外在住日本人のためにも、ぜひ投票所に足を運んでくださいね!
最後におまけ。「在外選挙制度って、ほかの国にもあるのかな?」と思って、少し調べてみました。現在、100カ国以上が似た制度を持っているようです。ドイツもその一つです。一方、在外選挙制度がない国(本国を離れると投票できなくなってしまう国)としては、アイルランド、インド、ハンガリーなどがあります。
ドイツの場合、在外選挙制度の歴史は、1945年以前にまでさかのぼります。ドイツ国外在住ながらもドイツ国境近くで仕事をしていた公務員に投票権が与えられたのが最初でした。その後、投票の権利は「公務員だけ投票可能→公務員の家族もOK→だれでもOK」と拡大されてきました。また、投票可能な在住場所も「国境近く→欧州評議会加盟国→全世界どこでもOK」と拡大。日本在住のドイツ人が投票できるようになったのは、1985年のことです。
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領事館とか大使館、大嫌いです。
何時の頃だったか、パスポートの写真が国際規格に代わったとかで、自分で撮った写真を恐る恐る提出しました。3枚のうち1枚が合格で、一安心。そして後日パスを受け取りに行きました。10年有効、でも発効日から発効日まで有効になっているので、これだと10年と1日有効ですねと質問すると、きょとんとしていました。写真が国債規格になったのなら、10年という有効期間ならば発効日から発効日前日まで有効であるようにしたらどうですかというと、日本のしきたりですとの返事。
昔は世界中を飛び回っていたので、パスポートが唯一の身元証明(身分証明ではありません)、非常に大切でした。国境でのパスコントロール、時に、不審な顔をされ、有効期間を確認されました。当時日本のパスポートは今と違って、オールマイティー的なところがあって、偽物も出回っている頃でした。そんな感じ、お役人仕事は時代離れしてること、今も実感しています。
Koba Kenzoさん、コメントありがとうございます。
パスポートの有効期間についてのKobaさんと大使館とのやり取りは禅問答みたいで面白いですね!
今回この記事を書くにあたっていろいろ調べていたら、大使館・領事館が別の都市まで出かけて行って領事業務出張サービスをしていることを知り、「大使館・領事館も頑張ってるんだな〜」と思いました。
でも、領事業務の現場で働いている人がどんなに頑張っていても、もともとの制度が硬直的だとなかなか物事がうまく進まないなと思うことも多いですね。