躍進中の緑の党、2019年は試練の年

池永 記代美 / 2019年1月13日

このところ日本のメディアが取り上げるドイツの政党話といえば、メルケル首相が党首を辞めたキリスト教民主同盟(CDU)か、2017年の連邦議会選挙で初の議会入りを果たし、それ以降も衰えを見せていない右翼ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に関わるものがほとんどだ。AfDの躍進や、旧東ドイツの街で起きた排外主義のデモのことが報じられると、かなりドイツが右傾化しているように受け取られがちだが、それは一部の現象でしかない。というのも、人権主義や平和主義を掲げる緑の党が、AfDより目覚ましい躍進ぶりを見せているからだ。

緑の党のロゴ

 

この10年を振り返ってみると、緑の党の支持率は大きく変化した。最も勢いがあったのは2010年から2011年にかけてのことで、その原因は、メルケル首相の原発政策にあった。メルケル首相は2010年、社会民主党(SPD)と緑の党の連立政権が2000年に電力会社と結んだ脱原発の合意を変更し、原発の稼働期間を延長することを決めた。そのため、反原発派の憤りが、緑の党を推す力となったのだ。その翌年、2011年3月に起きたフクシマの事故は、それにさらに拍車をかけた 。事故の約2週間後に行われたバーデン•ヴュルテンベルク州議会選挙では、ドイツ初の緑の州首相が誕生したし、連邦レベルで緑の党の支持率は、一時的にだが28%にまで伸びた。

そんな緑の党が凋落する要因の一つとなったのも、メルケル首相の原発政策だった。周知のように、フクシマの事故を受けて、メルケル首相は3ヶ月あまりという超スピードで、2022年末までの脱原発を決めてしまった。お株を奪われた形の緑の党は、2013年の連邦議会選挙では、8.4%しか票を得ることができず、それからの支持率は、一桁と二桁の間を行ったり来たりという低迷状態が続いてきた。考えてみると、緑の党の売り物だった環境保護や脱原発、男女平等、同性婚の承認といった考え方を、SPDや左派党はもちろん、中道右派のCDUも党のプログラムに取り入れてしまった。そんな中で新たにどの分野で、どんなテーマで党の特色を出していくのか、緑の党は一つの壁にぶつかっていたと言えよう。

緑の党とAfDの支持率の移り変わり  (ドイツの世論調査機関Forsaの毎年9月下旬の調査結果をもとに作成)

2017年に行われた連邦議会選挙での緑の党の得票率は8.9%で、議会入りした5つの政党の中で最も小さな会派となってしまった。だがその約一年後の2018年10月には、再び20%にまで支持率を伸ばすことができ、それ以来、支持率は高止まりが続いている。例えばこの1月11日、ドイツ公共第二テレビZDFが発表した最新の世論調査では、AfDの支持率は14%だが、緑の党は21%だ。このように緑の党が好調な要因は、いくつか考えられる。

その一つは、昨年の連邦議会選挙での敗北を受けて就任した党の新代表の評判がすこぶるいいことだ。緑の党には男女1人ずつ、2人の共同代表がいるのだが、 昨年1月に選ばれた女性代表アナレーナ•ベアボック(39歳)も、男性代表ローベルト•ハーベック(49歳)も、それまで全国的にはあまり名前が知られていなかった。テレビのトークショーなどによく登場する政治家たちが飽きられてきている中で、この二人は新鮮な印象を与えている。ベアボックは歳は若いが、専門の国際法の知識を活かして欧州議会議員のスタッフや連邦議会内で党のブレーンを務めてきた。相方のハーベックは哲学の博士号を持っており、政治家になる前は作家だったという経歴がユニークだ。しかし共同代表になる前は、ドイツ北部シュレースヴィッヒ•ホルシュタイン州で副首相とエネルギー転換•環境相を兼任し、政治家としての経験も積んでいる。従来、原理派と現実派という党内の派閥から一人ずつ代表を出してきた緑の党だが、この二人はともに現実派に属しており、派閥間の争いから距離を置いてきたことも、好感が持たれる原因になっている。

昨年1月に共同代表に選出されたベアボック(左)とハーベック(右)©️Dominik Butzmann

二人の現実派を代表に選んだことにも表れているように、党自身が現実的になったことも支持率上昇の要因の一つだ。野党として無責任に理想を語っていた時代はとっくに過ぎて、緑の党は今では9つの州で政権の一部を担っている。党自身、かつては考え方の最も近いSPDとの連立しか想定していなかったが、今はCDUや左派党との連立だけではなく、ネオリベラリズムを掲げ犬猿の仲と言われる自由民主党(FDP)とも、二つの州で連立内閣を作っている。それは、考えの違う相手と妥協することができる柔軟性を持つようになった証拠でもある。

しかし、緑の党躍進の最大の理由は、現在連邦段階で大連立を組んでいるCDUとその姉妹政党のキリスト教社会同盟(CSU)、およびSPDの支持率が大きく下がったことによる。選挙が終わってから半年近くかけて成立した大連立政権なのに、難民政策などを巡って政権内では抗争が続き、全く仕事をしていないではないか、現政権にはもう辟易したという人たちの支持が、一方でAfDに、他方で緑の党に流れている。その際緑の党は、反ポピュリズム、人道的でリベラルな社会、親EUといった点でAfDの対局をなし、基本的に民主主義を尊重したい人たちにとっては、現政権に対する本当の選択肢になっているのだ。さらにこの夏ドイツの人たちが異常気象(猛暑と干ばつ)を経験したことも、大きく影響している。緑の党が設立以来訴えてきた環境保護や温暖化対策は、豊かで安定した生活を保証するための重要な政治課題だと改めて認識されたからだ。

このような理由で好調な緑の党だが、今年は緑の党の支持率が低い東ドイツの3つの州、ザクセン、ブランデンブルク、チューリンゲンで州議会選挙が行われる。いずれも前回の選挙では、5%から6%の得票率しか得ていない州だ。今の世論調査によれば、AfDの方はこれらの州で、第一党になる可能性もある。さらに今年は、欧州連合(EU)の将来を決定する重要な欧州議会選挙も5月に行われる。2019年は緑の党の本当の実力が問われる年となりそうだ。

 

 

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