ベルリンで行われたおしどりマコさん講演会

みーこ / 2014年3月9日
おしどりマコさん(右)と相方のケンさん

おしどりマコさん(右)と相方のケンさん

おしどりマコさんは、夫のケンさんとコンビを組む芸人でありながら、福島原発事故や被災者の抱える問題について広く深く取材しているジャーナリストでもある。マコさんの活躍ぶりは私もネットでよく見ていて、その縦横無尽な活動と明快な文章には、かねてより敬意を覚えていた。そんなマコさんが福島の放射能汚染状況について報告する講演会がベルリンで行われるというので参加してきた。

120人ほど入ると思われる会場は満員。講演会の出席者は、日本人とドイツ人が半々くらいだろうか。本講演は、通訳つきとは言え、日本語による講演だ。それに福島の原発事故からもう3年経つのに、これほど多くのドイツ人が日本の原発事故に心を寄せてくれていることを嬉しく思った。

マコさんの講演は、まず「芸人である私たちがなぜ取材活動も始めたのか」という、多くの人が持つであろう疑問に答える形で始まった。「私たちの芸人としての師匠(横山ホットブラザーズの横山マコトさん)は、戦争を体験したことがある人でした」とマコさんは語り始めた。「ある時、師匠に、戦時中に上演された漫才の脚本を見せてもらいました。それらは、観客である子どもたちに『大きくなったら立派な兵隊さんになって、お国のために桜となって散れ』ということを言って聞かせるものばかりでした。私は師匠に尋ねました。『この当時の芸人さんたちは、こういうことを本当に信じていたのですか? それとも、国に言われて仕方なくこういう芸をやっていたんですか?』 師匠は、その質問には直接答えてはくれませんでしたが、代わりにこう言いました。『芸人というものは、お国のためになんてことを考えてはいけない。そうではなく、目の前で芸を見て笑ってくれているお客さんの幸せを願いながら、そのために芸をするんだ』。福島の原発事故後にその言葉を思い出し、まずは真実を知り、伝えたいと思いました」。

マコさんは今では、東京電力の記者会見に最も多く通ったベテランの記者となった。そして、原発関係の取材を多く続ける中で、公安の尾行がつくようになったという。「いつもつけ回してくる公安の人の隠し撮りに成功したんです!」と言って、その写真をスライドで大写しにしてくれたのには、笑ってしまった。「私たちの漫才公演のときは、公安割引っていうのを作ったんですよ。窓口で『公安です』って言えば500円割引になるようにしたんですけど、まだそれを使って公演を見に来た人はいませんねえ」と、マコさんは笑わせてくれたが、大笑いしたあとに、「真実を知ろうとすれば権力から監視される」という日本の実情について、私たちは真剣に考えるべきではないだろうかとも思った。

相方のケンさん(右)を原子炉に見立て、福島原発事故の状況について解説するマコさん

相方のケンさん(右)を原子炉に見立て、福島原発事故の状況について解説するマコさん

以下に、マコさんの講演の中から、印象的だった部分を箇条書きにする。カッコ内は私の感想である。福島の汚染状況がマコさんの口から明らかになるたび、ドイツ人の観客から驚きや失笑の声が漏れ、日本人として恥ずかしく思った。一方、マコさんが「ヨーロッパに来て一番驚いたのは、日本が平和で民主的な良い国だと思われていたことです!」と言ったときは、主に日本人から苦笑が漏れていたように思う。(「マコさんの日本語による発言→ドイツ語通訳」という順で講演が進むので、反応しているのが日本人なのかドイツ人なのかが、だいたいわかるのだ。)

— 原発作業員の健康ケアをしてきた医療従事者によると、作業員には3タイプがある。「この程度の汚染なら危険ではない」と思っている人、「危険だが自分はOK」と思っている人、怖いから汚染については考えないようにしている人。(私が作業員なら、どのタイプになるだろうか?)

— 福島の農作物の安全性をアピールするために学校給食に地元の農作物を使っている。これに反対する母親グループがあるが、「汚染を気にするなら福島から出て行け」という心ない言葉を投げつけられることがある。(安全性をアピールするために子どもをダシに使うなんて……。本末転倒だ。)

— 2012年12月にIAEA(国際原子力機関)と福島県が協力して除染を進め住民の健康をチェックしていくという協定が結ばれた。ほとんどの住民は「IAEAに健康評価をゆだねるのはイヤだ」と考えていたが、押し切られた。「住民は納得していませんが?」とマコさんが県知事に質問したところ、「納得してください」と言われた。(何でこんな人を選挙で選んでしまったのか?)

— マコさんが今一番危険だと思っているのは、福島第一原発の1号機と2号機の間にある120メートルの煙突。この煙突には地上60メートルのところに、東西南北に裂け目が入っており、いつ折れるかわからない。この煙突の根元には高線量の箇所が2箇所あり、それぞれ、毎時25シーベルトと毎時15シーベルトである。あまりにも危険で作業員が近づけないので手の打ちようがない。(マイクロもミリもつかない、単なる「シーベルト」! しかも25と15! 即死レベルの高線量のはずだ……。)

— 「このままでは、福島では300〜400人の子どもが甲状腺癌にかかるだろう」というのが、チェルノブイリと福島の比較に基づく試算である。ちなみにこれは、原子力推進派の研究者による試算だ。(推進派でもそう思っているのか……。)

日本語でインターネット上の情報をあさっていると、福島のひどい状況についていろいろと漏れ伝わってくるが、このように、実際に取材してきた人から直接教えてもらうと、やはり新たな衝撃の連続だった。

講演の最後には、おしどりマコ・ケンさんのお二人による芸があり、会場は大いに沸いた。いつもならマコさんはアコーディオンを弾きながら歌うのだが、今回はアカペラだった。マコさんの歌に合わせて、ケンさんが、あれよあれよという間に針金を折り曲げ、二人のシンボル「おしどり」の形にして見せ、観客から嘆息が漏れた。そのあとは、Bodypoetのカズマ・グレン・モトムラさんのパントマイム芸。シビアな話が続いたあとだったので、ほっとした空気が流れた。

その後の質疑応答で、私は「芸人を続けながらジャーナリスト活動をすることで、損した点、得した点があったら教えてください」という質問をした。「損したことは、芸能活動もやっているせいで、シリアスなジャーナリストだと捉えてもらえないこと。また、芸人としての仕事が減ったこと。電力会社がテレビ番組や劇場のスポンサーになっている場合が多いので、『電力会社を非難するような芸をやる芸人は、うちの番組には出せない』ということになってしまうんです。得したことは、芸人特有の明るさで取材対象とすぐに仲良くなれるので、長く友人として付き合え、内部情報をこっそり教えてもらえること。原発作業員にも、東電社員にも、経済産業省にも友だちがいて、私たちに会いたくなったときは、お客として劇場まで芸を見に来てくれるんです。それから、私たちは芸人ですから笑わせるのが得意でしょう? 笑わせながらシビアな原発の話をするんですが、皆さんに『怖い顔をしながら怖い話をするよりずっといい』と言ってもらえます」という答えが返ってきた。

講演後も、個人的に少しお話をさせてもらったが、政治ネタ(チェ・ゲバラ夫妻を模した漫才や、皇室をネタにした漫才をしたこともあるそうだ)は日本の劇場やテレビでは難色を示される場合が多いとのことだった。以前、私たちのウェブサイトで、チェルノブイリ原発事故をネタにしたドイツのコメディー番組を取り上げたが、政治をパロディーにすることに躊躇のないドイツのメディアとはずいぶん違うなと感じた。

講演はわかりやすく心に残るものだったが、現状の厳しさに途方に暮れたのもまた事実である。ただ講演会で、多才ではつらつとしたマコさん・ケンさんや、福島の被災者に心を寄せ、脱原発を願う日本人やドイツ人に会えたことは収穫だった。

関連リンク
おしどりマコ講演会案内
講演会を共同主催した「Sayonara Nukes Berlin」による会の報告
おしどりマコ来独記者会見「医師団が放射線の影響の隠蔽を警告」(Die Welt紙掲載)
「マガジン9」連載中の「おしどりマコ・ケンの脱ってみる?」

 

 

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