エネルギー転換と共に生きるテレビ

まる / 2014年8月17日

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久しぶりに友人を訪ねようとベルリン、モアビート地区の静かな住宅街を歩いていると……以前はたしか子供用品店だった店舗の中に、映画館のような椅子が並べられていた。思い切って中に入り、奥から出てきたお兄さんに「何のお店ですか?」と聞くと、「エネルギー転換を救うための啓発活動をしています」と言う。なんと、ここから「エネルギー転換と共に生きるテレビ」なるテレビ番組がインターネットで毎週生放送されているのだ。

このテレビ番組をプロデュースし、自らモデレーションもするのは、ジャーナリストのフランク・ファレンスキ(Frank Farenski)さんだ。1年前から毎週火曜日の夜、エネルギー転換に関するあらゆるテーマについての検証やディスカッション、インタビューなどを行っている。最近放送された番組のテーマは、「エネルギー転換への攻撃 − EEG改正」、「政治抜きのエネルギー転換 − ベランダで発電と蓄電」、「メディアとエネルギー転換」、「褐炭産地におけるエネルギー転換」など、どれも気になる。

このモアビートのスタジオにはWar-Roomという名前があって、これは同名のドキュメンタリー映画「The War-Room」(1993年、米国)に由来する。当時の米国大統領選挙に向けたビル・クリントン陣営の選挙キャンペーンをテーマとした作品で、The War-Roomは選挙キャンペーンを組織、指揮する作戦司令室を指す。ファレンスキさんはスタジオと番組について、ウェブサイトで「エネルギー転換はもう既にかなり進行しており、敵は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。War−Roomはそれに対するマスコミュニケーション論的な回答です……エネルギー転換推進派も、いよいよ”攻撃モード”に切り替えなくてはなりません」と説明している。

さて、ファレンスキさんは2012年に「エネルギー転換と共に生きる」という映画を作っている。ドイツを縦横無尽にかけまわって、エネルギー転換の最先端を行く企業や、自宅で行う太陽光発電や蓄電を通してエネルギー転換に参加する個人を訪ね、ドイツのエネルギー転換の進行具合を見せつつ、同時にそのプロセスを邪魔する政策の問題点を検証するドキュメンタリー映画だ。

例えば、ブランデンブルク州にあるマイエンブルクという町は、元ソ連軍駐屯地だった場所に太陽光発電パークを作るなどして、町の需要量の約2倍もの再生可能電力を発電している。それにもかかわらず、その電力を自分たちで使えない。発電した電力が送電網にのせられてしまうからで、町民たちが使う電力の70%は褐炭発電によるものだという。エネルギー転換には送電網が必要だと言いながら、ずっと進歩がない。電力を地産地消できれば、ドイツを縦断する大規模な送電網建設は要らないのではないか……

ハンブルクのケア・エネルギー(Care-Energy)社では、同社でなぜ再生可能エネルギーを安く供給できるのか、電気料金の計算の仕方を見せてくれる。バイエルン州の「hm-pv 3 GmbH + Solar GmbH」社では、中国製太陽光発電モジュールとドイツ製、米国製モジュールの違いを見せてくれる……などなど、とても勉強になる。

また、一軒家ではなく、街中の集合住宅に住む私が特に興味を持ったのは、ブレーメンのラウデライ(Laudeley Betriebstechnik)社 の「Plug & Save」という太陽光発電モジュールだ。このモジュールは、家の屋根がなくても、例えばベランダなどに取り付けることができる。コンセントが付いていて、それをバッテリーのソケットに差し込むと発電された電力が蓄電される仕組みになっている。このモジュールをベランダに取り付けているブレーメンの集合住宅の様子は、住民がまるでベランダで花でも育てているような印象で、楽しげだ。ラウデライ社長が、「4大エネルギー会社打倒」を目指してこのモジュールを開発販売しているというのも面白い。

「大手4社打倒」を目指すこういう個人がドイツ中にたくさんいて、再生可能エネルギーの技師や起業家として、したたかにドイツのエネルギー革命を起こしているということが、この映画を通してわかる。政治がどうこうというのとは別のところで、その革命はどんどん進んでいる。そしてこの映画の中で、エネルギー転換を実践している市民が何人か出てくるのだが、名前の下に出てくるクレジットが、「主婦」とか「会社員」ではなくて、「エネルギー転換市民」となっているのが面白い。「エネルギー転換を進めるのは市民だ」というメッセージが伝わってくる。

この映画(ドイツ語)はインターネットで無料で見ることができ、ファレンスキさんと有志たちはドイツ全国で上映会も行っている。2014年にリリースされた第2編もあり、こちらには、このサイトでも紹介したことのある「電気をめぐる闘い−神話、権力、独占」の著者、クラウディア・ケンフェルト氏も出演している。

映画「エネルギー転換と共に生きる」 http://www.newslab.de/newslab/Filme_Energiewende.html

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