文化は介入する - 芸術と教育における難民たち

あきこ / 2016年6月12日
Corasol

難民の活動グループ「コラソル」の代表 © あきこ

6月3日と4日の2日間、「介入(Interventionen)」という催しがベルリン市内で開催された。今年で3回目の開催ということだったが、第1回目は「都市の発展と若者」がテーマ、昨年と今年は難民に焦点が当てられた。彼らの多くは、すでに数年ベルリンに滞在している人たちだ。

この催しを主催しているのは「カルチャープロジェクト・ベルリン(Kulturprojekte Berlin)」である。この組織は、文化の促進、ネットワーク作り、文化普及を目的とした州の組織であり、文化教育を重要な任務の一つとしている。イベント「介入」は文化教育事業の一環として行われ、連邦文化・メディア庁(日本の文化庁に当たる)の資金援助を受けて実施されている。

昨年の「介入」が難民への文化的アプローチをテーマとしたのに対し、今年は難民からドイツ社会へのアプローチという去年とは逆の方向に焦点が当てられた。ドイツ全国から集まった約300名の参加者は、大学生、アーティスト、建築家、映像作家、社会事業や文化教育に携わる人たち、文化行政担当者、ジャーナリストなどで、実に多様な分野の人々が2日間のプログラムに熱心に参加した。

2日間のプログラムは、基調講演、ワークショップ、ツアー、パフォーマンスで構成されていた。1日目は、「自立組織の現状」と題する基調講演に続き、午前と午後にそれぞれ2時間のワークショップが行われた。ワークショップには5つの部門が設けられていた。午前の部には、「学校」「住む権利」「難民たちの自立組織」「ボートピープルとレイシズム」「大学」、午後の部では「アーカイブ」「抗議する若者」「労働市場」「芸術と行動主義」「文化組織における多様性獲得のための戦術」という部門が用意され、参加者は自分の関心に応じてどの部門に参加するかを決めた。2日目は、ベルリンで移民の背景を持つ人の割合が最も高いクロイツベルグ地区にある難民の自立組織や支援組織を回るツアーが計画され、訪問先でそれぞれの活動についての情報を聞き、ツアー参加者と活動家たちとの交流が行われた。ツアーの後には、野外に作られたステージで講演、ディスカッション、ダンス、演劇などの催しが行われるのと並行して、ステージ周辺には難民の自立組織が市民との情報交換ができるようにスタンドが設けられ、多くの人々が訪れていた。

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難民たちが発行する新聞 © あきこ

このイベントを通して、ベルリンに滞在している難民が自分たちの権利を求めてグループを組織し、活動を展開している状況を身近に知ることができた。2日目のツアーで、私はベナン、ブルキナファソ、ケニア、カメルーンなどフランス語を話すアフリカ諸国からの難民による「コラソル(corasol)」というグループ、難民女性たちが結成した「インターナショナル・ウィメンズ・スペース」というグループ、難民の権利はく奪に抗議する「デイリー・レジスタンス」という新聞を発行するグループの3つのグループの話を聞いた。彼ら(“難民”と呼ばれることに抵抗を感じるという人たちもいた)が要求していることは、「滞在地義務(滞在が認められた場所を離れることができない、つまり移動の自由がない)の廃止」、「住居の確保」、「働く権利」に集約できるだろう。また彼らは、「自分たちの権利を主張すれば、ドイツ社会から圧力や差別を受ける」という。このような体験を通して、差別に対する闘いも彼らの活動の柱の一つとなってきた。

新聞やラジオやテレビでは毎日のように難民について報じられているが、それはあくまで難民に“ついて”であって、難民“から”の報道ではないことに気づかされた。今回のイベントに参加して、難民自身の口から体験を聞き、彼ら自身の要求を知ることができた。そして彼らが決して孤立しているのではなく、ドイツ社会のネットワークにつながっていることも知ることができた。“歓迎の文化”として新聞の一面やテレビの画面を飾る活動ではなく、難民たちの自立的活動が少しでも前に進み、横に広がれるように、難民たちの活動組織を支える人たち、とくに若者たち(30歳まで)が地道な働きをしていることを知ることができた。

その一つが、クラスに難民の同級生がいる中学生や高校生、大学生が難民の権利を認め、あらゆる人種差別に反対して学校に対してストライキをするといった、今の日本ではおよそ考えられない活動である。彼らに尋ねると、「難民として数ヶ月を同じクラスで過ごした同級生が強制送還されたことがストライキの発端だった」という。同級生の無関心や、教師あるいは学校側の圧力がある中で、難民のクラスメートの人権を求めて立ち上がった若者たちは、このイベントを通して今後の活動への展望を得たようであった。

このイベントが行われた6月3日と4日の2週間前、日本政府は伊勢志摩サミットに向けて、シリアから150名の難民の若者を留学生として受け入れることを発表した。また、カナダのトルドー首相が伊勢志摩サミットにおいて2万5000人の難民の受入れを表明した。これについて、「メルケル首相は距離的に離れているにもかかわらず、難民に対して責任を感じているカナダを賞賛した」とドイツの新聞が報じた。

受け入れる難民の数だけではなく、難民の声が市民社会に届くかどうかも重要な問題である。ベルリン州が運営する劇場に加えて、州が資金援助する公的文化施設が、会場といったハード面だけではなく、ネットワークの提供によって、市民社会の中に難民の声が届く体制が徐々に確立されていくのではないだろうかと思わせる2日間のイベントであった。

 

 

 

 

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