電力の出力調整に10億ユーロ
ドイツでは、再生可能電力の急テンポな増加に伴い、 送電網運営会社が従来型の発電所に出力の調整を要請するか、あるいは、太陽光発電装置や風力発電装置を送電網から切り離す頻度が増えている。送電網の混雑を避け周波数の安定を保つことが目的だ。そのためにかかった費用は、昨年一年間に約10億ユーロ(約1130億円)に達した。
ドイツでは再生可能エネルギー優先法(略称:再生可能エネルギー法、EEG)が存在するので、太陽光や風力で発電された電力は全額買い上げられ、優先的に送電網に送り込まれる。このため、これらの再生可能エネルギーが予想以上に多くなった場合には、従来型の火力発電設備などを運営する電力会社は、送電網の混雑を回避するために送電網運営会社から、発電所の運転計画を変更して、出力の調整をするように要請される。発電所は要請に従って出力を調整したり、場合によっては運転を停止したり、再起動したりしなくてはならない。また、その作業が迅速に行われなかったりその規模が十分でなかったりする場合には、太陽光発電装置や風力発電装置が送電網から切り離される。
東部ドイツ地域では自然電力が総発電量の約49%に達している。同地域の送電網を統轄する送電網運営会社の50Hertzは昨年、出力調整のための出費が3億4600万ユーロ(約391億円)に達した。2014年の9700万ユーロ(110億円)の数倍だ。この費用には電力会社に支払う出力調整のための 報酬と、送電網に送り込むことを拒まれた再生可能電力の買い上げ価格が含まれる。
北部ドイツ地域を統轄する送電網会社のTennetは昨年、出力を調整する必要がなかった日は全体の10%に過ぎなかった。 風力発電装置の数が年間で最多になり、風も強かった11月と12月には特に頻繁に調整したという。同地域の自然電力は総発電量の30%強を占める。 送電網の一箇所に隘路が発生した場合には、その手前で発電量を低下させ、そこを通り過ぎた箇所で発電量を増加させるというような司令も出す。同社は昨年、従来型の火力発電設備などを運営する電力会社に出力調整のために2億2500万ユーロ(約254億円)、自然電力買い上げのために3億3000万ユーロ(約373億円)、そして送電網用のリザーブ電力獲得のために1億5000万ユーロ(170億円)支払ったという。
これらの費用は、北ドイツから南ドイツに向けた高圧送電網が完成し、多量の自然電力が障害なしに北から南に送れるようになれば解消すると考えられているが、それが完成するまでにはまだ時間がかかる(「遅れる『電力アウトバーン』」参照)。そして現在は、送・配電網利用代金として電力料金に上乗せされ、再生可能エネルギー促進のための賦課金同様、消費者が負担している。今のところ1kWh当たり0.378 ユーロセント(約0.43円)だが、ドイツ連邦ネットワーク庁は、この代金は当分減ることがなく、そのうち約4倍に膨れ上がるだろうと予測している。
このようなことを背景に、ドイツ政府はこのほど、自然エネルギーの拡大ペースとコストを抑制するEEGの改正案を閣議決定。法案は一昨日、連邦議会で可決された。野党の緑の党などは、「送電網が詰まっているのは環境に悪い石炭や褐炭火力発電のためだ。自然エネルギーの発展にブレーキをかける前に、まずそれらを停止すべきだ」と主張し、自然電力の増加が抑制されることに反対した。改正EEGについては次回に報告する。
今回も、貴重な情報ありがとうございます。それらが寄稿されるたびに、希望を持てると同時に、真逆の愚かな日本のやり方に、情けなさを感じてしまいます。
ごぞんじかと思いますが、日本の電源構成は、2014年にベースロード電源を原子力とし、2030年の原発比率20~22%へ、としました。これを基準としようとしているため、現在でも、電力会社は、太陽光等、自然エネルギーが増えすぎていて、電力網を不安定にする恐れがあるときは、買わない、というありさまです。
たまたま読売新聞をみたら、原発再稼働について、ある大学教授の、「2030年の原発比率20~22%」とするためには、再稼働を進め、それだけでは足りないので、原発新設もする必要があるという話を載せていました。それを前触れのようにして、社説で、同じような主張をしていました。これが日本で最大部数の「新聞」ですから、ドイツが遥か遠く霞んでいくようです。
送電網の混雑を避け周波数の安定を保つために、昨年一年間に約10億ユーロ(約1130億円)かかったとのこと。莫大なコストを要するのですね。もっとも、電力会社に支払う出力調整のための 報酬と、送電網に送り込むことを拒まれた再生可能電力の買い上げ価格が含まれるとのこと。各方面が、できるだけ納得できるよう努力を積み重ね、緑の党の簡単には妥協しない姿勢を含めて、着実に理想に向けて進んでいくようすが伝わってきました。