ドイツの学校、心配な新学期のスタート
ドイツで、学校の新学期が始まりだした。この国の教育行政は州の管轄で、夏休みが始まるのも終わるのも州によって異なる。一番乗りは夏休みが6月22日に始まった北部ドイツのメクレンブルク・フォアポメルン州で、学校は8月3日から始まっている。これにハンブルクが8月5日、ベルリンなどが8月10日に続き、8月12日には人口の一番多いノルトライン・ウェストファーレン州で新学期が開始した。ドイツの学校は今年、コロナ禍のために3月半ばから一時全国で完全に閉鎖され、その後少しずつ不規則な授業が行われてきた。子供たち、親たち、教育学者、心理学者、そして経済界 ~ みんなが正規の授業を望んでおり、どの州も新学期からはコロナ以前の授業体制に戻る予定だが、先がどうなるかはまだ分からない。
ライプチヒ大学病院は5月と6月にザクセン州の19の学校(小学校10校、高校9校)で1900人の生徒と800人の教師を対象に学校閉鎖の心理学的影響に関する調査を行った。それによると子供たちは、毎日の決まった日程がないことや、同級生、友達と交流ができないことを、つまらない、退屈だと回答し、以前の数倍もの長い時間をテレビやコンピューターゲームなどに費やしていた。「以前のような学校生活はもう戻ってこない」と悲観的だった生徒は20%にも達したといい、4分の3の生徒たちが「また普通に学校に行きたい」と答えた。
ミュンヘンにあるifo経済研究所の教育経済センターが6月から7月にかけて行った親たちへのアンケート調査によると、当時、子供たちの1日の学習時間は、平均で3.6時間でしかなかった。これは従来の7.4時間の半分以下だ。 親たちの答えでは、1日最高2時間しか勉強していないという子供が38%、それも含めて4時間以下しか勉強していなかった子供の割合は、なんと74%にもなる。親たちは、家で子供と一緒に学習する時間を、コロナ禍以前の1日30分から倍の1時間に増やした。その結果、28%の親は子供と口喧嘩になったと報告している。子供が 学習の代わりにテレビを見たり、コンピューターゲームをしたり、携帯電話で遊んだりする時間は、コロナ前の1日平均4時間から5.2時間に増えた。この傾向は、特に勉強の苦手な子供たちに多く見られた。
この調査では重要な問題も明らかになった。それは子供たちが驚くほど稀にしか教師と連絡が取れていなかったことだ。毎日オンライン授業のできた子供は6%にしかすぎず、半数以上の生徒は週に1度しかオンライン授業ができなかった。少なくとも週に1度教師と話すことができた生徒は、親の学歴が高い場合49%だったが、親の学歴が低い場合には28%に止まった。学校が閉鎖していた間に、先生と1度も個人的なコンタクトが取れなかった生徒は、親の学歴が高い場合33%だったが、親の学歴が低い場合は49%にも及んだという。また、授業方法はプリントが主役だったという。ifoの教育経済センターのヴェスマン主任研究員は、「調査結果は、学校が通常の授業に戻ることがいかに大切かを示している。それが不可能な場合には、完全にオンライン授業に移行するべきだ」と調査を結んでいる。
学校を通常通りに再開するに当たっての最大の問題は、子供たちが新型コロナウイルスの感染を広めるのではないかという心配だ。ドイツのウイルス学者たちがこの春に新たに立ち上げた「Sars-CoV2(新型コロナウイルス)臨時委員会」によると、子供たちが大人と同じようにウイルスを広めるか、あるいはそうではないかはまだ良く分かっていない。アメリカの疫病学者、感染病学者、教育学者の3人が “New England Journal of Medicine” に発表した論文によると、「10歳以下の子供は大人たちよりずっとコロナウイルスに感染しにくく、11歳から18歳までの子供もコロナウイルスに感染しないか、あるいは感染しても病状は軽い」そうだ。これは現在までに発表された学術データを解釈した結果だという。ただ、子供が他人にウイルスを感染させるか否かは、彼らにもまだはっきり分からないという。
8月はじめ、ドイツ科学アカデミー「レオポルディーナ」はコロナ感染に関する「第5回臨時見解書」を発表した。その中でアカデミーのメンバーらは、子供が教育を受ける権利を重視し、危機に耐える教育システムの樹立は欠かせないと主張している。しかし現状は技術的にも、組織的にも、そして内容的にもオンライン授業の準備がまだ整っていないと批判している。また、パンデミック下でも、生徒の学習不足や心理的負担を調査することは必要で、学校は学習不足をカバーし、親たちとの連絡も改善しなければならないと強調している。アカデミーは再度の学校閉鎖を避けるために、クラスを小さくし、グループどうしができるだけ混じらないように注意を図ること、子供と子供の間に距離が取れない場合には、小学校5年生以上は、授業の間もマスクをするようにと勧めている。なお、大半の州では、学校内の廊下やトイレでのマスク着用は義務になっているが、授業の際の着用を義務付けていのは、今のところノルトライン・ウェストファーレン州だけだ。
新学期が始まって1週間目の終わりに、メクレンブルク・フォアポメルン州では二つの学校がコロナ感染の発生のために再度閉鎖された。一つの学校では、生徒1人の感染が見つかったからで、もう一つの学校では、教師1人が感染していたためだった。この教師は学校の再開準備期間中に他の職員に会っていたが、生徒たちとの直接の接触はなかったという。ベルリンでは開校4日目に7つの学校でそれぞれ感染者が1人ずつ見つかった。どのケースも学校内での感染ではないが、感染者とコンタクトのあった生徒と教師らは即座に14日間の家での隔離を言い渡された。
ドイツでは現在、コロナ感染者の数が1日に1000人以上に増加しているが、それには、ドイツ連邦政府が指定している国外の危険地域で夏休みを過ごして帰国する人たちが増えていることも大きく影響している。そして、その中には当然子供たちもいる。帰国者に対しては、この8月8日から空港や主要駅でのPCR検査が義務付けられている。しかし陽性者全員を把握するとこは不可能だ。その結果、学校での感染がこれからさらに増える可能性は十分にある。現在は誰もが再度の学校閉鎖を避けたいと望んでいるが、楽観はできない。
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