進むドイツの脱原発 ー また一基稼働停止
ドイツ南西部、バーデン・ヴュルテンべルク州にあるフィリップスブルク原発2号機が計画通り2019年12月31日をもって、永遠に稼動を停止した。2号機(加圧水型原子炉)は、1984年12月に運転を開始し、35年間にわたって電力需要の多いこの地域に電力を提供してきた。最後の段階では、この地域の電力需要の6分の1をカバーしていたという。1979年に稼動を開始した古い1号機(沸騰水型原子炉)は、すでに福島原発事故直後の2011年3月17日に稼動を停止しているため、フィリップスブルク原発は、ここに40年の歴史を閉じたことになる。ドイツは2011年の福島原発の過酷事故の後、2022年までの段階的脱原発を決定した。当時は17基の原発があったが、これで稼働中の原発は残り6基となった。
フィリップスブルク原発2号機は、段階的脱原発計画では、遅くとも2019年の大晦日までには稼動を停止させなければならないことが決まっていたが、具体的にいつ稼動停止になるのか、なかなか発表されなかったため、反原発の人たちをやきもきさせた。事業主のEnBW(エネルギー・バーデン・ヴュルテンベルク)が「2号機は大晦日の19時に停止する」と発表したのは、クリスマス休暇に入る前の12月23日のことだった。しかし当日、EnBWのスポークスマンは「実際に稼動が停止されたのは、19時少し前、18時55分だった」ことを明らかにした。「稼動停止のプロセスは、定期点検の時と同じで、技術的には特別なことではなく、そのルーティーン作業はわずか数時間で終わった。しかし、今回は停止したままで、再稼動がないことだけが違った」とも語った。
同原発は停止されたものの、完全に廃炉に至るまでには、まだ何十年もかかる。燃料棒は冷却槽の中で3年から4年間保存され、建物の解体作業も15年から20年かかるという。EnBWの原発部門の責任者であるヨルク・ミヒェルス氏は、同社はすでに解体作業の公的許可を得ており、2本の冷却塔の爆破解体を2020年初めに行ない、その後も安全を第一に作業を行っていくと強調した。冷却塔が破壊された後の広大な敷地には、ドイツ北部で風力により生産された電力などを受け入れるための巨大な変電所が建設されるという。フィリップスブルク原発の2本の冷却塔は、この原発のシンボルのようになっていたが、フィリップスブルク市のシュテファン・マルトゥス市長は、「原発の廃止は市にとっては税収入の減少を意味するが、2本の冷却塔が破壊されることは、エネルギー転換の明確なしるしとなるので歓迎する」と述べた。
計画通りフィリップスブルク原発2号機が稼動を停止したことについて、環境保護団体や反原発運動家たちは、それぞれ安堵の念を表明した。EnBWは、「大きな事故もなくフィリップスブルク原発はその役目を終えた」としているが、ドイツ環境自然保護連盟(BUND)の調査によると、1号機は84回、2号機は58回の大小の事故を起こしているという。また、実際には行われていなかった定期点検を行ったことにして報告されていたというスキャンダルも2016年に発覚した。BUNDのオーラフ・ブラント会長は「フィリップスブルク原発の終わりは、お祝いする価値のある出来事だ」と歓迎しながらも、「これは段階的な勝利に過ぎない。我々はドイツ連邦政府に対して、原子力から完全に撤退するよう要求する。これには今のところ無期限に操業を認められているリンゲンの燃料棒工場やグローナウのウラン精製工場の運行停止も含まれる」と語った。
稼働停止3日前の12月29日には同原発前で二つのデモが行われた。12時からは反原発派のデモで、180人ほどが正門前に集まり、この原発の稼働停止を発泡酒で乾杯して祝った。地元の反原発市民グループのメンバーであるハリー・ブロック氏は「フィリップスブルク原発の停止は、何十年にもわたる反対運動の成果であり、歴史的な瞬間である」とその喜びを語った。一方、その2時間後には、脱原発に反対するデモが同じ場所で開かれ、こちらのデモには80人ほどが参加した。参加者たちは「この原発でこれまで生産されていた電力を、もし今後火力発電の電力で補うことになれば、気候変動に悪影響をもたらすCO2の増加につながる」と抗議した。
シュトゥットガルトを州都とするバーデン・ヴュルテンベルク州には、自動車産業をはじめ多くの産業があり、隣接するバイエルン州と並んで、最も電力需要の多い州に数えられている。この州は現在16州の中で唯一緑の党の州首相を出しているが、その州政府の農相が去年の秋、フィリップスブルク原発2号機の稼働期間を10年延長するべきだと主張して波紋を投げかけた。この州政府の農相は、連立相手の保守のキリスト教民主同盟(CDU)に属しており、気候変動防止のためにCO2を出さない原発の稼働期間を延長し、代わりに、石炭火力発電の廃止を10年早めるように主張したのだ。だが、緑の党のクレッチマー首相らに一笑に付された経緯がある。しかし、保守派の一部には、気候変動を理由に脱原発の見直しを求める動きが生まれている。
ところで、これまでこの地域の電力需要の6分の1を賄ってきたというフィリップスブルク原発2号機の電力がなくなった後、同州の電力供給はどうなるのだろうか。バーデン・ヴュルテンベルク州にはもともと5基の原発があったが、残るのはネッカーヴェストハイム原発2号機のみとなった。この原発も2年後には稼働停止になることが決定している。バーデン・ヴュルテンベルク州のフランツ・ウンターシュテラー環境相は、「フィリップスブルク原発2号機が電力の供給をやめても2025年までは電力の安全な供給が保証できる。しかし、その後はドイツ北部からの風力による電力や近隣諸国からの電力への依存度が高まる。近隣諸国からの電力の中にはフランスの原発による電力やポーランドの石炭による電力も含まざるを得ない」との見通しを明らかにしている。現在ドイツは電力輸出国だが、2022年の完全な脱原発後は、外国からの電力の輸入が増える見通しだ。その中にはオーストリアの水力発電による電力以外の電力が含まれるという問題が起きてくる。
ドイツは2038年までに脱石炭を実現させる目標を掲げているが、それまでには再生可能電力の貯蓄技術の向上や北部ドイツからの送電網の充実などの課題を解決しなければならない。しかし、まず今は、ドイツの段階的な脱原発計画に従って、原発がまた一つ稼働を停止したことを喜びたい。フィリップスブルク原発の停止は、ドイツ国内では当然の事と考えられたためか、テレビのニュースが簡単に伝えたほか、幾つかの例外はあったが、多くの新聞はごく小さな記事で伝えた程度で、大騒ぎはされなかった。