携帯の会社を選ぶように、電力会社を選ぶ

あきこ / 2011年9月1日

ドイツ滞在歴が20年から40年という「魔女」たちの中で、私は平均年齢を高めてはいるものの、滞在年数は桁違いの2年足らず、まだまだ新参です。そのため、ドイツの状況をよく知らないことがあり、日本と比べて驚くことがたくさんあります。「あなたが知らなかっただけ!」と一蹴されるかもわかりませんが、その一つが電力会社を自分で選べることでした。

私がドイツに住んでいたのはもう40年近く前、学生として寮に住んでいたため、電気料金の支払いのことなど全く気にかけていませんでした。2002年、中学を卒業したばかりの娘を一人でドイツに留学させたときに初めて、電気の契約システムがどういうものかを知りました。入居と同時に、大家さんが契約している電力会社から手紙が来て、一ヶ月の電気料金を知らせてきます。手紙をよく読んでみると、毎月1回の電気メーター検針1  による請求ではなく、以前に住んでいた人の実績、住居の大きさ、居住者の人数をもとに、一ヶ月の電気使用量を推定し、それに応じた額を毎月支払うことになるのです。そして、一年の決まった時期にメーターを検針し、そこから実際に使用した一ヶ月の電気量を算出し、毎月支払う金額の過不足を調整するというシステムであることを理解しました。

さて2009年9月、ベルリンでの生活を始めるに当たって、娘のときと同様、入居と同時に、大家さんが契約している電力会社(ベルリンはヴァッテンファル=Vattenfallという会社)から、毎月支払う所定の金額を書いた手紙が来ました。私のアパートは50㎡強の広さで、比較的大きな南向きの居間と小さな寝室、台所(冷蔵庫、4口コンロ、食洗機のついたシステムキッチン)、ドイツにしては小さなバスタブ付の浴室のある快適なアパートで、すべてが電気です。
最初の半年は一人住まいということで、設定された電気料金は月額25ユーロ!これにはびっくりしました。当時のレートが1ユーロ135円ぐらいだったので、一ヶ月の電気代が3,375円という計算になりますね。日本で私が住んでいる家もオール電化ですが、毎月の電気代は冷暖房を使わない月で約8,500円。日本でも一人住まいのうえ、昼間は仕事をしていたので、家で電気を使うのは朝と夜だけでした。こうやってみると、日本の電気代ってずい分高いですね。2010年4月からは二人でのベルリン生活になり、毎年6月に行われる検針で、月額は34ユーロに引き上げられましたが、それでも日本に比べるとはるかに低料金です。その内訳は、28.57ユーロの電気代と、付加価値税(日本の消費税に当たるもので、ドイツは19%です)の5.43ユーロです。因みに、2010年6月から2011年6月までの年間電気使用量は1,335kWhでした。

正確を期すために、暖房について書き添えておきます。私のアパートは家賃に加えて、付帯費用というのがあり、この中に暖房と給湯に関わる費用、水道代、アパート全体の管理費などが含まれています。これも月額が決まっていて、一年ごとに実際にかかった費用を精算することになっていますが、この付帯費用が月額130ユーロとなっています。2010年の付帯費用の明細を見たところ、暖房費が年間で380ユーロ、給湯費は138ユーロとなっていました。二つの合計額を12で割ると(もちろん毎月暖房するわけではありませんが、わかりやすくするために敢えて月額にしました)で、暖房と給湯に43ユーロ、これに電気代(34ユーロ)を足すと77ユーロ。今のレートを1ユーロ110円とすると、毎月8,470円で快適なオール電化生活を送っているということになります。

福島の原発震災以後、ドイツでの脱原発が決定的になったことは、「ドイツ脱原発の歩み」でも明らかですが、3月11日以降、「電力会社を変えよう!」というキャンペーンをベルリンのあちこちで見かけるようになりました。原発による電力ではなく、再生可能なエネルギーによって生産された電力を売る会社に契約変更するように呼びかけているのです。ベルリン在住の日本人からも、エコ電力への契約変更を勧められていましたが、具体的にどのようにすればよくわからないというのを言いわけにして、ずっと先送りしていました。

そんなとき、友人からdm(ドロゲリー・マルクト)に行けば、エコな電力会社への変更が簡単にできるスターターキットが手に入るということを聞きました。dmというのは、ドイツ国内だけではなく、ヨーロッパにも店舗を持っているチェーン店で、化粧品、サプリメント、洗剤などを扱っている店です。これを聞いたあと、すぐに近くのdmに行き、スターターキットを1.95ユーロで買いました。開けてみると、現在契約している電力会社名、年間の電気使用量、メーターの番号、銀行口座などを記入する書類が入っていました。6月に検針に来た結果を知らせるヴァッテンファル社からの手紙を探し出し、必要な情報を記入するのが大仕事でしたが、やっと書き終えて送ったところ、驚いたことに、新しい電力会社(リヒト・ブリック LichtBlick)よりも一足早く、ヴァッテンファル社から「当社は貴殿のご希望に添うべくサービスを供給しています。何がお気に召さなかったのでしょうか云々」という手紙がやってきました。別に答える必要もないので無視。リヒト・ブリックからは、9月1日に契約が切り替わること、新たに設定された月額電気料金は35.2ユーロ(ヴァッテンファル社より1ユーロ強、割高になっています)という知らせがあり、私は何もしなくても良いという連絡でした。リヒト・ブリックの料金は、基本料が月額8.95ユーロ、使用料は1kWhが23.64セントとなっています。ヴァッテンファルでは、基本料が5.90ユーロ、使用料は1kWhが22.56セントですから、リヒト・ブリックの料金は高いのですが、エコな電力ということで私は納得しています。

たまたま手元に自宅の7月分の電気料金(関西電力)の領収書があるので、比べてみました。基本料金(契約容量8kVA)が3,000円となっています。えらく高いですね。使用量が384kWhで10,221円、さらに深夜電力では、基本料金(契約5kW)が1522円で、使用量は126kWhで2147円、両方合わせて12,368円。今まで電気料金について、こんなにじっくりと見たことはなかったことに気づきました。原発への不安を抱えながら、この高い電気代を払い続けるのは気乗りしません。

さて、8月中旬、ドサッという音がするほどの郵便物が届きました。何かと思ったら、リヒト・ブリック社から、契約手続き完了の通知と同時に、dmの50ユーロお買い物カードと、同社のロゴが入った布製の買い物袋のプレゼント。何だか嬉しくなりました。毎月1ユーロの値上がりですが、50ユーロのお買い物券でチャラになった気分です。9月1日から、脱原発の電気生活が始まります。


 

 

 

  1. 毎月の検針がないと いうのにも驚きましたが、年に一度の検針も、使用者がメーターを見て、電力会社に自己申告することも可能というのも驚きました。決められた検針の日に在宅する必要がない ので、自己申告は良い制度だと思います。電力会社のサイトに、メーター番号と検針の結果を入力するページがあります。これも電気代を安くする合理化の一つ の方法なのでしょう。 []

9 Responses to 携帯の会社を選ぶように、電力会社を選ぶ

  1. lisako inoue says:

    なるほど・・ライフラインは基本的に居住地で自動的に決まる日本とは本当に違う。システムはもちろん、考え方が違うと実感しました。「選択する」という生き方が「できるんだ」ということを日本人は知るべきだと思う。その代わり、選択したものに対する責任や契約した先の経営状態などをチェックする義務も、当たり前のこととしてドイツでは行われているのだと思います。
    日本人は税金の使途さえ、きちっと物申せない。文句はいうが抽象的で、個別に事象を見て、考えて、時にはじゃまくさいことを受け入れ、遂行する市民になるべく、マスコミもその支援や道を拓くべきだと自戒を込めて感じました。

  2. Kimura Ikuyo says:

    電力会社が選べるのはいいですね(日本の場合、地域ごとの独占だから無理!)。しかもお買い物券まで!
    京都のおうちの電気料金は、しかし高すぎる!オール電化だから仕方ないんでしょうか?私は未だに残暑厳しい毎日ですが、エアコンはずっと使っていないので夏は毎月1000円台、ソーラー発電で10倍くらい関電に売っています。

    • あきこ says:

      確かに日本の家の電気料金は高すぎるかもしれませんね。ソーラー発電で関電に売っているというのもすごいです。電気料金がどのように設定されているのかなど、もっとよく知らないといけないということを今回実感しています、遅すぎたかもしれませんが・・・

  3. みづき says:

    私もドイツ在住なので、とても参考になりました。
    ちなみに、原発事故前の話ですが、我が家も
    自然エネルギーの会社に変えようとして、申し込み書を
    取り寄せたのですが、届かず、もう一度促したのですが、
    やはり届かず。
    その後、ドイツをしばらく離れる用事があったので、
    それっきりになったまま、今に至ります。

    電力会社のカスタマーサービスがイマイチなのが
    残念ですが、原発事故後、スタッフを増やしたかしら?
    もう一度、申込書を取り寄せてみようかしらん…と
    考えています。

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